俺と烏(からす)と大鴉(おおがらす) その②
俺は孤児だった。親の顔は知らない。
まだ産まれたばかりの俺は、へその緒もついたまま畑に身体が半分埋まった状態で発見されたらしい。
その畑の持ち主が何時ものように畑に来て発見したそうだ。そこは前日に長く放置していた土地に手を入れ、耕したばかりの区画だったそうだ。
そう俺の【大地】と言う名前はそこからきている。
俺が居た孤児院は捨て子は俺しか居ず周りと何となく孤立していた。院の先生達も何故かよそよそしく面倒は見てくれたが大きくなるにつれ、その溝のような物は大きくなって行った。
後になって聞いたが俺は全く笑わない子供だったらしい、それは赤子の頃からで何度か里親に引き取られたが直ぐに戻されてしまい、遂には引き取られた先で虐待、隣人がそれに気付きまた院に戻ってそれきりだ。
そしてある日、ジンが来院し【助手にもなる子】が欲しいと言ってるのを聞いた。
その頃の俺はまだ10歳程で彼が探している13歳以上の条件には当てはまらず、ガッカリしたのを覚えている。
(俺はまた一人だ)
誰とも遊ぶ事も無く花壇の土を小さなスコップで掘る、俺の唯一の安らぐ時間だった。
そこへジンが来た。幾つか質問をされたが俺は何も答えずただジッと見つめていた。期待しても無駄だと思っていたし気まぐれに話しかけて来ただけ。そう考えた。
それに近くで見たら凄く【胡散臭い】この人もハズレだ。
身なりは整っている。
三つ揃えの濃い茶のスーツはひと目でオーダーメイドだと分かるし、首に下げているオパールのループタイも良く見ると台座に細かな細工がしてあり高級そうだ。
白く伸びた髭も良く手入れがされてる。
ただ、その笑顔がわざとらしい感じがしたのだ。
ニコニコした口とは違い目が探るような、ジックリ観察されてる、そんな目だ。だから俺もただジッと見つめ返していた。
そして3日後、ジンが俺を引き取りに来た。嬉しかった、そんな風に思えた自分自身に驚いた。
だが引き取られて早々にジンには散々な目に遭わされた。
それはまた後日、語る事もあるかも知れないが今は割愛しておく。
そのジンとこのババアは間違いなく『同類』。
幾ら聞いても時間の無駄だ。
俺は取り敢えず対策を講じる事にした。ババアに預けておいた薬を出してもらい見張りや若い衆を中心に飲ませるように頼み自分も飲んでおく。勿論、楼主であるババアにも・・・スギに頼んで作って貰っていた薬だ。
相手が大鴉なら例の薬を使われる可能性がある、その為の予防薬だ。
何処までの効き目があるかは未知数だが飲まないよりは良いだろう、俺はトシキ達の分の薬を持つと一度座敷に戻る事にした。
3階まで上がった所で騒ぎが起きた。
その騒ぎは・・・4階だ!夕鞠の座敷がある!一気に階段を駆け上がり座敷へ向かう
座敷の入口に禿と紫燕が倒れている。
「大丈夫か?!」
2人とも気を失っているだけのようだ。そこへ見回りなどの若い衆や、客であろう男が集まりつつあった。
「2人を頼む!!安全な所へ!他の奴は店外に客と女達を避難させろ!」
そう言い捨てると俺は夕鞠の座敷へと足を踏み入れた。
座敷の中はめちゃくちゃにされ、奥に掛けられた打掛けの前に誰か居る。痩せ気味のその男には見覚えがある。出禁を喰らった例の男だ。
店の入口や中にも見回りが居たはずだ、どうやってここ迄?
「夕鞠ぅ〜何処だ〜?迎えに来たんだ〜出て来いよぉ〜」
フラフラと部屋を壊しながら夕鞠を探してるようだ。そして夕鞠が着ていた打掛けに手を掛けると
「俺の夕鞠の匂いがする・・・」
そう言ってグシャグシャに抱きしめ匂いを嗅いでいる。
「俺の?だと?」ピクリとこめかみがヒクついた。俺は匂いを嗅ぐのに夢中な男の頭に回し蹴りを食らわした、男は吹っ飛び壁に激突する。
「俺の夕鞠だ!!ク◯が!!」
そう言い打掛けを引っ張るが男がしがみついて離れない。しぶとい男だ。
「お、おまおままお前が夕鞠ををおおお!じゃまままものは殺すすすすう!!!」様子が明らかにおかしい、そう思った瞬間に打掛けはビリビリに破かれ、男が掴みかかってきた。
「っっこの!!ざけんなよ!!」
俺はその勢いを利用して背負投し、そのまま関節技を決める。気付くと男は完全に意識を失い白目を剥いて泡を吹いていた。フッと息をつき絞めてた力を抜いて立ち上がる。
「それで?お前はいつ仕掛けるつもりだ?」
夕鞠がいつもいる窓辺にそう問いかける、するとスーっと黒い影が姿を現した。徐々に影は固まり人型になる。
その姿はどこまでも真っ黒な烏・・・の仮面を付けた男だった。ゆったりした真っ黒な着物に顔の上半分が烏の嘴の様な仮面、口元がほんの少し見える程度で成程、大鴉とは良く言ったものだ。
『君とは少し話しをしてみたかった、良いかい?』
色々な声色が混じったような声だ、何かの機器を使っているのだろう。
「俺もだ。」
ジッと相手を見据える、すると男はそのまま窓辺に腰掛け
『君の望みは何だい?』と聞いてきた。
「意味が分からない」と、俺は直ぐに答える。
『僕ならある程度の願いながら叶えてあげるヨ?』
「だから、その質問の意図は何なのかと聞いている。」
『案外鈍いネ?コレは僕の譲歩であり、チャンスなんだヨ?』
「何に対する譲歩だ?それに俺に願いがあったとしてもお前に叶えられるとは思えない」
『夕鞠・・・それとトシキ、そしてもう一人、ツバキ?だっけ?』
「靡かないなら次は脅しか?」
『勘違いしてもらっては困るヨ、無事に帰してあげると言ってるノサ。用事が済んだらね』
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「ねえ・・・何か騒がしくない?」
「・・・・本当ね、客が暴れてるのかしら?でも見回りが居るから、そのうち収まると思うわ」
「なら良いけど・・・」胸騒ぎがする。僕は様子を見に行くか迷っていると
「にいに・・どこ?」ツバキが起きたようだ。
「コッチだよ?目覚めちゃったの?まだ寝てて良いよ?」「んんん~やーの・・」やはり姿が見えないとダメみたいだ。
僕は立ち上がり襖を開けると予想通りツバキが勢い良く僕の顔面に飛び付いてきた。
『ツバキ、にいに苦しい・・・』ツバキに訴えるが寝ぼけているのか離れない、仕方無く僕は力技でツバキを引き剥がす。
やっと引き剥がしに成功しツバキを抱っこすると夕鞠さんに紹介する。
「この子がツバキです。色々変わったところはありますが害は無いので・・・」
夕鞠さんは物凄く凝視してきている、僕に抱っこされたツバキを。




