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僕と綺麗なオネエサン その②


結局、ダイチがツバキを肩車し、僕はそのダイチと手繋ぎする事で落ち着いた。



僕達が大暖簾をくぐり外に出ると、花鳥の前にもすでに花魁の姿を一番に見ようと人が集まっていた。


「ここで待つつもりだが大丈夫か?」肩車したツバキとダイチが僕の顔を覗き込む。


「・・うん?」「・・・眠そうだな」「にいにねむい?」「・・・うん」「やっぱりな、だからおんぶしたのに・・・」


ダイチとツバキの声が遠くに聞こえる。「ほら、こっち掴まれ」言われるままに僕は誰かの背に乗る。


キラキラ照明の光を反射して、金色の小鳥がチラリと横切るのを目で追いかけ。心地良い揺れの中、僕の意識もゆらゆら漂っていた。


大きな暖簾の端が棒の先に取付けられて、2人の男が左右から持ち上げて正面口が大きく口を開いた。


『しゃーん、しゃーん』金属が擦りあう音がする。

『とーん、しゃーん、とーん、しゃーん、』棒で地面を突く音と擦りあう音が交互に響く。


大きな提灯を持った男が2人、門を出ると二手に分かれ、入り口に向かい合い頭を下げる。


先ずは禿(かむろ)2人、それに続いて若い衆(わかいし)に肩を貸して貰い花魁が少し屈む様に姿を現した。


高く結い上げ扇の様に広がった独特の髪型、それに挿した鼈甲(べっこう)(かんざし)が豪華さを際立たせ、白く塗られた肌に薄っすら影を落とす。


ツリ目がちなその目元は朱で染め、ほんの少しの紫を加えて彩り妖しく美しい。通った鼻筋を辿るとその先にはポッテリとした唇。朱に染まり、その瑞々(みずみず)しい(つや)が果実の様に見え、こぼれ落ちそうだ。


白、深紅、黒紫、赤紫と重ねられた襟元、そして打掛けは夕方から夕闇へと変化する中に在る大輪の牡丹が咲き誇り、提灯と月の明りに照らされキラキラと光を振りまくようだ。前帯は、その牡丹へと飛び立つ様な金に輝く極彩色の鳳凰、誰もが息を呑み言葉を無くした。


「・・・・・流石、夕鞠(ゆうぎく)、つうか婆さん気合入れ過ぎだろう・・」


そんなダイチの呟きが聞こえた。


『とーん、しゃーん、とーん、しゃーん・・・・』


またあの音が聞こえてきた。それに加えて、高下駄の音らしき


『かろろろろん、コトン。かろろろろん、コトン。・・・・・』


そんな音がゆっくりと時間を掛け、遠ざかって行った。






************


僕が目覚めたのは深夜だった。

夢現(ゆめうつつ)で見たアレは?夢?現実?どちらにしても綺麗すぎた。花魁道中への期待と願望が見せた夢だと言われたら信じるだろう。


僕の隣に寝かされたツバキは、ダイチに貰った(かんざし)を握りしめて眠っている。(ふすま)からもれる明りで金の小鳥がキラリと光っている。


ダイチは居ないようだ。

僕は喉の渇きを感じツバキを起こさないように、ソっと布団を抜け出し隣の座敷へと向かう。


部屋を隔てている襖の隙間から誰かの気配がする。たぶんダイチだ。


「ゴメン、ダイチさん。僕寝ちゃっ・・て?・・・・・」


襖を開けそう言いながら見ると、ダイチじゃ無かった。僕は襖を閉めた。

まだ夢の中らしい。ベタに自分の頬をつねって確認。夢じゃ無いようだ。もう一度襖を開ける。


花魁がキョトンとした顔でこちらを見ている。


「は?はじめまして?・・・こんばんは?」


マヌケである。


「あのう?ダイチさんは?・・・」


「あぁ、ダイチは緊急だとかで楼主の所に呼ばれて行ったわ」


我に返った花魁はそう教えてくれた。


「あなたがトシキ?ダイチから聞いてる。私は夕鞠、よろしくね?」


「は、はい!トシキです、よろしくお願いします!」


「フフ、そんなに固くならないで大丈夫。こっちでお話ししましょ?丁度、退屈してたの」


そう言うと手を叩き、待機していた禿に飲み物を頼んでくれた。





他愛もない話をするうちに僕は今ダイチへのグチを聞かされていた。


「アイツってば私の後見で責任もあるのに放ったらかしなのよ?今回だって道中が終わったら一番に出迎えて私の座敷までエスコートしてくれるかと期待したのに来ないし!あなた達が一緒だってのは知ってたから仕方無いと思って大人しく待ってたらこの時間・・・だからコッチから来てやったのに・・・酷く無い?!また放ったらかしよ?!」


だいぶ鬱憤が溜まっているらしい。


「あははは〜・・きっともう少ししたら戻りますよ。そう言えば今はあの打掛け着て無いんですね?」


話しを逸らそうと聞いてみる。

夕鞠さんはまだ化粧は落としていないものの、あの豪華な打掛けは着ておらず中に着ていた小袖姿になっている。


大きな簪も外され今は小さな物が何本かだけだ。


「アレか・・・すっっっごく重いのよ、ココに来るのに邪魔だったから置いてきたわ。動きづらいし、綺麗だけどもう着たくないわね」


そう言って笑っている。夕鞠さんは道中の時と同じ人物とは思えないほど、少し子供っぽくアグレッシブな印象に変わっていた。それに親しみやすさと言うか懐かしい?感じ???良く分からない。


色々な事を教えて貰い話しているととても楽しい。

話の引き出しが多いとか言うのは『こういう事か』と感じた。花魁や遊女も話術だけで無く様々な知識が必要でそれぞれ得意分野もあると教えてもらった。


「トシキは話が面白いって言ってくれたけど、実は私、客相手には聞き役なのよ?楼主に『色々台無しになるからアンタはあんまり口開くんじゃ無いよ!!』って怒られるから」


やたら楼主さんの口真似が上手い。


僕は思わず笑ってしまった。


「私の得意分野はコレ!」そう言って小さな巾着を取り出す。


シブい山吹色した巾着を手渡された。


「???何か入ってる?中見て良いの?」


「良いよ、ココに出してみて?」


そう言うと白い布も取り出し飲み物もどけてテーブルに広げる。


「取り出す前に少し振って逆さに、全部出るようにしてね?」


「?分かった・・・」


何だか注文が多いが、言われた通りに巾着の中を布に出してみた。


樹の実だ。まんまるのや少し細長い物、表面がガサガサした物もあれば小豆くらいの小さな物まで様々だ。

その中の幾つかがチョット離れた所まで転がって白い布からはみ出て止まる。


それを見て夕鞠さんは


「トシキには何か目的があるみたい、すごく遠い所から来た・・・繋がってる?う〜ん?全部繋がってる、でも途中で途切れる・・違う、分岐点かしら?まだ足りないって出てる」


「???!占い?!」


「あたり、私は占いが得意分野なの」


そう言って夕鞠さんは笑った。






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