僕とツバキと変化の時 その⑥
部屋では文さんスギさんの攻防が繰り広げられていた。
「ふん!!・・・」
「離せ!ちょっとちょっとだだけだから!」
ブンブンと首を振り縄を握りしめる文さんは少し目が死んでいるように見える、そんな2人に
「ねえ、2人共何してるの?」
その声にすぐに反応したのは文さんだ、こちらに気付くと明らかにパアっと表情が明るくなり掴んだ縄はそのままにこちらにやって来る。
「・・・お待ちしてました・・!!」
「文さん・・いつからこんな感じなの?なんかゴメンね?スギさん任せちゃって・・」
「とんでもないです!・・これはその・・トシキ様が呼ばれてお出になってすぐ後位からかと・・・」
「トシキ、アンタが謝る必要なんて無いわよ。スギ!!アンタいい歳こいて何やってんの?!馬鹿なの?!」
紫燕姐さん前から思ってたけどスギさんに厳しくない?と思いながらも紫燕姐さんをなだめつつ縄に引きずられて転がっているスギさんを助け起こし腰の縄を解いてあげる。
「・・・!あの大丈夫なのですか?」
文さんが僕の行動に驚き聞いてきた。そんな文さんに僕はそっと耳打ちする
「流石のスギさんだってお客様の前では変なことしない・・・はず?」
「お客様・・・?」
そんな僕の話でやっと見知らぬ人物が居ることに気付いたようだ
「お邪魔でしたでしょうか?申し訳ございません」
「・・・!!いえ!とんでもねえです!!」
文さんは相良さんに気付くと途端に焦り隣の部屋へと続く襖を慌てて閉じその前に仁王立ちすると
「俺はただの護衛・・見張りですので居ないものとして扱って下さい」
「そうでなのですか?・・・そう言えば以前お会いしてますよね?確か花鳥からの言伝を何度か届けて頂いたと記憶しております」
「!・・・はい・・・」
そう声を掛けられた文さんは少し顔色が悪くなって心做しか脂汗をかいているようだ。
「実は以前、羽渡さんを助けた時に一緒に風月に運んだのもこの文さん、文三さんなんですよ」
僕は会話の苦手な文さんに代わって文さんが羽渡さんとも面識があることを伝えておこうと話をすることにした。
「そうだったのですね、その節はありがとう御座いました」
「とととんでもねえです!・・・恐縮です・・」
一介の使用人にも分け隔てなく頭を下げる相良さんに文さんは慌てている。そんな様子に僕は文さんの風月に対する苦手意識が軽くなると良いな・・・なんて考えていた。
「トシキ!そろそろ本題に入ったら?」
紫燕姐さんに促され僕は慌てて2人に向き直ると相良さんが風月の楼主望月さんの秘書で暫く花鳥で共に暮す事をかいつまんで説明した。
「ふうん?それでその羽渡とか言う人物の居場所は見当付いてるのかい?」
今は正気を取り戻しているスギさんが僕が淹れた茶をすすりながら質問を投げかけてきた、どこに居るのかは何となく察しは付いているが口に出すのは憚られつい口をつぐんでしまう。
質問したスギさん自身も思いついてはいるだろうその場所
「アンタ分かってて聞くそのクセ止めてよね!腹立つ!」
紫燕姐さんはそう言いながら何処からか出してきたスリッパでスギさんの頭を叩く、叩かれた方のスギさんは怒るでも無く平然としているが何だろう?段々と僕には夫婦漫才のように見えてきた。
2人のそんな様子に相良さんは呆気にとられながらも
「スギ様は言葉に出すことによって私共の心の内を知りたいのでは?」
そんな助け舟を出す。
「そうだったの?スギさん」「・・・・・」僕の質問に無言になるスギさん
「そんな殊勝な奴な訳無いじゃない相良のダンナは良く取りすぎだわ。甘やかしたらダメよ?」
紫燕姐さんはやっぱりスギさんには厳しい。
正直なところ羽渡さんが【異形の者】だと言う夕鞠さんの言葉を疑うつもり無いが信じたく無い気持ちもある。そんな今の僕達にはその場所について言いにくいってのが大きい。それに確かスギさんの話では妹さんを拐ったとされる人物もこの街にいるらしい・・・そうなるとやはりあの【研究施設】の存在は無視出来ない。
スギさんの妹さんも生前『特別な才能』を持っている人物だったのだから余計に
「あの・・・その事もなのですが・・」
「?何でしょう???」
「実は先程ですが襖の向こう側が見えてしまいまして・・あれは何なのですか?黙っているべきか迷いましたがどうしても気になってしまい・・」
申し訳無さそうに相良さんが質問してきた
「え゙?!あぁああれですか?!アレは(そのなんて説明して良いのか)・・・」
すっかりツバキ(巨大繭)の事を失念していた!どう説明するべきか焦る僕、そんな僕とは違いスギさんは冷静だった
「トシキ、何処まで話して良いのかは君が決めなさい。これまでの事そしてこれからの事を考えるなら君の判断に委ねた方が良さそうだ」
「スギさん・・・分かった」
今のスギさんは僕が知っている以前のスギさんだった
相良さんは現実主義なタイプ、けど実際に見た事や体験した事を受け入れる柔軟さもある。そう感じた僕は出来るだけ誤魔化したりしないで話をすることにした。
この時打ち明けた内容は紫燕姐さんも初めて知る事が多くとても驚いていた。
僕が説明する間ずっと冷静だったスギさんだがツバキの話に触れると徐々に雰囲気が怪しくなりまた紫燕姐さんにスリッパで叩かれていたが、そのお陰なのかスギさんはわりとマトモに受け答え出来る程度に収まっていたので良しとした。この調子で紫燕姐さんにはスギさんの手綱(心理的?)を任せる。
「それにしてもスギに妹が居たなんて知らなかったわ、やけにあの繭?にこだわるのもその妹さんが関係してたなんてね・・それにしてもやっぱり変態臭いわね」
紫燕姐さんは納得しながらもスリッパをスパンスパン自分の手のひらに打ち付けながら『でへでへ』と笑っているスギさんを横目に牽制している。
そしてさっきまで平静に話しを聞いていた相良さんは頭を抱え何だか様子がおかしい
「相良さん?大丈夫?」
少し心配になってたずねてみる。
「すみません・・・キャパオーバーです・・・」
今まで平然としていたけどどうやら無理していたようだ、俯いて頭を抱えた相良さんを覗き見るとその顔は真っ青になっていた。




