僕と犯罪者の楽園 その②
鎖骨に掛かる位の黒髪。その左右に鈴飾りを付け顔には薄化粧、ちょこんと紅までさして恥ずかしそうにモジモジしている中々の美少女が一人、クール美女と評判の紫燕に引きずられるように連れられ店先で何やら揉めていた。
やがて淡い桃色の着物に、花鳥の印である紫の着物用のコートを羽織ったその少女はお供の使用人を連れて渋々出掛けて行く姿が目撃された。
誰もそれが男の子だとは気付かずに・・・。
街の東にある評判のお菓子屋にお使いを頼まれたトシキは、楼主の忠告があったので流石に出掛けるのはマズいと一度は断ったのだが、それならと紫燕に押し切られた結果だった。
(紫燕姐さん酷いよ、やり過ぎだよ・・・)
道ですれ違う人が思わずと言った風にトシキを振り返る。
着慣れない女物の着物と草履に、四苦八苦しながら歩いているせいか難儀して居るその姿も微笑ましく映る、それが余計に人目を引いているようだ。
うつむき加減でほんのり赤くなったその顔は誰が見ても男だとは思わず、花鳥の新しい禿だろうと街で見かけた人々は噂している。
このお使いに付き合ってくれている使用人はついこの前ダイチのバイクの見張りをしてくれていた寡黙でガッシリした体格の男の人だ。名前は『文三』と言い紫燕さんは『文ちゃん』と呼んでいた。
見た目厳ついし怖く思ったが紫燕さんの情報では意外にも子供好きらしく、気性が優しく禿達の人気No.1なのだと言う。
その文さんが急に僕を引っ張った。
驚いて叫びそうになるが直後に眼の前を荷車が通り、庇ってくれたんだと気づく。
「あ、ありがとう・・・」
何も言わずコクリと頷く文さん、そして黙って指差した先に人力車が見えた。
「アレに乗るの?」
僕の問いにまたコクリと首肯く、紫燕さんが出掛けに言ってた『車に乗っていけ』ってのはどうやら人力車の事だったらしい。
僕は今度は危なくないようにと文さんの袖を掴むと一緒に人力車の車夫が集まってる一団へと近づく、すると僕達に気付いた一人の若い車夫がすぐに声を掛けてきた。
「よお!文じゃないか、今日も東区か?美少女の連れとか羨ましいねえ?勿論、紹介してくれるんだろ?」
やけに軽い口調の男だ、それにヒョロっとしてて何だか頼りなさそう・・・。
そんな視線に気付いたのか僕と目が合うとバチンと音が鳴りそうな下手くそなウインクをして
「俺の車ならあっという間に着くぜ?」
なんてアピールしてくる。
僕が文さんを見上げると、さっきより少し眉間にシワを寄せた文さんがコクっと首肯く。(あれ?ちょっと嫌そう?)何となくそう感じたが本当に嫌なら首を横に振るだろうと考えその人の人力車に2人で乗り込む。
大きい文さんと並んで座るとちょっと狭いが、文さんは気を使って左腕を縮こませ、もう片方の腕は僕の腰辺りに回し安定するように支えてくれてる。そして人力車が動き出してすぐ何故に文さんが嫌そうな感じだったのか理解した。
とにかく早いが運転が荒い、その上走ってる間ずっと喋ってて煩い。それは良く息が続くものだと感心するほどだった。到着する頃には乗ってるだけのはずの僕達は満身創痍。かたや軽く汗かいて爽やかな笑顔を見せている車夫と言うあべこべな構図に仕上がっていた。
息を整え終わった文さんが先に降り、僕が降りるのを手伝ってくれようとしたが膝がガクガクしてヨロけて上手く降りれない。すると例のヒョロい車夫がサッと脇から手を出し、文さんから奪うように僕を車から降ろした。
「帰りも俺が送ってやるぜ?お嬢ちゃん」
そう言ってまたあの下手くそなウインクをしてきた。
「少し遅くなるので大丈夫です〜」と僕。
愛想笑いで流そうとしたが食い下がってくる。
「遠慮すんなよ、可愛い子にはサービスするぜ?勿論お嬢ちゃんが花鳥でデビューしたら御返し期待しちゃうけど?へへ・・」
何だかゾッとした。
「この子は『預かり児』だ!」
すかさず文さんが間に入ってくれた。
「なんだよ~じゃあデビューしないのかぁ〜」そう言ってあからさまにガッカリしている。
『文さん、預かり児って?』コッソリ聞いてみる。
『行儀見習いで一時的に預かってる禿の事だ・・』文さんもコッソリ教えてくれた。
禿にも種類?みたいなのがあって預かり児と呼ばれる子は行儀見習いで時期が来たら親元へ帰され、その他は将来花鳥で働く事が決まってるらしい。
帰りは荷物が多くなるため引き車を手配してあると文さんが伝え帰ってもらい、僕達は目的のお菓子屋に向かう。
途中で季節外れの風鈴が並び格安で売られているのに目を奪われる、色取り取りのガラスで出来たその風鈴達は、少し傾いた日差しに照らされキラキラと輝いて美しい。
そんな僕のゆっくりした足取りに文さんは付き合ってゆっくりと歩いてくれる。
すると軽い突風が吹いて風鈴が一斉に鳴り出した。そこへ1枚真っ黒な羽が飛ばされ僕の足元を通り過ぎる反射的にその羽が飛んできた先を見てしまった。
そこには気だるげに壁にもたれ掛かる見知った人が居た。羽渡さんだ。顔が真っ青で今にも倒れそうな様子だ。
僕はすぐに彼の元へと急ぐ、文さんもそれに気付いて付いて来てくれた。
「羽渡さん!大丈夫ですか?!」
「・・・君は?だれカナ?」
そうだった、僕は今女の子・・・禿姿だった。
「・・・風月ならここの近くだ、俺が運ぶ」文さんの申し出に僕は頷いた。




