僕と種と その⑥
「2人共落ちついた?もう勘弁してよね」
「スマン、つい興奮してしまって・・・」
「・・・・」
「反省してるみたいだし今回はもう良いですよ、でも・・・スギさんはツバキには触れないようにお願いします」
「え?何で?何でダメなの?俺お兄ちゃんなのに?」
スギさんはほんの少し見ない間に色々悪化していた
「・・・お兄ちゃんじゃないでしょ?そんなんじゃツバキに嫌われますよ?」
呆れつつも僕は優しく諭す。
「でも・・・・」
「でもじゃありません!ダメな物はダメ!」
中々にしつこい、そして思い込みとは本当に怖い。僕が目配せするとすぐに僕の意図を汲み取ってくれ動いてくれる文さん。
僕が隣へと続く襖の前に立ち塞がり怯んだ所に文さんがスギさんを抑え込む、取り敢えずツバキに本能のままに突撃されないように腰に縄をくくりつけ、その縄の先は文さんがシッカリ握りしめている。コレでツバキの安全は確保できたはずだ。
僕はそれを確認し襖を開いた、開けた襖の先にはツバキ(巨大繭)が鎮座している。
「ツバキたん・・・本当に大きくなって・・ん?と言うより巨大だね?想定より巨大じゃない?コレ?」
スギさんはちょっとだけ判断能力と正気を取り戻したようだった。
「ちなみにダイチからは何て?」そう僕が問うと
「樹の実を食べたら成長したとしか聞いてないが?」
「・・・端折り過ぎだよダイチ・・・」
情報は正しく伝えて欲しい、まあ当初の様子からちゃんと伝えてもスギさんが興奮し過ぎて聞いてなかった可能性が高い。仕方無く僕は事の経緯をまた説明する事にした。
そんなやり取りをしていた場面を1羽の烏が見ていた事に僕達は気が付かずにいた。
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「もう少し・・もう少しだよまた逢えるね椿・・・君と・・」
無機質で薄暗い部屋の中、男の呟きがボソボソと聞こえる。そんな後ろ姿を虚ろな瞳で見つめている真っ黒な固まりがあった。それは形を保てないのか身体の所々がボタリボタリと落ち崩れていく。
「御主人様・・・僕は・・」
「・・・・なんだまだ居たのか、さっさと行け!邪魔だけはするな!」
「・・・・」
「ふん!仕方無い!少しは役に立ってもらわなければな・・・!」
そう言うと引き出しから1本の薬品を取り出し黒い固まりに振り掛け半分ほど残った薬瓶を床へと落とした。黒い何かはそれを慌てたように拾いあげると残りを口へと運び飲み込む、少しの間があり身体のドロリとした物が剥がれ落ちていく。
その様子を少しの間見ていた白衣の男は興味を無くしたのか後ろも振り返らず部屋を出て行った。
後には床に黒いシミが広がりその中心に残された『それ』が苦しげにもがきやがて耐えられなくなり絶叫する。
(僕はもう・・・御主人様・・・・・・トシキ!助けて・・・!)
部屋へ響き渡るその叫びは何処へも届かず、ただコンクリートの壁へと吸い込まれ消えていった。
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僕は誰かに呼ばれた気がして顔を上げた。
「誰か呼んだ?」
「??なんだ?それよりそっちちゃんと固定してくれ上手く測れない」
「あ、ゴメン・・こんな感じ?」
「ああいい感じだ、そのま押さえておいてくれ!」
スギさんと僕はツバキ(巨大繭)の身体(?)測定をしていた。スギさんの想定より大きいとの事で正確な大きさと摂取した樹の実の量と種類、それとツバキは今も膨らんでは縮みを繰り返している、それも調べたいらしく最大と最小の大きさも測るため中々に苦労している所だ。
「・・・・俺にも手伝えることありませんか?」
文さんがそう申し出てくれたが僕はそれを断った。油断してまたスギさんが暴走モードに突入しないとも限らないからだが、縄を掴んでいる簡単なお仕事だけでは物足りないようだ。
それならばと僕は文さんに霧吹きをお願いすることにした。念の為に持っていた縄の端は文さんの腰帯に括り付け何かあっても対処出来るようにしておく、これなら大丈夫だろう。
今日のツバキは意外にもスギさんが近くに来ても無反応で助かったがそれはそれで心配になる、眠っているのかもしれないが何だか少し嫌な予感がした。
そうしてる間に昼になり計測も一段落した頃、スギさんの分も昼餉が届けられ一休みすることにした、しかしスギさんは食べながらも何やらノートに書き込んではブツブツ言っている。行儀が悪いと注意はするが聞こえて居ないようだ。
文さんには僕が一緒に座って食べようと誘ったが見張り役として座るのはダメだと聞かなかった、本当ならダメなんだろうけど僕達だけってのは食べづらいからと強くお願いした結果、譲歩してくれて今は立ったままオニギリを食べている。
そうして僕は食後のお茶を淹れしばしのくつろぎタイムを堪能していると来客の知らせが来た。
なぜ僕に?と思ったが今は楼主もダイチと出掛けていておらず、その人はどうも僕をご指名らしい。
スギさんは相変わらず周りが見えて無いし動きそうに無く、ツバキの事もあるからと文さんには引き続き見張りと警護をお願いして部屋に残って貰う。文さんは僕が部屋から出る事に難色を示すが花鳥からは出ないと約束し若い衆に付いて行くとそこには見覚えのある人が立っていた。
風月の楼主、望月さんと秘書の相良さんだった。
「どうしたんですか?2人共?!」
僕は慌てて2人の元へと急ぐ
「???」「???」
2人共僕を見て不思議そうな顔をしている
「???」「??!!」
相良さんは何かに気付いたようだ、ほんの数日前に会ったばかりなのにどうしたんだろうと不思議に思っていると
「・・・万季様ですか?」
そう相良さんに聞かれ気付いてしまった、
今の僕は女装していない!!




