僕と種と その①
戻ったのは夕方、日がすっかり落ちた頃だった。
バイクで出掛けていたダイチは大暖簾を入ってすぐに何があったのかを伝え聞いたらしく足早に部屋へと戻ってきた。
「トシキ!!」
ドカドカと部屋に入り僕が無事かどうかペタペタと調べ始めた。
「お帰りなさいダイチ僕は大丈夫だから」
バッと今度はツバキに向き直ると何事も無い様子にホッとしたのが分かる、
「実はツバキの繭1回裂け目が出来て・・・?」
文さんの様子がおかしい、続いてダイチの視線もまたツバキに戻っている。そして僕もツバキへと視線を向けた。裂けてる。ぱっくりと。
「ツツツっツバキー!!!」ダイチが絶叫し文さんが倒れた。
僕は2回目なので比較的冷静だった、それでも文さんが倒れたのには驚いてしまいワタワタしてしまう。
「ダイチ!大丈夫だから!1回裂けたけど自分で修復出来るみたいだから!」僕がそう叫ぶと繭の前で焦ってオロオロしていたダイチがその動きをピタリと止め
「マジで?」とこちらに問いかける。
「マジで!」と僕が返す。
ヘタリと座り込んだダイチは
「驚かすなよツバキ、どうしたんだ?早く閉じないと中が乾かないか?霧吹きするか??」
そう声を掛けている、裂け目からはトロンとした白い何かがモニョモニョと動いていて何か探している感じがする。
僕はツバキがまたギンナンを探しているのかもと思いついたが部屋のギンナンは全部無くなってしまっている、その事を伝えるとダイチは少し考え
「ちょっと待ってろ」
そう言って部屋を出ていってしまった、倒れた文さんとツバキを放おっておけず僕は文さんの介抱をしながらツバキに呼び掛けし待つしかなかった。
やや暫くして何かを持って戻ってきたダイチはすぐにツバキの元へと向かい袋の中から取り出した実を白いモニョモニョした所に差し出した。モニョツバキが反応しそれを取り込み始めた。僕は驚き
「ダイチ!それ何??!!」
「キヨ婆んトコの梅の実だ、今年は豊作だったらしくてな貰って来たんだよ」
「キヨお婆ちゃん?!元気だった?!」
「相変わらずだったよ野菜食えってウルサイ感じとか」
「そっか会いたいな・・・で?なんでツバキは梅の実を食べるって分かったの?」
「スギがな、樹の実がカギになるって言ってたんだ他の物を食べた時とは違う反応を示したのは樹の実を食べた後だけだってよ」
「スギさんが?!・・・言われてみたらそうかも!」
「まあスギだって伊達に変態・・・じゃなく研究もシッカリしてたっつうこった」
(ダイチも変態っぽいって思ってたんだ・・・)そんな事を思ってしまうトシキだった。
モニョツバキはダイチに与えられた梅の実を全部食べ終わると満足したのかまた自分で裂け目を閉じていく、お腹イッパイのになったのが見た目でも分かるほど全体的にポッコリした気がする。
ダイチがそんなツバキ(繭)にスギさん特製栄養入り霧吹きをシュッシュッとしながら
「今回の事でツバキの食事の確保を何とかしたいと思うんだが」とダイチ
「樹の実か、この季節なら・・・柿?とか?」と僕
「柿か、種あったか?」と首をかしげるダイチ
「無かったかも?」僕は前に食べた物を思い出す
「・・・ありますよ」
そう言ったのはやっと目を覚ました文さんだ。
「最近の柿は種無しが主流ですが原種に近いものにはあります。たしか西区にある職人街にあったはずです、ただ・・・」
「ただ???」
「烏の縄張りだったかと・・・・」
「あぁ〜・・・」「あぁ〜・・」
(悪い予感しかしないって感じだぁ〜)僕とダイチには鬼門だよね〜
「そうだ!とりあえず風月から貰ったギンナン!楼主さんにお願いして貰おう!」
「風月・・・・」「風・月・・・」
今度は文さんとダイチが嫌な顔をする。
「ち違う違う!風月から花鳥の楼主さんが沢山貰ったはずなんだ!」
「ババアが?早く言えよ〜また行かなきゃならないかと思った」「・・・ほう・・」
途端に安堵する2人(そんなに嫌なのかな?)僕にはよく分からないけど大人は何かと大変なんだと思うことにした。柿の事もギンナンについても花鳥の楼主さんに相談してみるとダイチが引き受けてくれ早速、楼主さんの元へ向かったので他にも何か無かったか僕と文さんが知恵を出し合うが、樹の実という縛りだと中々思い付かない。そこへ紫燕姐さんが現れた。
「人間が食べられない物でも良いならあるけど?」
「人間が食べられない?」「・・・・・?」僕と文さんは2人で首をかしげる
「この季節なら普通にあるじゃない」紫燕姐さんは不思議そうだ
「それ教えて下さい!」「・・!!!」2人で勢い良く頭を下げる
「南天って言う野鳥が食べる赤い樹の実よ良く見るじゃない、ウチの庭園にも成ってるし」
「姐さん、確か七竈も赤い樹の実が成りますよね?」
「そうだった!エンジュあんた良く知ってたね!この2つは良く似てるけど種類は違ったはずよ?それもウチにあったわねぇ」
似た実だと見分けがつかないかもと心配だがこの2人に見せたら分かりそうだ。そんなやり取りをしているうちにダイチが戻ってきた。
「まだ火を通してないギンナンがコレしか残ってなかったが代わりにババアがコレくれた」
そう言って戻ってきたダイチの右手には小さな瓶に入ったギンナンと何かの実が3個付いた枝があった。その枝には葉っぱが無くて枯れてるように見えたけど実は丸々としてほんのり赤く色づいている。パッと見、でっかいブルーベリーみたいな見た目だけど僕は初めて見る樹の実だった。
「それなに?食べられるの?」
「食べられるが野生種だから酸っぱいだろうな、柘榴って言うんだが知ってるか?」
「ザクロ?知ってる!でも南国フルーツのイメージだった!」
「最近良く店で見られるのは大体が南から来てるからね、でも結構昔から日本にもあるのよ?『柘榴は人間の味がする』なんて言われてるわ」
紫燕姐さんがそう教えてくれた。
「鬼子母神のお話しですよね?」そう言ったのはエンジュだ。
「そのお話し聞きたい!後で教えてくれる?」僕はそうエンジュにお願いしてみた。
エンジュは少し恥ずかしそうにしながらもコクリと頷き了承してくれた。少しは仲良くなれたみたいだ。
「それと柿なんだがこの前壊れた襖なんかを修理してくれた大工が西区に住んでるって話だババアがソイツに頼んでみるってよ」
「流石、楼主さんだね顔がおおきい!」
「・・・それ言うなら『顔が広い』な?」
ダイチに冷静につっこまれた、紫燕姐さんが悶絶しているその隣でエンジュまで顔を両手で隠し耳を真っ赤にさせ肩を震わせていた。
文さんだけは何事も無かったかのようにしてたけどダイチが
「ババアの顔はデカいが本人には言うなよ・・・」
そう真剣な顔で言った途端に盛大に吹き出していた、ただの痩せ我慢っだったようだ。とりあえずダイチには後で復讐をしようと誓った。




