僕と綺麗なオネエサン その①
僕達は一度花鳥に戻り、道中が始まる時間帯まで待機することにした。
「暗くなればカラスも巣に帰るだろう」と言うダイチの提案だ。
戻ると直ぐに『用意出来ております』と部屋に案内され3階の窓付きの部屋に通される。
少し離れてはいるがそこの窓から少しだけあの大通りが見える。
さっきよりも人が増え、通りの中央は関係者らしき人達が道中の為の空間を確保する目的なのかロープを伸ばし始めている。さっき出会ったオニイサンがチラリと見えた気がした。
目を凝らし探してみたけど人混みに紛れてすぐ分からなくなる。
僕は諦め部屋の中に視線を戻す。
入口の格子戸を開けると小上がりになっていて畳敷き部屋へと繋がっている。部屋は二間、入って直ぐの部屋には座布団と小さなテーブルが置かれ奥の部屋には、いつでも眠れる様になのかセミダブルくらいの布団が敷いてあった。
川の字で眠るには充分だけど枕が一つ足りない。後から頼めば良いかと特に気に留めずテーブルのお茶を手に取り飲む。
ダイチはゴロンと座敷に寝転び座布団を折って枕代わりにしている。
「行儀悪いよ?」僕がそう言うと、
「ゴメンねカーチャン、チョットだけー」とダイチはニヤリと笑いそっぽを向いて狸寝入りする。その隣でツバキも寝転び
「ちょっとだけ〜」と真似している。
僕にとってダイチは反面教師だが、ツバキにとっては・・・・実に教育的によろしく無い。
「・・・はあ〜」僕はそんな2人の様子を見て深く溜め息を付いた。
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私は朝早くから『洗われ』『磨かれ』『揉まれ』『擦込まれ』『塗られ』『ハタかれ』『梳られ』『結上げられ』と、日が傾きかけた今ももみくちゃ状態だ。
急に私が「出る」と宣言したのが昨夜だったから自分が悪いんだけど扱いが酷い。
準備の総指揮を買って出てくれた姐さんには感謝してるがお腹が空いたと口を開けた瞬間には剥いたバナナを放り込まれ喉が乾いたと口を開きかけると剥いたみかんを丸ごと口に押し込まれた。
至れり尽くせりと言われればその通りではあるが何か違うし。何なら口を挟むなという圧力を感じる・・・。
それに何よりも、いつもは涼やかな目元が評判のクールビューティーな紫燕姐さんの目が血走っていて、狂気すら感じる。
「もう!もう!こんなんじゃダメよ!」ちょっと牛っぽい口調になった姐さんがダメ出ししている。
何で揉めてるのか少し聞き耳を立てるがまた小袖の組み合わせの事らしい。
昨夜に決めたはずが打掛けとのバランスが良くないとか何とか、この道〇十年とか言うバ・・・古い姐さんが口出ししたのが切っ掛けで一触触発あわや掴み合いになりかけている。
私はこの間、襦袢姿で放置・・・’寒い・・・。
「アンタ達!!いい加減にしな!!鼻水垂らした花魁に仕上げるつもりかい?!」
楼主の登場でその場は凍り付く。
紫燕姐さんは軽く頭を下げ古い姐さんもそれに続く。
女楼主は一瞥し騒ぎが収まったのを確認すると後ろに控えていた3人の禿に目配せする。
スッスッっと座敷に上がる禿達はそれぞれが私の前に横に広い薄めの箱を置いてキレイに並べていく。
私がそれぞれの蓋を開き薄紙を取ると中には、赤紫、黒紫、深紅色の小袖が入っている。
良く見ればそれぞれの襟飾りは精緻な刺繍で埋め尽くされ、有り得ないほど手間がかかっているのが分かる代物だ。
「それを着な!」と楼主が発すると、
「っっですが!それでは打掛けと色味が!!」と古い姐さんが反論する。
「コレで良いんだよ!打掛けと前帯は別に用意してあるんだからね」
そう言うと楼主はまた禿に目配せして奥座敷の襖を開けさせる。そこには着物掛けに掛けられた打掛けと帯。
打掛けは上に紅色で下に行くほど徐々に濃い紫になるグラデーションになっており、胸の辺りから裾に掛けて、こぼれ落ちて行く様な真っ赤な牡丹柄。着物全体に所々入る金糸、銀糸の刺繍は夜の帷が落ちる直前のような煌めきを醸し出している。
帯は金それに羽ばたく極彩色の鳳凰だ。
「綺麗・・・・・」誰からともなくため息が出る。
「楼主、作ってたんですね・・・この子のために・・」紫燕姐さんがそう呟く。
「馬鹿言ってんじゃ無いよ!アンタが五月蝿く催促したんじゃないか。」と楼主。
「だって私はてっきり・・・」
「良いから早く着せてやんな!時間が無いんだよ!」
少しの静寂の後また慌ただしく動き出す。私はまたもみくちゃにされるのが決定した。
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嘘だ。嘘だ。嘘だ。アイツは俺のだ。
俺が幾ら貢いだと思う。外じゃ稼げなかったがここじゃそれなりに稼げた。
その殆どをあの女に捧げたのに。
いつもいつもいつもいつもいつも、い・つ・も!酒の相手どころか話すだけでもと通って金を落として。
毎回プレゼントも用意したんだ。なのになのに運命の相手なのに俺にわざと気の無いふりして誘惑して来たくせに俺に隠れて他の他の他の男ととととととと床入りだと?許せるか・・・・・許せない許せない許さない許さない許さないお前は俺のだ俺の・・・そうだ。邪魔な奴は殺そう。全部殺せば良い。殺そう。そして
迎えに行かないと・・一緒に逝こうな夕鞠・・・?
目を充血させ、口の端から泡とヨダレを垂らしながら男は立ち上る。
床に落ちた盃からはトロリと甘酸っぱい香りが広がった。
(単純なヤツほど良く効くね?この薬。でも少し多すぎたカナ?・・・まあ良いか、上手く暴れてネ?あわよくば邪魔なアイツを殺しておくれヨ?フフフ・・・少し、ほんの少しだけ手助けもしてあげるからサ)
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「お〜い、そろそろ行くぞ〜?」「う〜ん?なに〜?」ダイチの声がする?
「花魁道中は見ないのか?」「トシキにいに?ねんね?」
「う〜ん、ツバキ?ダイにいにと2人で行っちゃう?」「やーの!」
「そっか、嫌か〜」「う〜起きる・・・」少し意識がハッキリして来た。
「トシキにいに?おっき?」「うん、起きたよ。おはよツバキ」「おっし、じゃあ行くか!」
いよいよ花魁道中が始まるのか。正直まだ眠いけど見逃せないよね!僕は眠気を吹き飛ばそうと気合を入れる。
そして今ツバキは僕の背中におんぶ、ダイチがその僕をおんぶ、カメ?僕達カメなの?
「ダイチにいにさんや?何故にカメ?」
「移動時間短縮と迷子防止?カナ?何なら寝てて良いぞ?(笑)」
「カメさん?」
僕は全力で拒否した。




