僕とツバキの冒険? その⑤
正面に巨大なコンクリートの塊が見えた。その周囲はぐるっと柵がしてあり人の気配は無い。そこの外周を半分程周ると唯一の入口らしい門の所に警備員が何人か見えた。
「行くぞ・・・」
ダイチはそこの警備員の目を避けるように入り組んだ路地に入って行く。今度はかなりゆっくりだったけど何となく話しかけるのは憚れて僕は静かにただギュッとしがみついてた。
幾つかの細い路地を徐行しつつ曲がりしばらくそれを繰り返すと割と大きめの通りに行き当たる。
しかし人通りが多くバイクでの走行は無理だと判断した僕達はバイクを降りる事になった。
「やっぱ人が増えて来たな、ここ辺りは割と物騒な地区だから俺から離れるなよ?」そう注意を受ける。
その直後に直ぐ側の定食屋らしき所から『ガシャーンッ!がん!ドカ!バリバリィー!!』『この野郎ぶっ殺す』『うるせえ!来てみいや!』などと物騒な何かが聞こえてきた。
(ひいいいいー!割と?!コレ割となの?!!!)
その騒ぎを聞きつけ野次馬も集まり出す。僕達はそこをぐるっと避けるように通りの向こう側に向かう。
僕達が渡りきった辺りで振り向くとそこは一面の乱闘騒ぎになっていて落とし物と思われる誰かのバッグやら買い物袋やらを盗もうと奪い合いまで起きていた。
「何?これ・・・?」僕は呆気に取られる。
「ここいら辺はコレが日常だ、危ないからアッチ行くぞ!」
僕達が離れた後あの門に居た警備員と似た制服を着た人達が乱闘騒ぎの張本人たちを電気警棒で気絶させ連れて行く。
何処につれて行かれたのか、この時の僕らは知らない最もダイチは知っているだろうが。
また少し狭い路地をバイクで行く僕ら、大きな通りは催しのため人通りが多くその分危険だと判断しわざと遠回りしてるらしい。
只でさえ複雑な道なだけに僕は今、街のどの辺にいるのか全く分からなくなっていた。
どのくらい経ったのか時間の感覚さえ怪しくなった頃やっと目的地に着いたらしい。
その建物の外観は赤い格子の窓と深紫に白抜きで【花鳥】と文字の入った大暖簾が特徴の5階建ての和風ビルだった。
周りの毳毳しい建物とは明らかに違い【格式高い】雰囲気が漂っている。
入口で掃除していた人がダイチを見付けると近づいて、
「だんな、今日は子連れですか?いつの間に2人も?」とニヤニヤしている。
「ばっか!違うって分かってんだろ?それよりコレ奥に預かってくれ」そう言ってバイクのキーを投げ渡す。
「承知しました。いやぁ夕鞠に誤解されなきゃ良いんですがね?」
そう言うとキーを体格の良い他の使用人らしき男に渡していた。
僕はバイクからツバキを降ろしながら(夕鞠?誰?)そのやり取りを聞いていた。
「ん?ツバキ?なんか大きくなった?」2人の会話を聞きながらも何となく違和感を感じた。
僕の腰に届かなかった身長が今は僕のウエストの少し上まである。ダイチにその事を伝えようと振り向くと
「おい、コッチだ」
とダイチは大暖簾を潜ってしまい僕は慌ててツバキを抱っこし追いかける。
「ねえ!ダイ・・チ・・・」僕は入って直ぐその建物の中の吹き抜けに圧倒された。
空が見える。
5階建てかと思っていたビルは中に入ると実は違うと分かる、不思議な作りだ。店の正面から見て3階までが店の【外周】のようになっており2階と3階は回廊のような作りで、広い吹き抜けと言うより中庭?と言うか庭園になっていた。
そして4、5階は庭園に張り出す様に建っており、その下に立派な本当の入口が『デン!』と構えられている。
妙に4階から上部分に奥行きがあると感じた理由が分かった。
先程キーを渡されていた男がその庭園の一角にバイクを停めるとその前で仁王立ちになりそのまま見張りに付くらしく僕達と視線が合うと軽く会釈した。
つられて僕も会釈を返しダイチを追いかける。
本館に当たる入口に入ると広い土間のような空間が広がり、こちらは本当に3階分の吹き抜けになっていた。
正面に見える壁一面には、障子戸の窓と手すりが付いてる。見える全部が部屋なんだろう、1階の土間から続く上がり場には脱いだ靴の管理をする人や、番頭みたいな受付、案内約らしきオカッパの女の子などが店先で打ち合わせをしているようだった。
靴番と番頭がいち早くダイチに気付き直ぐに駆け寄り頭を下げ挨拶を交わす。そしてダイチは上がり場に慣れた様子で上がると僕達を呼んだ。
「坊っちゃん、嬢ちゃん、良くいらっしゃいました。ささ、どうぞお上がり下さい。」
とキツネ目の番頭さんが促し。
僕達が上がるとすかさず、たぬき顔の靴番が「お預かりします」と靴を左奥にある棚へと持って行く。
すごい連携だ。
ダイチはオカッパの女の子に「楼主の所に頼む」と一言。すると右奥へと続く廊下へと手で示しながら先へと進む。
この先にダイチの言っていた人が居るんだろうか?
緊張しながら歩く僕とツバキは物珍しさもあって落ち着かず、あちこち見ながら着いていく。何故かすごく視線を感じるが?気のせいだろうか?
一番奥であろう部屋に案内された僕達は、広い座敷の入口に待機していた別の女の子に案内を引き継ぎされ中へと通される。
そこから更に一部屋抜けた奥に、そのお婆さんはタバコ片手に座っていた。若い頃にはかなりの美人だったであろう凛とした気品を感じる佇まいに緊張が高まる。
「こっちおいで取って喰いやしないよ!」
そうお婆さんに言われてダイチがすでに近くに行き座ってる事に気がついた。僕も急いでダイチの隣へと座った。
「あんたら・・・親子か兄弟じゃないよね?」開口一番にそう言われたダイチと僕は
「は?!」「え?!」と素っ頓狂な声を上げた。
「僕、こんなに目タレてません!!」と僕、「だよねぇ・・・?」とお婆さん。
「あんたら二人して酷くねぇ?!人が気にしてる事を!?」とダイチが抗議する。
そんなダイチに僕とお婆さんは二人して吹き出してしまった。




