僕と犯罪者の楽園 その④
「文さん、どうしたの?!急に!」
「此処に長居はダメだ!今日は休業だったから助かったが・・」
「???」
「すぐに行かねば、菓子屋が閉まる」
そうだった、お使いの途中だった。何も持たずに戻ったら後が怖そう・・・そう考えた僕達は急いで本来の目的であるお店へとむかった。
来た時と違い、街なかを見て歩く余裕もなく早足で菓子屋に向かう、閉店間際に到着し注文していた品々を受け取る事ができて一安心、事前に頼んであった荷車に荷物を乗せ文さんがそれを引いてくれる。
最初のうちは僕も手伝おうと後ろを押してたけど途中で文さんが
「急ぐから・・・」
と僕を荷車に持ち上げ乗せられてしまい、帰りはただただゴトゴトと荷物と共に揺れて帰ることとなった。
花鳥に着く頃にはすでに辺りは暗くなり、案の定、紫燕さんには遅いと怒られ、僕の女装を見たダイチにはしこたま爆笑されたけど自分の言い方が悪かったと反省して謝られた。
化粧を落としてスッキリした後に今度は楼主さんに呼び出されまた怒られた。散々叱った後に楼主さんはタバコに火を付けながら
「どうだった?風月は?」
そう聞いてきたが質問の意図が分からずに困惑する。
「どうとは?」
楼主さんは以前も見せた悪い笑顔で
「ダイチから離れてあそこで働くとか考えなかったか?と聞いている」
そう聞き直された。
「??お休みとかちゃんとあるっぽいですが、大変そうなので働きたいとかは無いです。」
ハッキリと伝えると楼主さんはつまらなそうに
「そうかい、まあ無理強いはしないけどさ。」
とか言われ部屋を追い出される。
いったい何なのだろう?文さんといい紫燕さんやダイチ、楼主さんも・・・大人って一々言葉に何か意味を含ませたり隠したりしないと話が出来ないんだろうか?
そんな大人にはならないぞ!と僕は心の中で誓った。
「説教は終わったのかい?ならこっちを手伝っておくれ?」
僕を呼びに来た紫燕さんと店先に一緒に行き、文さんが降ろしてくれた荷物を空き部屋に移し仕分けにかかる。中身は勿論お菓子だ。紫燕さんは怪我の為、通常の仕事はお休みだけどその代りにお菓子の配給を任されたそうだ。
女性が多く働く花鳥では菓子の大量買いは恒例行事のような物で月に1度、禿と使用人が使いに出されるらしく今日が丁度その日だったそうだ。
購入に掛かる費用は通常楼主が出すが、長く勤めた姐さんもプラスして出費してくれるため、その数も量もかなり多くなるそうで今日の分には紫燕姉さんがかなりのお金を負担したらしい。
「坊やの好きな菓子この中から選びな、今回の報酬の代わりだよ!ん~特別に3つまで!!」
「3つも?!!良いんですか?!」
持って来ていたグミは無くなってしまいオヤツが欲しくなっていた所だ。
僕は悩みに悩み、カステラを箱で1本と栗まんじゅう、海老せんべいを一つづつ貰う事にした。
「コレは内緒だよ?」
3つだけと言っておきながら紫燕さんは栗まんじゅうをもう3つと海老せんべいは16枚入りを一箱追加で袋に入れ渡してくる。
「うわ!ありがとう紫燕姐さん!」
「良いんだよ、遅くなったのはダメだけどちゃんと帰って来たご褒美さ!それは一度部屋に持って行きな。置いたら次は皆に配るの手伝ってくれるかい?」
「うん!勿論!じゃすぐに置いてくるね!」
「あ!ちょっと待ちな!ええっと・・あぁコレコレ、コイツはダイチに渡しておくれ、渡せば分かるはずだから!」
そう言うと綺麗な和紙に包まれた小箱型の包みを渡される。何だかニヤニヤしてるけど?何だろ?
不思議には思ったけどお菓子が配られるのを楽しみにしてソワソワしている禿達がこちらの様子を伺ってる、待たせるのも悪いとすぐに部屋へと向かった。
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大柄な男が一人、今日も入口に近い場所で客の出入りを見張っている。
その見た目や雰囲気、柔道の有段者という点においても此処に居るだけで面倒な客などへの抑止力になるとの楼主の判断で、この見張り番の仕事をしている。
しかし残念な事にこの男『文三』は実は肝が小さい。良く30代後半かそれ以上に見られてしまうが、実はまだ21歳=彼女居ない暦な純情な男である。
犯罪を犯してここに送られた訳ではない。
冤罪で送られた見た目が怖い(だけの)中見はごく普通の一般人、そんな彼は純粋な子供には案外すんなり受け入れてもらえる不思議な魅力があった。
だが『子供好き』などと口に出せば要らぬ誤解を招き大変な事になるのは身を以て知っている文三。
そんなあらぬ罪によってさらに寡黙さに拍車が掛かってしまったのは仕方が無い話だろう。
そんな彼は何故か漢には異様にモテてしまうという属性持ちでもある。
以前、何度か使いで訪れた風月でもその属性は遺憾無く発揮され。行けば口説かれ、触られ、襲われ、連れ込まれそうになり彼にとって現在鬼門となっている。
今日は純粋にトシキと言う他所から来た男の子が心配で東区への同行を承諾したが、風月に行くことになるとは思っておらず内心あの羽渡という青年を送るとは言いたく無かった。
しかし何故か今日の風月は人気が無く、それが幸いしトシキの手前何とか体裁を整える事には成功したが
やはり・・・・無理だった。
風月の楼主の姿を見たらトラウマが一気に蘇ってしまった。
そんな彼のかつての夢は【保父さん】だったことは誰も知らない。




