俺のアイツと遊郭と その②
本題はトシキの事。
アイツの素性は全く分からずお手上げ。
戸籍も無い。
枯れ杜の枝にぶら下がっていた理由も荒唐無稽。
だがあの枯れ杜が暴れ襲われた時。
最後の抵抗とでも言うようにトシキは襲い来る枝に両足で蹴りつけ空に勢い良く打ち上がり頭から落ちた。
あの時、俺も枝に弾かれ受け身は取ったものの直ぐには動けずただその光景を見てるしか無かった。
トシキが落ちて来る時、緑の葉が1枚ポケットからこぼれ出た様に見えそれが枯れ森の枝に触れたと思った瞬間に杜が変様した。
怒り狂っていたはずの杜が見る間にトシキを包み込み瑞々しい葉に覆われた繭になった、そして次の瞬間には弾けるように消え
奇跡のような瞬間だった。この目で見なかったら信じないだろう。
気が付くと繭から解放されたトシキは幹を背に座る俺の膝に寝かされいて『託された』と俺は感じてた。
だからこそ枯れ杜に置き去りにするなんて考えられないし決してやらないと誓い、それ以前に家に帰してやると約束している。
もし帰る家が無いとしたら俺が作ってやる。
そんな気持ちだった。
「馬鹿な事言ってんじゃ無いよ!大の大人が杜の怒りに当てられて夢でも見たんじゃないのかい?!」
全部本当の事なんだが楼主の反応はほぼスギさんと同じだった。
その後も散々、厨二病だの頭打っておかしくなっただのと言われ。全く酷い婆さんである。
しかし俺の頼みには協力してくれるそうでトシキは遊郭で数年前に亡くなった『遊女の子供』って事になった。
この土地では何故か子供は産まれない。だが絶対とは限らない。そんな言い訳が通じるのは前例があるここの遊郭だけだろう。
俺の所に居る理由としては『病気で一時的にスギの所に入院していたがそのまま俺の所に奉公に出された』と口裏を合わせる事になった。
話が纏ると婆さんこと楼主は俺をさっさと部屋から追い出しにかかり俺は案内役の禿に先導され5階に向かう。
向かう先は勿論、夕鞠。
「失礼致します、夕鞠ねえさんダイチ様をお連れしました。」入口の前で禿が正座し声掛けすると。奥から
「・・・お入り願って」と返事があった。
正座のまま禿が引き戸をスッと開け俺が通れるように座り直し深くお辞儀、俺が部屋に入るとコウベを垂れたまま静かに戸を閉めた。
婆さんの躾は驚嘆に値する。まだ幼い禿、前回来た時は酷いものだったが今回は完璧な所作だった。(後であの娘にもキャンディーをあげよう)そう考えつつ夕鞠の居る更に奥に進む。
夕鞠は年嵩の禿2人に手伝って貰い打掛けを羽織る所だった。
今日の小袖は濃い目のピンク、打掛けは濃い紫に鶴と牡丹の刺繍、帯は金に近い黄色だ。
派手だが夕鞠はここの【看板】目立ってなんぼな役回りだ。
夕鞠の部屋は表通りに面していて客が引けるまで窓辺で過ごす。俺が来ない日は他の男の酒の相手より【看板】としての役割を果たすことが多い。
身体は売らない遊女。
それが夕鞠。
俺と居る時も夕鞠は窓辺に座る。俺が居る間は殆ど表通りには背を向けて居るがその後ろ姿だけでもと人が見に集まる。
窓辺に手をかけそっと下を見る。そんな彼女の背後に周り込み下からの死角になる位置に身を寄せる。
「今夜も集まってるな・・・」
俺はその肩に手をかけ一緒にその様子を覗き見。
その手を払い除けない彼女につい頬が緩む。夕鞠には俺の笑顔が馬鹿にされてると感じるらしく綺麗に彩られた顔に不機嫌さを追加した。
俺の女は最高に可愛い、しかし最近『笑顔』は少ない。
昔見た屈託の無い笑顔それが見たい。
取り留めの無い話をししばし夕鞠を独り占めしている愉悦に浸りながら俺は酒を飲む。
そしてエルデプラッツの新しい住人。
トシキの事を出会いから詳しく教え楼主と同じ反応を彼女から引き出した俺は満足し、
「近い内に紹介する」
と約束して帰路に着いた。




