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僕とツバキと大鴉(おおがらす)


「ソレは何?」震えが交じる声で聞かれた。


「??ツバキの事ですか?ダイチから聞いてませんか?」


「聞いたけど・・・人じゃ無いなんて聞いてない!」


(あ、そうなんだ・・困ったかも)


「そ、そうなんですね?害は無いですよ?」


「そうかも知れない・・・でも危険、直ぐにでも手放した方が良いと思う」


(え〜どうしよう、ダイチさん早く戻って来て〜)僕は心の中でそう願った。


夕鞠さんは何だか怯えてるみたいに様子がオカシイ。僕は何とか落ち着かせようとツバキを抱っこしたまま近づいた。そんな僕(に抱っこされてるツバキ)を見て、ビクッと身体を震わせた夕鞠さんは少しのけぞりその弾みでテーブルにぶつかった、そのままにしていた樹の実がはずみで畳の上に散らばる。


その時、



『ミ・ツ・ケ・タ・ヨ・?』


突風が吹き込み黒い何かが現れた。


(凄く大きなカラスだ)そう頭が理解したのはソイツが立ち上がり翼を広げた時だった。羽の下から鋭い(くちばし)が見え、広げた両手に当たる部分からは黒い羽が幾つかこぼれ落ちた。


(翼かと思ったけど・・着物の・・袖?)


その直後、今度はダイチが部屋へと飛び込んできた。大きなカラスと僕達の間に立ちはだかる。突然の事に僕と夕鞠さんは固まっていたが、


「・・・ダイにいに?」


ツバキの目が完全に覚めてしまった。


「ツバキ少しの間静かにしててね?」


そう言うとツバキを抱っこしたまま夕鞠さんを庇うように僕も立ちはだかった。


「悪りい・・・ちょっとばかり戻るのが遅くなった」ダイチが振り向かないまま言った。


「ホント、遅いです!」僕もそんなダイチの背中とその向こうにいる大きなカラスから目を離さずに返事をする。


『もう良いカナ?そろそろお別れの挨拶もしておくと良いヨ・・・』


カラスが喋る。凄く耳障りな声だ。

そして床に落ちた黒い羽がフワリと風で浮かび、それと共に甘ったるい香りが漂い始めた。


「お前ら!体勢低くして口と鼻抑えろ!」ダイチが叫ぶ。


僕と夕鞠さんは言われるまま直ぐ姿勢を低くし袖で口と鼻を隠した。


「にいに?どしたの?」(ツバキ!しまった!)


焦った僕は咄嗟にツバキの口元を抑えた、甘い匂いを思わず吸い込んでしまう。


「にいに!にいに!」(そうだったツバキ人間じゃ無いから大丈・夫な・・の・・?)


「ツバキ・・だいじょ・・・」このままでは意識が保てない。「トシキにいに!」ツバキが呼んでる。


「・・・あなた、キライ!」泣きそうな顔でカラスを睨むツバキ、僕はそのまま意識を失った。




「トシキ!」(マズい、コレを吸ったのか?!薬を飲ませたいが今は動けない)そう考えた時。黒く長い何かが俺をかすめて大鴉(おおがらす)の身体に絡みついた。


『なんだコレは?』大鴉は冷静にツバキに問う。


それをただ真っ直ぐに睨みつけるツバキ、その髪が伸びて大鴉にシッカリ絡みついている。

膠着状態(こうちゃくじょうたい)が続くかと思われたが()れたのか、大鴉が先に動きブチブチとそれを引き千切る。しかし、ツバキの髪は千切れた後から次々と再生され、また絡み付いて行く。


「ツバキ!トシキは任せろ!ソイツはそのまま捕まえておけ!」


ポケットから薬を取り出しトシキの口に流し込む(頼む!効いてくれ!)予防効果は実証済だが回復の効果があるかどうかは分かっていない。暫く様子を見るしか無いが。


「う・・・?ダイチ・・?」(効いた!)「ツバキ!トシキは大丈夫だ!」そう言って振り向くと忌々(いまいま)しげな舌打ちをして大鴉が消える所だった。


()()()君たちに勝ちを譲るヨ・・・』


そんな言葉を残し完全にその姿は煙の様に消える。

ツバキの髪は相手が居なくなるとスルスルと元の長さへと戻っていく、どんな原理なのかは分からないが助かった、俺はツバキの頭を撫でてやる。


「ダイにいに、トシキにいには?」


そう言って俺を見上げるツバキはいつも通りだが・・・少し背が伸びたか?


「そのうちちゃんと目を覚ます、大丈夫だ」(きっと成長期だな)あまり深く考えない事にした。


俺は布団にトシキを運びソっと下ろすと様子を見る為、襖を開けたままにして夕鞠の元へと戻る。

一部始終を目撃した夕鞠はまだ固まっている。


「おぉ〜い、シッカリしろ〜、これ飲んどけよ〜」取りあえず声を掛け薬の瓶を握らせる。すると絞り出す様に言葉を発した夕鞠の第一声


「何なのよコレ、何なのよコレええええええ!!!!」絶叫である。


「え?薬だけど?」「それじゃ無くて!いや!ソレも含めて何なの?!って聞いてるの?!!!」


食い気味に聞かれのけぞる俺。こんな風に迫るのは別の時にして欲しいが、それを言ったら確実に殴られるな。なんて考えていた。

説明はしたいが緊張が解けた途端に捲し立てる夕鞠には、落ち着けと言うと逆効果である。(経験談)さてどうするか、俺は襟首を掴まれ揺さぶられながら思案する。



「終わったのかい?」楼主のババアだ。助かった!!・・・のか?


そこには鬼の形相のババア。ハイ、俺、今夜、ジンのトコに逝くかも知れません。






************


俺は今、正座させられている。隣には夕鞠も同じ様に正座。


眼の前には女楼主が俺達を見下げている。

部屋の戸は壊れたままで、廊下には片付けや後始末に奔走する禿(かむろ)や下働き、若い衆が見える。


「それで?急いでたから壊したと?」


「いや、俺が壊したんじゃ無くて夕鞠の座敷に行った時には・・」「言い訳は聞きたくないよ!!!」


食い気味で止められた。理不尽だ。


「夕鞠の座敷はお前じゃなくてもここの入口はアンタなのはネタが上がってるんだ!!オマケに・・・」


「え〜っと???」とぼけてみる俺。


「あの打掛けだよ!!どんだけ金掛け端正込めて仕上げたと思ってんだ?!!」


「え?!あの打掛けダメになったの?!」夕鞠が食いついた。


ああ〜、それは言い訳出来ないかも・・・


ふと目をそらした先にツバキが居た、さっきまでトシキの側に居たのに今は茶色や黒の何かを拾っては口に入れている。


「・・あっっっ!!ツバキ!!」


「誤魔化そうなんてしてんじゃ無いよ!!」


そうじゃないと言いかけている間にもツバキは何かを拾っては口に入れている。俺はそれを止めようとしたが今度は夕鞠が俺に食って掛かる。


「どう言う事なの?!」


(すまんトシキ。俺、泣きそう)




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