僕の知らないスギさんの過去 その①
翌朝起きるとスギさんは昨日連れてきた女の子の脈を測っていた。まだ意識は無い。細い腕に繋がっている点滴の管が痛々しい。
あの子の事も心配だけど何だかスギさんの様子がおかしい、僕は声を掛けるのを躊躇った。
そっと診察室から離れ給湯室に向かった僕は朝食を作る事にした。最近の朝ごはんは和食が定番になっている。
今日は簡単に目玉焼きにする事にした。
付け合わせはレンジを使って蒸した人参、じゃがいも、ブロッコリー、それにソーセージも追加しよう。味噌汁は玉ねぎと油揚げにする。
今日は朝から畑の手伝いの約束がある、だから簡単なものにしたけど物足りないかな?
スギさんの好きな味海苔も出してあげよう。
うちの食卓に並ぶ野菜の殆どがキヨお婆さんの畑の物だ。
井戸水を使っているせいかどれも凄く美味しい普通にお店に並んでいる野菜とは別格!
僕も手伝ってるから贔屓も多少は入ってるかもだけど。
朝食が出来上がり休憩室のテーブルに箸やお茶碗を並べて準備は整ったがまだ2人は来ない。
何時もなら出来上がる前には匂いを嗅ぎつけたスギさんが先に次にダイチさんが。それから2人でご飯を盛ったり醤油など出すのを手伝ってくれるんだけど・・・。
(ダイチさんを先に呼びに行くか)
さっきのスギさんを思い返す、何ていうか【思い詰めてる】気がした。
(あんなスギさん初めて見た)
呼びに行きづらい・・・。何となくなんだけど邪魔しちゃダメな感じ?
そこまで考えた時『チン』と少し割れた様な軽い音。エレベーターだ。
スゴい寝癖のダイチが頭とお腹をボリボリしながら降りてきた。顎が外れそうなアクビをして如何にも『のっそり』って表現がぴったり。
「あれ?スギは?」
僕が一人なのに気付いて聞いてくる、僕が返事をしようと口を開きかけた時
「あれ?もう出来てたんだね。悪い全然手伝わないで」
スギさんも来た。
良かったいつものスギさんだ。
「今日は簡単なものだけだから全然大丈夫ですよ!」
さあ朝ごはんだ。
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和やかに食事は進みダイチさんが三杯目のご飯をおかわりした後スギさんが二杯目の味噌汁をすすりつつ話を切り出した。
「あの子だが、あれ、人間じゃ無いぞ?どうすんだ?」
「・・・・・っっ!??」
「・・・・・??????・・熱っっっ!」
僕は吹き出しそうになったお茶を必死で飲み込みダイチさんはご飯に味噌汁をかけてたが、なんかこぼしてた。
「また、め・ん・ど・う・ご・と・・・・だ。」
悟りを開いた眼差し(諦めたとも言う)で遠くを見つめるスギさん。
僕はテーブルにこぼれた味噌汁を布巾でキレイにしながら思う、取りあえず心のなかで謝罪しておこうと・・・
だってダイチさん逃げたし、おまけに雑巾を取りに行って中々戻って来ない。
そうするうちにスギさんが食べ終わり自分の食器を給湯室に片付けに行き片手に雑巾もう一方にダイチさんを半ば引きずるように戻って来た。
ダイチさんしっかり猫飯は死守してた。
この日からダイチさんは僕の中で【残念な人】になった。
取りあえず食事を済ませた僕達はスギさんから詳しく話を聞くことにした。
髪は黒に近い緑、皮膚はかなり白っぽく血管が見当たらない。
脈の様なものはあるが、それは人間で言う骨にあたる『芯』のような部分から発せられてるらしい。
診察室は夜間に対応してないせいか薄暗く昨夜は気付けなかったそうだ
そして人間にはあるはずの【へそ】が無い。とのこと・・
血液を採取しようにも注射針を刺しても半透明の白っぽい液体が滲み出るだけだったそうだ
昨夜、診察した時点で【人間じゃ無い】のは気付いていたが連れてきた経緯が経緯だ。ちゃんと調べたくなったと言っていた
衰弱しているのは間違い無く、時間が経つほど皮膚が乾燥している感じがあり応急処置として現在は蒸留水に植物用の栄養素を加えた点滴をしているそうだ
「アレは化物だ、意識が無いうちに始末しよう。とは、言わないんだな・・・。」
ダイチが口を開いた。
「!!」
「・・・・・・。」
スギさんは腕を組み沈黙した。
僕は隣の診察室に目を向け今も眠っているあの娘を見つめる。
「スギらしく無いな、どうした?いつもなら始末、一択だろう?」
「っそんな!・・スギさん、そんな事言わないよね?!」
「・・・・・・・・・・研究対象・・だな」
しばしの沈黙の後に出た言葉は何故か言い訳みたいに聞こえた。




