僕とツバキと変化の時 その③
祭壇には他に祭事用の徳利と盃があり、その側には玉串と刃に白い和紙のまかれた短刀が添えられている。
そしてその祭壇の前にはジンが祭事の衣装に着替え待機していた。
ダイチとナギは手を繋ぎその前まで進み2人で二礼二拍手一礼しそのまま軽く頭を下げる、そこへジンが紙垂を軽やかに振り祭壇に向き直ると自らも軽く頭を下げ祝詞を読み上げる。
それが終わると玉串を2人に渡し祭壇に2人で捧げた後。渡された短刀でお互いの指先に傷を付け盃に一滴づつその血を垂らすと徳利の水を盃に注ぎ2人で交互にその中身を飲み干した。
2人はまた軽く頭を下げた所で2人が魂で繋がった夫婦であるとジンが宣言する。
略式にも程がある簡易の儀式だったが効果はあるはずだった。
「お疲れ様、これで滞り無く儀式は済んだ。後は一晩過ぎれば安心だ。ゆっくり休むように」
ジンはそう言うと立烏帽子を脱いでその場から去って行った。あとに残されたダイチとナギ気付くとスオウさんも居なくなっていて2人きり
「ダイチ・・・指痛い・・・」
盃に血を入れるために傷つけた指先は思ったより深く切ってしまったようでナギは涙目だ
「お前力入れ過ぎなんだよ、見せてみな」
そう言って指先を確認するとそのままパクリと咥えてしまう。しばらく指先をねっとりと舌で舐め取ったダイチはやがてその指を口から離すと
「やっぱ直にだと鉄の味がするな」
そう言って唇を自分の指で拭う。あまりに突然の事に言葉が出ずにいた彼女はその直後突然しゃがみ込んだ
「どうした?!そんなに嫌だったか?!」「違っっっ!!お腹痛い!!何か変なの!!」
ダイチは自分では歩けそうも無い彼女を抱きかかえ家へと向かい
「スオウさん!!ナギが!!」
一足先に家に戻って行ったはずの彼女の父親を呼んだ、しかし突然その家が火柱に包まれた。その直後には耳を劈くような『ドン!!』という雷の音が辺りに響き渡った
眼の前の状況を飲み込めずに呆然とその火柱を見つめる2人に
「祭壇へ戻れ!!」
そう叫んだのは帰ったと思われたジンだ、縄を携えて走り戻って来る所だった。あまりの出来事に歩けないナギを抱き上げ走るダイチ、フカフカの畑の土に足を取られながらも祭壇へと戻り姿勢を低くしてナギの頭を庇う、20メートルは離れた家から火の粉が降り掛かって来たからだ。
ジンは2人の周りを縄で囲むと祭壇の徳利に残っていた水を2人に撒き九字を切った
『臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!!臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!!臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!!』
それは何度も繰り返し唱えられ、やがて火は落ち着き気がつけば一瞬で立ち込めた雷雲も消えていた。
遠くから消防車と救急車のサイレンの音が近づいて来る。誰かが火柱に気付いて呼んでくれたのだろう。
ふと見るとナギは気を失っていてダイチの腕や手には血液が付着していた。しかし何処にも怪我は無く、それがナギの女性になった印だと気が付いたのは救急車が到着してからだった。
「すまない、私の落ち度だ・・・」
そう呟いたジンのあんな顔はダイチは初めてで責める事もなじる事もましてや何時ものように軽口で返すことも出来ない。
翌日、焼け落ちた跡からスオウさんの遺体が見つかったと病院へ知らせが来た。その遺体の手にはナギの母親の物と思われる指輪が握られていたそうでジンが手を回したおかげなのか直ぐにナギの所へと届けられた。
その直後ナギは過呼吸をおこしダイチが自身を使って口を塞ぎ大事には至らずに済んだが、唯一の肉親の父親も住む家も失ったナギは何も話さなくなった。
「ナギ一緒に暮らそう!」
俺のその一言で俺達2人の暮らしが始まりを迎える。はずだった
精神的にまいっていたナギの入院が長引いたその間にダイチは住む所を整え退院の日、病院へ迎えに行くと一足早く来ていたジンにナギは連れて行かれた後だった。
まさかと思いその足取りを追うと1ヶ月後、彼女の祖母が修行したと言う山奥にある寺、そこに居ることが判明した。
「ジン!何でナギをこんな所に?!」俺は直ぐにそこへと向かいジンを捕まえ問い詰めた
「彼女はある程度自身の能力をコントロールしたい、出来ないとまた同じ事が起きるかもしれないと自ら私に頼んできたんだよ」
「アイツはまだ保護者が必要な年齢じゃないか!」
「お前はあの子より早くから修行しただろ、心配するなお前の時程過酷な修行はして無い」
「それが信用ならないのは経験上知ってるんだよ!」
そう言ってダイチははジンに掴みかかる、
「・・・ダイチ?」
その時ナギが声を掛けてきた
「ナギ!!迎えに来た!一緒に帰ろう!!!」
「・・・・ウザッ!!」
ほんの一ヶ月の間にナギは反抗期を迎えていた。
ダイチは本気の『ORZ』の体勢で暫く動けなくなり、修行の邪魔だとジンによって門の外へと捨てられた。
この事があった何年も前からジンはある種の【才能】を持った子供達を集めていた、それはとある研究施設からの要請だった。人間の『心の持つ力』について革新的な研究で成果を上げていた。
それは呪を反転させるといった類の研究がメインでジンは当初その話に思う所があり協力していた。
だが時が経つにつれその研究は明らかに脱線し周囲に集まる連中も私利私欲にまみれた者達によって固められて行く。
そして集められた才能ある子供達の行方が一人また一人と分からなくなり、ジンは研究施設の協力を止め。子供達の行方を探り始めたが、ある日道端で倒れそのまま亡くなった。
ジンが亡くなる直前に花鳥に連れて来られたのがこのナギこと夕鞠だった。
飛び抜けて才能のある子がいるという話を何処からか聞いてきた施設員がナギをを狙っているとの情報を仕入れたジンは『木を隠すなら森の中』そう楼主に持ちかけてきたそうだ。
少しでも手出しがしにくいようにとナギは楼主の娘として戸籍も改ざんする徹底ぶり、そのお陰で夕鞠は今も花鳥で暮らしているのだ
修行のお陰で能力も安定し『未来視』の巫女としての能力も開花した。




