僕と種と その②
翌日、朝早くに僕は叩き起こされた。
「トシキ!やばい!起きろ!」
「うう〜ん・・なに〜?」
「起きろって!」
そう言うと布団ごとズルっと引っ張られ『メコッ』何か重い物が床にめり込んだ様な音がする。目をこすりながら上半身を起こすと僕の足があった場所にツバキ(繭)が落ちていた。しかしこんなに大きかっただろうか?寝る前は確か畳半分より小さかったはず、今は畳2畳分より大きい。
「ツバキ〜?なんかおっきくなった〜?良かったねぇ〜?」
そう言って抱きついてツバキ(繭)をナデナデする。
「寝ぼけ過ぎだ!」
スパーーンッとスリッパで叩かれた。
「もう少しで身体の半分が潰れるとこだったぞ!!」
「・・う?・・・えぇ?」僕はまだシッカリ寝ぼけていた。
その後シッカリ目が覚めて改めてその惨状を見る。
ツバキ(繭)がとんでもない大きさになっているのは言うまでもないが、その全体の5分の1位が畳にめり込み、繭自体は赤ん坊が呼吸をしている時のお腹みたいに膨らみ縮むを繰り返す動きをしている。しかし呼吸らしき音は全くせず膨らんだ時に僅かに空気が揺れるだけだ。
「お前が退く直前まで落ちないよう踏ん張って見えた。案外内側からコッチの様子が見えてるのかもな?」
朝方に戻って来たダイチが部屋に入ると糸がミチミチと音をたて千切れ始めていて見る間にツバキ(繭)が大きくなっていき、今に至るそうだ。
「昨日の話で出ていた樹の実だが、与えて良いのか悩む所だな」とダイチは腕を組んで唸る。
今は成長は止まったが食事を与えたらまた大きくなるかもしれない。
「うん、一気に沢山あげたのが原因なのか種類が多かったからなのか・・・良く分から無いしどうしよう?」
「仕方無い、スギを呼ぼう・・・」
「スギさんか・・大丈夫かな?またおかしくならないかな?」
「ダメそうなら縛って戻して立入禁止だな」とダイチ。
「え、何となく可哀想」と僕。
「何となくなのかよ!せめて可哀想だって言い切ってやれ!」
「ごめん僕、嘘はつけないよ」僕は真面目に答えた。
「それ本人には言うなよ・・・スギ余計に傷付くと思う」ダイチも真面目に答えた。
その頃スギは盛大にクシャミをしてツバキの検体を一つダメにした。
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言伝を頼むより直に連れてきた方が早いと言うことでダイチはバイクで迎えに行き、僕はまた留守番だ。
ダイチが居ない間は近くに何人か護衛を付ける事になり昨夜も外と部屋の入口に何人か若い衆や見回り役が交代で付いててくれている。
ちなみに今日は昼過ぎには文さんが来てくれる事になっている。
取り敢えず僕は千切れて散乱したツバキの元髪の毛だった物の残骸を片付ける事にした。取れる分だけ手でかき集め布団に付いた物は散らからないように軽く叩いて落とし一箇所に集めるようにする。
粗方片付いてツバキを見上げる、少し乾いてる感じがしたので先に霧吹きで水分をあげることにした。しかし畳のめり込みを見る限りまた修理が必要になるのは確実だ、それは楼主に怒られるのも確実と言う事がトシキをさらに憂鬱にした。
新しく霧吹きに特製肥料を入れ水で薄めて上から順に霧吹きしていくと何となく表面が潤い艷やかになっていく、残念ながらてっぺんまでは霧吹きが届かないが後で踏み台を用意するか文さん来たら頼むしかなさそうだと考え、取り敢えず程々で止めておく。
入口で待機していた使用人さんにお願いし掃除用具を借りて残りの残骸を回収しゴミ袋に詰めた所で朝ごはんを持ってきてくれた禿達へお願いして捨てて貰う事にした。
朝ご飯はいつも大体自分で取りに行って居たが今日から暫くは手の空いた禿が運んでくれる事になっている。楼主さん曰く
『お前がウロチョロすると問題が起きる』とか・・・酷い言われようだが否定も出来ないのが悲しい所だ。
今日は納豆と漬物、菊の花とほうれん草のお浸し、味噌汁はワカメと豆腐、鯵の開きだ。それに米櫃に4合ほど入った白飯が付いて来たが、そのほとんどがダイチのお腹に入る予定だったが肝心のダイチは出掛けたのでダイチの分の御膳は引き取ってもらい白飯の残りはオニギリにしてもらおうとそれも伝えてお願いしておく。きっとスギさんが来る事も伝えて無いだろうと楼主さんにその旨の伝言もお願いした。
禿達は快く承諾してくれ余った御膳と白飯を引き取って行った。
僕の食べ終わった後の御膳は部屋の入り口に出して置けば回収してくれるため完全に『上げ膳据え膳』。有難いが僕は朝ご飯を食べてしまうとやる事が無くなり暇を持て余してしまう。
そう言えば花鳥にも風月にもテレビやラジオが無かった事を思い出した。エルデにも無かったせいか今まで不思議に思わなかったが普通に電気は通っているのに情報元になりうる家電は無い。
そこまで考えてこの街は『牢獄』だった事を思い出した。
だからこその情報規制と考えればあり得るのかもしれないが、そうだとしても外の情報が全く入らない事に違和感を覚える。普通の刑務所だってもっと外部の情報は入るのでは?
まだまだ僕達が知らない何かがこの街にはあるようだと僕はツラツラと考えていた。
そしてあの大鴉。
いったい何者で何の為にツバキを狙ったのか?どうやら殺すのが目的では無いことは分かった。殺すだけならあの時すぐに繭を攻撃したら良かったのにそうしなかった。僕のことだってそうだ、きっと殺ろうと思えば出来たはず。
なのにしなかった、目的はツバキの誘拐?
大鴉はツバキの正体を知っているのかも・・・いや、大鴉すら操る『誰か』が居るとしたら?
そこまで考え僕は背筋が寒くなった。




