僕とツバキと変化の時 その①
僕達は若い衆さん達にお願いして座敷を用意して貰い場所を移すことにした。相良さんに人払いをお願いされ大丈夫だからと僕達3人にして貰うため部屋の外で見回りの人が待機するのを条件に了承を貰った。
「ごめんなさい、騙すつもりなんて無かったんだ・・」まず僕は謝罪した。
「・・・」望月さんは無言で僕をジッと見ている。
「何か理由があっての事でしょう?その話は取り敢えず後にしましょう・・・楼主様?」
「え?・・今の格好は?なに?」
「楼主様・・・その話は後からと・・」
「だって男の子なのに?ここ花鳥だし?変じゃない?!」
「・・もう良いです貴方は黙っていて下さい!それで本題なのですが・・・」
そう言って相良さんが事情を話始めた、ざっくり説明すると僕に使いに行かせた羽渡さんが戻っていないと言う内容だった。一晩帰らない程度ならこれまでもあったがどうやら今回は違うらしい。置き手紙が自室にあったようだ
『もう戻れない』
そう一言だけ。
「どう言う事?!」
「分かりません、なので手掛かりを探しに来たんです。昨日、彼は何か言ってませんでしたか?」
「う〜ん、特に変わった事は・・・帰り際に『また逢ってくれる?』って聞かれたくらいで・・」
「・・・そうですか、なら貴方には逢いに来るかもしれませんね」
「・・・・」望月さんは何か思い詰めた顔をして黙っている
「家出なのかな?」
「違いますね、うちらの業界では『足抜け』と言う扱いになります」
相良さんはそう言った
「相良!まだそうと決まったわけじゃ無いだろ?!」焦ったように止める望月さん
「足抜けって・・・?」僕は恐る恐る聞いてみた。
「足抜けなら重罪、一昔前なら拷問されて死んでも文句は言えない程だが・・そうだね今なら半殺しかね?」
そう言ったのは花鳥の楼主だった、その後ろにはダイチもいた
「楼主さん?!嘘でしょ?今の時代にそんな事・・・」
そうだったここは外とは違う『犯罪者の楽園』だ。ここのルールがある。僕は言葉の続きを飲み込んだ。
「アンタらアタシが居ないうちに何勝手に上がり込んでんだ?!どんな了見だい?!」
花鳥の楼主さんはご立腹だ。その反対に風月の楼主である望月さんは冷静に見える。違った、その目はダイチに釘付けなだけだった。
僕は少し肩の力を抜いて質問した
「ダイチと楼主さんは?ずっと2人一緒だったんですか?」
「ああ、久々に2人で出たついでに一緒に食事してきたのさ、ダイチの奢りでね」意味ありげに視線を望月さんに向けてそう言った
「なあんですってぇ?!ダイチ!ぴちぴちの私よりそのしっわしわのババアなんかと?!」
「誰がしわしわババアだって?!この若造が!!」
「ちょっ!2人共止めて下さい!それどころじゃないでしょ?!」僕は慌てて止めに入る
ダンッ!!!突然テーブルを叩く大きな音と
「お止め下さい楼主ども!!!」
「ふへ?」「・・・?!」
やけに丁寧な暴言が聞こえた。相良さんだ。そしてマヌケな声の主は望月さん花鳥楼主は絶句している。
「失礼致しました、とにかくそれどころじゃありません。・・・改めまして花鳥楼主「静」様には謝罪とお礼を申し上げます。そして今日の非礼も合わせて謝罪致したく何卒お許し下さい。」
相良さんは美しい所作で姿勢を正すと楼主静へと深く頭を下げた。その隣ではふてくされてはいたが望月さんもゆるく頭を下げ謝罪の意を示した。
「楼主さん2人をこの座敷へ上げたのは僕なんだ!勝手なことしてごめんなさい!」
そう言って僕も頭をさげる。
「はあ・・・もう良いさね、アタシも大人気無かったんだ3人とも頭を上げな」
その後、ダイチと花鳥楼主を交え相良さんが改めて事情を説明した。
「置き手紙ね『戻れない』だっけ?」そうダイチが聞き返した
「はい、そこは私共も気になっておりました・・」と相良さん
「戻らないでも帰らないでも無くそう書いたって事は『戻りたい帰りたい気持ちはあるが出来ない状況』と言う意味に取れるが?アンタらにも心辺りは無いのかい?」
そう聞き返したのは花鳥の楼主だ。
「残念ながら・・・」「私にも無いわ」
風月の2人は否定した
「直ぐには戻れないとか言う意味かも!なら待ってれば!」
「トシキそれは無い」ダイチが止めた
「でも!!」僕は納得出来ない
「仮にも風月の『顔』としてデビューしている以上メンツに関わります。放おってはおけず今夜にも足抜けとしての捜索に切り替えなければいけません」
相良さんは淡々とそう告げた。
僕は何とかならないのかと皆の顔を見回すが誰一人として大丈夫だとは言ってくれなかった。そんな重苦しい空気の中
「楼主!夕鞠と紫燕が用があると来ておりますがお通ししてよろしいでしょうか?」
新たな来訪者を告げる声が掛けられた
「客人の相手の最中だよ!なんで今・・・・いや、良いタイミングかもね・・2人を入れな!!」
夕鞠、紫燕の2人が座敷に招かれ一気に場は華やかにはなったが重苦しい空気はそのままで僕は息が苦しくなった。気が付くと嗚咽を上げボタボタと握りしめた手に涙が落ちていた。そんな僕の手を握ってくれたのはついさっき入って来た夕鞠さんだった。
「大丈夫よ」
夕鞠さんは僕が今すごく欲しかった言葉をくれた。僕は夕鞠さんに抱きしめられ泣きじゃくり紫燕姐さんには呆れたように
「大人の話に子供一人なんて心細かったわよね」
そう声を掛けられハンカチを差し出される僕はそれを受け取って顔を押さえコクコクと頷いた。
僕は見ていなかったけど周りの大人たちはかなり気まずい顔をしていたようだ
「夕鞠それで?何か感が働いたのかい?」
「はい、流れが変化致しました。それが先程ハッキリと・・・」
「そうか・・今回は変えられそうかい?」
「はい!」
夕鞠さんに抱きしめられたままの僕は力強く返事をする声の響きを直に感じてすごく安心したそうしたらまた涙が溢れそうになり急に恥ずかしくなった。
夕鞠さんの腕から離れようとすると何でか少し寂しそうに僕を見つめる夕鞠さん。そしてそんな僕達にダイチが割り込んで僕をあぐらをかいた自身の膝に乗せてしまう。
そんな様子に夕鞠さんと紫燕姐さんはキョトンとした後クスクスと笑い始めた。




