僕の知らないスギさんの過去 その③
「俺の、妹に似てるんだ・・・髪の色や肌はもちろん違うが、有り得ないほど似てる。俺がこの街に来たのは妹を探すのが目的なんだ。死んだ、妹をな・・・」
そう苦しそうに言葉を発したスギさん、
「妹がいるのは聞いてたけど、亡くなってたのか・・・」
「・・・」
僕は何も言えなかった。
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俺の産まれた土地。
そこは少し長めの参道と杉の木ばかりが幅を利かせた鬱蒼とした場所だった。
うちの家系は代々巫女を跡継ぎとしてきた。古さだけが自慢のような神社だ。
女児を望んでいた両親にとって全く必要とされていない俺は、通いで来ていたお手伝いに育てられた様なものだ。虐待は無いものの優しい言葉も抱擁も無く、一般的な親の愛を知らずに育った。
俺が7歳の時、待望の女児が産まれた。
両親の喜びは異常な程、百日祝いの時には親戚を呼んで盛大に宴会を開く程だった。
俺はそれを見て初めて自分が惨めに思えた。
それまでは何も感じなかったから。
眼の前の妹の様に俺も『愛されたい』んだと気付いてしまった。
同時に『憎い、妬ましい』そんなドス黒い感情も湧き上がる。
両親や親戚はまだ酔って騒いでいてまだ幼い妹は疲れたのかグズり後半は別室へと寝かされていた。
俺はその部屋へ人目を盗んで入り妹の首に手を掛けた。
眠っていた妹は目を覚まし俺を見た、泣き出すかと思った。
しかし泣くどころか『キャッキャッ』と楽しそうに笑い出した。
狼狽えた僕は首から手を離すと今度は妹がその手を握り離さない。
妹にされるがまま握られ噛られ。僕はずっと両親に気付かれるまでそんな妹を見つめてた。
妹はそれ以来どんなにグズっても僕が来ると機嫌がなおるようになった。
あのドス黒い感情は僕の中から消えていた。
あの笑顔を見るたび両親のことなんて全く気にならなくなった。
妹が歩いたり走ったり出来る様になると両親の目を盗んでは2人で森へ出かけ樹の実や何かを採り行っていた。
そして月日が経ち妹が7歳。僕が14歳の時、妹は巫女としての修行が始まった。
最初の頃の2年は何事も無く過ぎていき時々妹を連れ出してこっぴどく怒られたりしたが全く反省はしていなかった。
そうしたある日、黒塗りの車が境内近くの駐車場に停められていた。学校から帰った僕は(客か?)とあまり深く考えずに通り過ぎた。
うちの護符は御利益があると一部には評判で、たまに同じ様な車が来ていたからだ。
そのうち頻繁に見るようになると妹の生活に変化が起きた。
普段は普通に学校に通いながら放課後と休日に修行をしていたはずが学校にほとんど行かなくなり1日の殆どが修行に当てられる様になった。
そして両親の警戒がキツくなり数日間、妹の姿を見れない日が続いたある日。
夜遅くに妹が救急車で運ばれた。
突然の事だった、僕は学期末のテストに向け勉強中。
にわかに外が騒がしくなり何が起きたのか確かめに境内に向かうとそこには知らないスーツの大人が何人かと運び込まれる担架、救急隊員の姿が見え。
スーツの男達は逃げるように例の黒い車で走り去った。
車を見送る父親に何事か聞くが「お前には関係無い、あっちへ行ってろ!」と話にならない。
そうするうちに社の中から妹が隊員に抱えられて出てきた、そのまま側で待機していた担架に乗せられ運ばれて行く元々あまり日に焼けていないその妹の肌は血の気が無く、いつもより真っ白でその口元にはドス黒い何かが付着している。
ピクリとも動かない妹、僕も一緒に救急車に乗ろうと近づくが父親に殴られ止められた。
カッとして父親を睨むが興味無くそっぽを向いて何処かに電話し始め救急車は付き添いの母と共に行ってしまった。
誰かと電話で話している父はそのまま社務所へ入り僕は一人、境内で遠ざかる救急車の音を聞いていた。
数日が経ち妹が会いたがっている。と父が僕をしぶしぶといった体で病院へ連れて行った。
白い病室の中、白い顔をした妹が僕を見て嬉しそうに微笑む。
泣きそうになった。
いや、もう泣いていたんだと思う。
「何なんだよお前、どうしたんだよ・・・」
そう言った僕の声は震えていたし妹の微笑みは何だか歪んで見えにくかったから。
付き添っていた母は珍しく気を利かせたのか病室を出て行き少しの間だが妹と過ごす事が出来た。
「ごめんね、お兄ちゃん」
僕が泣いてる間ずっと繰り返しあやまる妹。何も出来ない自分自身が情けなくなかなか涙は止まらなかった。
妹は一ヶ月近く入院。
退院した後も神事だ、お祓いだと半ば隔離された状態だった。
渋々といった感じでたまに両親に面会を許され会えたが見る度に痩せて行く妹。
何の病気なのか両親に聞いても何も答えてくれない。
翌年また妹が倒れる。
それから入退院を繰り返し両親が教えてくれないならと担当医を捕まえ何の病気なのかと問いただしたが答えは『分からない』だった。
僕は医者になると決め植物学者の道を諦めた。




