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僕達の知らないスギさんとその友人 その③


脱いだ靴を持ち俺達はそっと様子を伺う、中は薄暗く人の気配は無い。直ぐに拝殿から弊殿へと移動し扉を探した。


それは壁板と同じ素材で出来ており、分かり(ずら)くはなっていたが何度も手を掛けたであろう跡があり、意外とすんなり見付けることが出来た。鍵は掛かっておらず一安心


音がしないようにそっと(かんぬき)を開け廊下に出るが、本殿には錠前が掛かっていた。

ここに辿り着くまで気が付かなかった俺の落ち度だ。


開ける為には鍵がいる、当たり前の話だ。

俺は分かりやすく頭を抱え膝をつく、ヒラギはそれを見て合鍵さえ準備されてないと気付いたようだ。


ヒラギが錠前を確かめ小声で


「どうするんですか?」

と聞いて来る。


「どうもこうも・・・出直し・・・?」

俺が言い終わらないうちに


『シイー!』

とヒラギが人差し指を口に当て口パクで指示してきた。

俺達が耳を澄ませると拝殿の方から遠慮の無い引き戸を開ける音が響く。


あの開け方は父親だろう。非常にマズい。


拝殿なら言い訳も効くが、ここは俺が入るのすら禁じられている場所だ、おまけにヒラギも居る。


本殿と渡り廊下に掛けられた垂れ幕は、外から入れないように上下部分がキツく結びつけられ、ハサミでも無ければ外に抜け出す事も出来ない造りだ。


『先輩、コッチ!』

本殿の横にヒラギが引っ張る。


本殿の周りも垂れ幕に覆われているが、蟹歩きのようにすればギリギリ人が通れそうな隙間はある。

ヒラギのようなスリム体型であれば、難なく通れるが、樽体型の俺には正直キツい。


しかしモタモタしている場合では無い。

こうしている間にも、こちらに続く扉のすぐ向こう側からガタガタと何かを動かす気配がする。


ヒラギに続く様に、本殿と垂れ幕の隙間に樽な身体をねじこむ。


きっと外側から見たら、垂れ幕の一部が不自然に膨らんでいただろう。だいぶ暗くなって来た。きっと気付かれない!と思いたい。



息を殺し、待つ。

(かんぬき)が外され扉が開いたようだ。死角になっていて見えないが、恐らく本殿前の少し開けたスペースに簡易の祭壇を準備するのだろう。


カツン、カツンと、聞き覚えのある足部分の支えをする添え木を、枠にはめ込む音がする。それが終わり、少し引きずり位置決めしている。


『カシャカシャ、ガチッ・・・・』


その後、気配が遠ざかって行った。

祭壇の供物など通常と同じなら、その品々を持ち込むのにも手順がある。神事の最初に父が祝詞を上げるから着替えの為に更に時間が掛かる。俺達が抜け出すなら今だろう。


そう考えた俺は、ねじ込んだ身体を今度は引っ張りす。やはり俺の樽が邪魔をする。ヒラギがちょっと押してくれた。


無事に隙間を脱出し、俺は外に出ようとするが、それを止めれれた。

俺の腕を掴む手に力が入る。振り向くと錠前の鍵が開けられ、ぶら下がっただけの状態に・・・。


『入らないんですか?』と、その目は言っていた。中を調べる絶好のチャンスである。


万が一のカモフラージュの為、錠前が自然に落ちたように見えるように、掛けがねの真下にそっと外した錠前を置くと、本殿の中に入り引き戸を閉めた。窓も無い本殿はとても暗く、ホコリと何か青臭い香りがした。


帰り道の為にヒラギが用意していた、小型の懐中電灯で辺りを照らす。

中は思いの外広く、奥におおきな祭壇があり、その上に小さな社台が乗っている。その中に御神体が納められているはずだが、俺達が探しているのは【香炉】又は【香】そのものだ。


しかし、

いくら探しても無かった。簡易のお炊き上げ台すら無く、火の気がありそうなのは蝋燭だけだ。


「どうなってるんだ・・・?」


疑問が口をついた。


「どう・・・しますか?」


これからどうするか、本殿から出るか出ないか。


【香】の線が消えた、今は、もう・・・『そうだ、簡単な事じゃないか、逃げれば良い、妹と。』

俺が考えた結論、それは案外簡単な事だとその時は思えた。



『先輩!誰か来ます!』

小声で言われ、ハッと我に返るとヒラギの言葉通り、誰かが廊下を歩く気配がする。


『祭壇の後ろに!』

そこには厚手の垂れ幕があり、大きな祭壇との間に若干の余裕もある。

俺達は祭壇の左右に分かれ、垂れ幕の裏へと身を潜ませた。


入って来たのは妹だった。


外は月が昇ったのか、やけに明るく。

妹の身体のシルエットが浮かんでいるように見えた。


何か違和感がある。


妹は扉を開けたままこちらへと進んでくる祭壇の左右2本の蝋燭に火を灯し、部屋の四隅にある灯籠にも明りを灯す。


ほんのりと照らされた本殿の中ほどまで進み、神棚に向かって座ると、巫女鈴(みこすず)玉串(たまぐし)を両手で捧げるように頭より高く持ち、2度、ゆっくりと【礼】を繰り返した。


神事はもう始まっているようだ。


俺達は動けない。眼の前に居る妹は、いつもと違う。


神聖な空気を(まと)いそこに【()る】存在になっていた。神に近い()()に。


この時の俺からは『妹を連れて逃げる』と言う選択肢は吹き飛び、ただボーゼンとしていた。


それからやや暫く妹は瞑想してるかのように動かずにそこに【()り】気が付くと両脇を抱えられた中年の男性が運び込まれた。


その男は祭壇の前に準備された畳に寝かされ、本殿の扉が閉められる。


男と二人になった妹は立ち上がると、巫女服の一番上に来ていた衣を脱ぎ、男に掛け。巫女鈴と玉串を手に踊り始める。


俺はやっと違和感に気付いた。


それは一番上に着るはずの薄衣が中に着られた薄衣だけの巫女衣装。普通の巫女衣装では考えられないほど身体のラインが出ている。


扇情的でやけに生々しい舞いだった。


簡易的とはいえサラシで作られた下着は着けているが、段々と激しくなるその舞いで汗に濡れ、乱れ、下着の意味さえ果たさなくなっていった。


ヒラギの(つば)を飲み込む音が聞こえた気がした。

この時はまだそれどころでは無く・・・後になって殺したくなったのは兄として当然だろう。



舞いが佳境に入ると突如、妹の身体がガクガクと揺れだし、寝かされていた男に襲いかかった。


そのまま男に覆いかぶさり口付ける。


噛み付くと言った方がしっくりくるほど、それは激しいものだった。

数分か、もっと長かったようにも思える時間それは続き。俺は見ていられず目をそらした。

そらした先ではヒラギが唇を噛み、睨みつけるような眼差しを2人に向けている。


そして本殿の外で終了の祝詞が始まる。



すると首の後ろを引っ張り、持ち上げられたように顔を上げ。白目を剥き、口から真っ黒な何かを垂らした妹が、そのままフラフラと立ち上がり崩れ落ち。


それとほぼ同じタイミングで父の祝詞も最後の一文を読み終えた。


畳に寝かされていた男は、頭を押さえながらではあったが一人で立ち上がり、自分で本殿の扉を開け、そのまま出て行き。


後に残された妹はスーツの2人に抱えられて行った。




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