僕と俺と私と僕?
「それで?何でこんな事になったんですか?」
「え〜っと?何でだろうな〜?俺も不思議なんだよね?ははは・・・」
俺はまた説教されていた。今度はトシキに・・・
ババアと夕鞠は新たな問題が発生すると馬鹿にかまっていられないと自分の部屋へと引き返してしまった。去り際に「コイツの躾はアンタに任せたよ?」とか言って後の事をトシキに任せ優しく笑顔まで見せて。
「たぶん食った樹の実の影響かなぁ?と?」
「だから何で止めなかったんですか?つい昨日ツバキが松ぼっくり食べちゃった時に何が起るか分からないって僕言いましたよね?大丈夫だとか言ってたのダイチだよねえ??」
「ハイ、止められずにすみませんでした」俺は今までで一番綺麗な土下座をかまして許しを乞う。
そのトシキの後ろには真っ黒な球体が浮いている。その正体はツバキだ。
あの後ツバキは、散らばった樹の実をあらかた食って満足すると急にその場にしゃがみ込み、見る間に髪の毛が伸び、自身の身体を包み込んだと思ったらあっという間に黒の球体に。
今は四方八方に伸びた髪の毛だったもので天井に張り付いてる状態になっている。
それはまるで【繭】か虫の【卵嚢】のようだ。
「何の実を何個食べたのか、とか調べないと」
「え〜・・・そこまでしなくても」
「スギさんがこの事知ったら?どうなると?何と言われると?僕達が出来ることはしておかないとダメでしょ?!」
「ごもっともデス・・・」俺はがっくりと肩を落とした。そうか、やっぱりスギにも知らせないとダメかぁ・・・俺はスギにも叱られる未来(確定)を予感して更に肩を落とした。
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「それで?夕鞠、アンタ花魁としてそしてウチの看板としての自覚はあるのかい?!自分から客のトコに押しかけるなんて聞いたことも無いよ!!」
「・・・はいスミマセン」言い訳も出てこない。
「今回はたまたまそれで助かったけど今後は赦さないからそのつもりで居な!!」
「・・・はい」私は今、過去1綺麗な土下座を披露している。
「それと、狼藉者を止めようとして紫燕が怪我したそうだ。」
「姐さんが?!怪我の具合は?!」(すぐ行かないと!!)
「落ち着きな!殴られはしたようだが数日休めば仕事に支障は無い、後で詫びと礼くらいはしとくんだよ?!」
「はい、今後はしません。お養母さん、すみませんでした。」
「・・・お養母さんなんて久しぶりに言われたねぇ、今日はもう寝な。隣の部屋に布団を用意させたから、そ・れ・と、紫燕の見舞いは明日にするんだ!いいね?!」
「・・・はい」お見通しか・・すぐ行くつもりだったのに・・お見舞い。私はガックリ肩を落とした。
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「それで?逃げてきたのかい?何も得られずに?俺がなぜ今迄お前を始末してないのか理解してるのか?」
「はい、申し訳ございません」僕は自我を持ってから数えて数度目かの土下座をしていた。
「もう少しなんだ!やっと【兆し】が見えたんだ!!・・なのに!素体を見逃がしたと?!どうやらお前に任せたのが間違いだったようだ!」
「・・・・・」仮面の嘴が邪魔してこれ以上は頭を低く出来ない。
「決めた、お前は今回の件が終わったら処分だ!先に記憶を寄こせ!!」
「・・・はい」もう一度(出来るだけ)深く土下座し直し、すぐに立ち上がり背筋を伸ばした。
白衣の男は近付いて来ると僕の仮面を払い除け、それは少し離れた所に落ち『からららーん』と軽い音が辺りに響き渡り木霊した。
同じ顔付き同じ体格の男、しかし白衣の男の顔には歳を重ねた印が刻まれ、同じ様に長い髪にも白い物が混じっている。
知らない者が見たら親子だと勘違いするだろう。僕は静かに目を閉じ、記憶を渡す覚悟を決めた。
その時トシキとツバキ2人の顔が脳裏に浮かんだ、何故か心が痛い『せめてもう一度逢いたかったな・・・』そう思い静かにその時を待つ、白衣の男が手袋を外した気配がする。そして徐々に深く僕の意識は落ちて行った。
白衣の男は両手の黒い手袋を外すと真緑に変色したその手で自分に良く似た仮面男の頭を挟み、何かブツブツ呟き始めた。
暫くすると手と頭の間から黒い霧が滲み出し、仮面男の頭全体を包み込む程膨らんだ。
目をつむりその霧を吸込む白衣男の目が瞼の下で激しく蠢く、そして手を離すと抜け殻になった仮面男はクタリとその場に倒れ動かなくなった。
「・・・・そうか、とうとう成功した!成功したんだ!!後はあの【種】を手に入れれば・・はは・・あははははは」
白衣の男は倒れた男には一瞥もくれず恍惚とした表情で笑い始め、その声は無機質な部屋全体へ響き渡った。
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俺は覚悟を決め、使いを出してスギを呼ぶことにした。
言伝には例の予防薬を追加で欲しいと書くのは忘れなかった。しかしツバキの事は『命に別状は無いが今は動かせない状況だ』と書いた。嘘は書いていない。
きっと大丈夫、自分に言い聞かせ夕鞠に樹の実の内容の聞き取りや紫燕から聞き取りなどしながら到着を待っていると夕方には大きなリュックと薬の入った段ボール箱を抱えてスギが到着した。
無精髭もそのまま、ほとんど寝てないのが分かるクマもそのままでヨレヨレの白衣の上にコートだけはおり、足元はサンダルだった。
到着してすぐ使用人へ段ボール箱を預けるとツバキの容態を診るために案内を頼み俺達の部屋へと来たが、大きな玉を見ると膝をつき動かなくなった。刺激が強すぎたようだ。
「え〜っと、気をしっかり持てな?」そう声を掛ける俺。
「はああああ〜」隣ではトシキが特大の溜め息を付いていた。




