僕と種と その④
「文三・・・お前なんでそこに突っ立ってるんだい?」
文さんは楼主さんにそう言われ少しビクッとしてしまうが隣へと続く部屋の前で仁王立ちになり腕を組んでいる。
「・・・見張りですから・・・」
そしてそう一言だけ言うとそのまま楼主さんに視線を向けないように斜め上の天井辺りをジッと睨みつけている。
「そうかいまあいいさ。それで?せっかく来たのに茶くらい出ないのかい?」
「そ、そうですね。お茶くらい出さないとですよね!」
「・・・・・」
楼主さん自らこの部屋まで来た事に僕は慌ててしまい噛み噛みになってしまう。お茶を出すと言ってもお茶っ葉も茶器も花鳥の物なので変な感じだが礼儀と言われればその通りだとしか言えない、僕は慣れた手つきでお茶を淹れそっと差し出す。
そのお茶を見つめる楼主さんは何だか少し様子がおかしい何か話したい事でもあるんだろうか?
「あの・・」僕が疑問を口に出そうとした時
「トシキ・・アンタはどうしたい?」楼主さんにそう聞かれた
「アタシはね、アンタはここを離れた方が良いと考えてる。勘違いするんじゃ無いよ?出て行けと言ってるんじゃ無いんだ」
「どうして?」
「アンタは良い子だ、だけど烏に目を付けられた。アレは異形で逃げるにはもう外に出るしか方法が無い」
「・・・・・」
「ついこの前までは何かの間違いか何かだと思っていたんだ、だけどこれ以上はダイチにもアタシにも守り切れないかもしれないよ?」
楼主さんが言ってる事は分かる、本当に危険なのかもしれないけど僕だけ逃げたとしてその後はどうなるんだろう?
僕はそう考えて聞いてみた。
「僕が逃げたとして楼主さんは?他の人は?危険じゃ無くなる?」
「・・・うちらは慣れっこさ」
「そっか、心配かけてたのか・・・ありがとうございます。でもね僕は逃げたいとは思わないんだ。楼主さんがそう言うって事は本当に危ないのかもしれないけど、それでも、僕には無関係だなんて思えないから」
それを聞いた楼主さんは少し息を飲み、その後軽く息を吐くと
「・・・そうかい、気が変わったら言うんだよ。あまり猶予は無いはずだけどさ」
そう言って楼主さんはお茶を一口すすると立ち上がった。
「戻ったぞ!!」
そこへダイチが帰ってきた、もちろんスギさんを連れて・・・
「ツツバツバキたんは?!?!」
そう言ってズンズンと隣の部屋へと向かうスギさん、余りの勢いに文さんが一瞬怯むがすぐに両手を広げ立ち塞がる。
「どけ!!邪魔するな!!」
「・・・・」
立ちはだかる文さんとそれに立ち向かうスギさん、先に動いたのは待ちきれなかったスギさんだ。押しのけるように文さんに掴みかかる、しかし所詮横に大きいだけのスギさんは鍛えている文さんの敵では無くアッサリ横に足払いされ倒れる。
だがスギさんは凝りもせずに向かって行くそしてまた簡単にコロリと倒されていた。
その一部始終を見ていた僕達は何やってんだ?って感じだったがハタと気付く、まだここには楼主さんが居る!非常にマズい!
呆れ顔で2人を見ている楼主さんのその後ろからコッソリとダイチに床の事とこのままでは怒られるだろう事を伝える。僕の話しを理解したダイチは慌てて楼主さんに話しかけた
「そうだ!!ババア!話がある、ちょっと付き合え!」
そう声を掛けると楼主さんの肩を抱くようにして部屋の外へと連れ出しにかかった。流石ダイチっだ!と、ほんのちょっぴり見直しつつ2人を部屋から送り出し、さっきからずっとの子供相撲のような状態の文さんスギさんに向き直る
「2人共!!ストップ!!止まってよ!!そんな場合じゃないってば!!」
義務感に駆られてるらしい文さんにもシスコン(?)変態パワーに突き動かされているスギさんにも僕の声は中々届かず暫くはこの子供相撲な2人に付き合う羽目になった。
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「ダイチ!いきなり引っ張り出していったいどういう了見だい?!」
「・・真面目な話があるんだよ、良いから付き合えババア」
いつに無く真剣な眼差しのダイチの言葉に付いて行くしか無くなる。その背中は昔馴染みのジンと重なり、あの日を思い出しツキンと胸の奥底が痛んだ気がした。
(あの男も何時も飄々としてるくせに時たま本気な話がある時は突き放すような背中と冷めた目をしていたねぇ・・・血も繋がってないのに良く似てるじゃないのさ・・・)
奥座敷に行くものと思っていた楼主、しかしダイチが連れて行ったのは花鳥の外、それも大きな通りに出て暫く行った先だった。
そこは1階から3階には小さな喫茶店やカラオケスナック等の雑多な小さな店が数店舗入っており4階と5階は単身向けマンションになっている割と何処にでもありそうなビルで、周りの建物よりは多少高さがある程度の物件だ。
ダイチは迷いなくそのビルへと入るとエレベーターに乗り込みその後に楼主が続く、そしてその扉が閉まるとRのボタンを押した。
屋上へと続く扉は何時も鍵が掛かっていたがダイチは自身のポケットから鍵束を取り出しそのうちの一つで扉を開く。ここもダイチがジンから引き継いだビルの一つだ。
長い付き合いの楼主でさえ知らなかった物件、そしてそれを初めて知った瞬間でもあった。しかし年老いた楼主にとってそこまで驚くことでもなく(ここもそうなのか)と考えた程度である。それ程ジンと言う人物は様々な形でこの街に外に影響力のある男だった。
「なあババア、いや、花鳥楼主。アンタはまだ俺に隠してる事があるよな?それも重要な事を」
「・・・何の事だい?沢山在りすぎてわからないね」
「あの施設の事だ!確かな筋からジンが投資してたと聞いた。アンタも一枚噛んでたんじゃないのか?」
「なぜそう思うのさ?」
「先代の楼主、アンタの死んだって言う旦那・・・前から気になってたんだ調べても墓も無い、写真すら無い、故人だってのに戸籍は残ってたオカシイじゃねえか」
「調べたのかい・・・」
「あぁ・・・」
やや暫くの沈黙の後、年老いた楼主は苦しげに言葉を紡いでいく
「亡八ってのは恨まれ呪われ憎まれる仕事、それは承知のしていた。でもね、いざ本当に『呪』に掛かっちまったら怖くなったのさ人の感情が作り出す【負の力】ってヤツが。馬鹿な男さ」
「8つの徳を忘れた男が恐怖を感じたと?」
「そうさ、だから研究所にすがった。自分が助かる為にね?ジンの思惑は知らないけどさ、あの施設に莫大な資金を出したのは『国』のお偉いさん方、『資産家』のジン、『花鳥』の前楼主、それだけじゃなく他にも何人もが金を出し出来たのがあの施設だよ」
そう言うババアの見つめる先に例のコンクリートと鉄塔、枯れ木が絡んで出来た建築物があった。




