僕と逞しいオネエさん その④
ひとしきり賛辞を送り落ちついた頃に給餌の人達が3人のために椅子を用意し簡単に摘めるツマミとお酒を用意し下がって行く。
しかし望月さんはダイチの隣に陣取り動こうとしない。ベッタリとくっつきお酒を勧めている。
僕はそんな2人を横目に羽渡さんに話しかける、
「今は大丈夫そうに見えるけど身体は平気なの?あの後、お医者さんには診てもらった?」
「大丈夫ダヨ、心配かけてゴメンね?たまにあるんだ・・・でもあの時は急におかしくなって本当に助かったヨ」
そう言って微笑む
「ホントに?・・・なら良いんだけど・・無理しないでね?」
「ウン!」
「この羽渡は風月の看板、とは言っても最近お披露目したばかりなんですよ。花魁道中はご覧になられましたか?」
と相良さん、
「・・・実は最初だけ疲れて寝ぼけながら・・・」
「なる程、では知らないのも当然かと。」
「???」
「花魁道中が僕のお披露目の日でもあったんだ、風月が道中の『最後』を務めてるんだケドその時の最後を飾る舞いを披露したンダヨ?」羽渡さんが補足する。
「そうだったの?!僕、知らなかった」
「最近来たばかりだったんでしょ?仕方無いヨ」
「うん・・でもやっぱりすごい観たかった」
「なら次に来た時に・・そうしたらあの舞台でまた披露するヨ」
そう言って羽渡さんは大きな銀杏の樹に視線を向ける。
「銀杏の落ち葉がすごく幻想的だった」と僕が言うと、
「実はあの樹があったからここに風月を作ったのよ?番を亡くした可哀想な銀杏が悲しげだったからそれに惹かれてね」
そう言ったのは望月さんだ
「番??」
「樹にもたまにあるのよ、雄と雌。人間で言うところの男と女が・・・この樹は雄、男の子なのよ」
「へぇ〜知らなかった!」と僕。
「ん?じゃあギンナンは成らないのか・・・美味いのにな」
そんな事を言い出すダイチ、色気より食い気、花より団子な残念男子である。
「そう言えばギンナンの実が成ってる所って見たこと無いや」
「ん?そこに落ちてるじゃないかアレだよ」とダイチ。
「んもう!ダイチたら!うちの銀杏は男の子だって言ってるじゃないの、実は付かないわ」
「でも何個かここからでも見えるぞ?」
「え?!」「嘘!!」「・・・本当ですね付いてます、実が・・・」
僕と羽渡さん相良さんも確認した。
10円玉よりは大きくて500円玉よりは小さい位の真っ黄色い実がポツポツと葉の合間に見えた。
「あらやだホントだわ!結構成ってるじゃない?!・・・性転換したのかしら?流石ウチの銀杏だわ!」
(感心するところなの?そこ・・)
「うーん、少しマズいかもしれません」と相良さん。
「??相良さんどうして?」
「拾ってみたら分かりますよ?でも必ず手袋をするか、火バサミを使うことをお勧めします」
そう言って給餌達に何事かを頼むとすぐに軍手とビニール袋が用意される。
「ならギンナン狩りとシャッレこもうじゃないの!ダイチのために!!ほら行くわよ!!」
望月さんはそう言うと僕を脇に抱えて舞台へと飛び降りた。
「楼主様お忘れ物ですよ!」
そんな僕達の後を相良さんが追いかけてくると羽渡さんまでそれに付いて来た。ダイチだけはお猪口片手にのんびりとソファーに座って成り行きを見守っている。
僕は相良さんから軍手とビニールを受け取ると早速銀杏の樹の下でギンナンを拾い始める、しかし下にはあまり落ちていないようだ。見上げると枝には葉っぱに隠れてかなりの量が成っている。
(脚立でもあれば届きそうかな)そう考えていたら望月さんが僕の両脇に手を差し込み持ち上げた、いきなりの『高い高い』である。ビックリはしたがお陰で何個かの実に手が届き直に採ることが出来た。
少しの間だがその状態で樹の下をウロウロと収穫していたが、
「もう!じれったいわね!」
そう言って望月さんが僕を下に下ろすと銀杏の幹をワッサワッサとゆすり始める。
「お止め下さい楼主!!」
相良さんの声が響いたが既に遅かった、ヒラヒラと舞い落ちていた葉は一気に大量に落ちギンナンもそれと同じく大量に落ちる。
「!!クッサ!!これクッサ!!」「うわっっヤダ!臭いわ!匂いが付いちゃう!!」
僕と望月さんは落ちて潰れたギンナンによってあちこちに実の汁が付き酷い状態だ。潰れた銀杏の実は何とも言えない腐臭がしてとんでもなく臭い。ダイチはそれを知っていたから来なかったのか僕達の阿鼻叫喚を見て笑っている。
「申し訳ございません万季様!どうぞこちらへ!」
そう言って何処からか持ってきた熊手で落ちた銀杏の葉と実を掻き出すと実を潰さずに歩けるようにしてくれた。
「考え無しの楼主で本当に申し訳在りません」
そう言うと深々と頭を下げいつの間にか用意させた濡れタオルを差し出した。
「相良〜私には〜?」
頭や肩を実の汁だらけにした望月さんがそう催促するが
「貴方って人は!あんな事したらどうなるかくらい想像出来るでしょうが!せっかくの白木の舞台が滅茶苦茶ですよ!あなたのそれは自業自得!さっさと湯でもも浴びて来て下さい!」
そう言って追い出す。
確かに舞台の上も下も潰れた実のせいで酷いことになっていたが相良さんがテキパキと給餌たちに指示してドンドン片付いていく。そして開け放たれた襖の代わりにガラス戸を閉め、中に匂いが入らないようにすると今度は舞台の清掃を指示していた。
僕の髪や着物も酷いことになっていたが羽渡さんが着物を貸してくれるとのことで彼の部屋で着替えることになり、汚れた着物も後日クリーニングして届けてくれる事になった。
カツラは洗うわけにいかず濡れタオルで拭くだけにして匂いが周囲に広がらないように手ぬぐいを被って帰ることになった。取り敢えず羽渡さんの協力で女装がバレずに済んで一安心である。
帰りも相良さんの運転で送ってもらう、羽渡さんも名残惜しかったのか見送るために駐車場まで付いて来ようとしてたけど
「今日はきっと予定外の事ばかりだったと思うし疲れてるはずだよ?また倒れたりしたら大変だから」
と断りを入れた。すると小さな薄い黄色の巾着を僕に手渡す、
「これは?」
「中身はさっき採ったギンナン、果肉の部分は取り除いてあるから匂いは気にならないはずダヨ。ホントはもう少し乾かしたかったんだけど時間無くて・・」
「ありがとう!嬉しい!ちゃんと体調が良くなったら今度は羽渡さんが遊びにきてよ」
「うん、必ず行くよ」
そう約束し僕達は帰路に付いた。




