俺のアイツと遊郭と その①
惚れた女が居る。
まだ気持ちは伝えていない。
アイツはまだ中身はガキで生意気で可愛い。
今夜もまた頬を膨らませ俺を迎えるんだろうか?
俺はまた軽口を叩いて怒らせ甘いもので機嫌を取る。
そんなやり取りを後何度こんなことを繰り返したら伝わるんだろう?
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まだ灯りを灯すには少し早い時間。
俺はスーツに着替え、少し長くなった髪にワックスを馴染ませ一度、前髪と両サイドを後ろに撫で付けた顔全体がスッキリするようしてから。頭頂部から後ろにかけて少し髪を遊ばせそうするうちに自然にこめかみ辺りの髪が落ちてラフな感じになる。これでヘアセット終了である。
少しタレた目がコンプレックスな俺、普段は隠してあまり出さない様にしている。でもアイツは俺のこの目を気に入ってる事に最近になって気付いた。
それ以来、アイツに逢える時にはこのスタイルにしている。
「おや、ダンナ久しぶりじゃありませんか。また【 外 】に出てたんで?」
店先で若い衆と呼ばれる男の使用人が掃除の手を止めて声を掛けてきた。
「まぁな。それより今日、楼主はいるか?」
「楼主?夕鞠じゃ無く?」
前回来てから暫く経つ、気持ちが早っていたせいか何時もより早い時間に着いた。仕事は早目に済ませたい。
「そっちは後、仕事が先だ」
「へぇ・・・私は後なんだ・・・」
店の暖簾を隔てて声がした。
俺は軽く暖簾を上げ声の主の姿を目に映す。
夕鞠だ。
もうすぐ店を開く時間だが髪を結い上げただけで、まだ湯着に肩掛け姿のアイツは入口直ぐの上がり場に立っていた。
結った髪のせいで少しツリ気味の目が勝ち気さを醸し出し少し小ぶりの鼻、そしてぽってりとした唇は何も塗って無いのに薄っすら紅色に染まり元々の肌の白さを引き立てている。
素顔も可愛い。俺は思わずニヤけて」
「なんだ夕鞠。俺が来るのが待ちきれ無かったのか?迎えに出るなんて珍しいじゃないか」
「う・る・さ・い!!たまたま居ただけよ!私も楼主に用があるの!だからアンタの相手は後でしてあげるわ!」
「なんだ拗ねたのか?可愛いな?」
「・・・かわっ・・・・・違うから!」
白粉が塗られていないせいで顔が真っ赤なのが丸わかりだ。
「アンタラ何やってんだ!いい加減にしな!店先でギャーギャーと!2人共とっとと奥に来な!」
俺達2人の掛け合いに騒ぎを聞きつけたのか楼主が割って入ってきた。
ここの楼主は女だ。本来の楼主はこの女の旦那だが急な病気で亡くなり妻だったこの人が後を継いでいる俺は亡くなった先代からの付き合いだ。
「おお、こわ!」
そのやり取りを見ていた若い衆が『巻き込まれてはたまらん』とでも言うように外へと逃げ出す。
俺と夕鞠はこれからまた説教があるだろう事を予感し2人で溜め息をつき肩を落として楼主の後に続いた。
楼主の部屋は1階の奥まった所にあり呼ばれない限り夕鞠たち遊女は足を踏み入れない・・・踏み入りたくないと言うのが本当の所だろうか。
予感通りに小一時間、楼主の説教に晒され俺が早く着いた意味は無くなり本題に入る頃には店開け時間はとうに過ぎていた。夕鞠の用事は後日だと部屋から追い出される。
まだ支度が整っていない夕鞠は不満げな様子を隠しもしないで出て行く。
楼主は俺と2人になった所でタバコに火を付け大きなため息と共に煙を吐き出した。楼主付きの禿が俺と楼主にそっとお茶を出してきた。
「ありがとな。」
そう言って微笑み俺はその禿のオカッパ頭をクシャりと撫でるとその小さな手にミルクキャンディーを3つ握らせる。すると禿は目を輝かせ俺と楼主の顔を交互に見る。
楼主はハアと溜め息をつくと手振りで行って良いと禿を促した。
「アンタねぇ・・・誰もカレも甘やかすんじゃないよ!私が躾ける意味、理解してないのかい?!」
「アメとムチだよ。ばあさん。」
他の目が無くなると俺は直ぐ足を崩し寛ぐ。
「本当にアンタは・・・私も亡くなったうちの人もアンタんとこの爺さんには返しきれない恩がある。大抵の事には協力もする。だけどそろそろ何とかして欲しいさね」
「・・・分かってる後少し決定的な何かが足りないんだよ」
「その何かはイツだってんだ!そんなの待ってたらあの娘だってババアになっちまうよ!」
そう言うとタバコの箱を投げつけてきた。俺はそれをキャッチすると中身を確認し最後の1本を取り出すと火を付け、空き箱を潰しテーブルに置いた。
「あの娘の立場的に本来なら遊女なんてしなくて良いんだ。アタシはあの子には普通の幸せに囲まれた生活をして貰いたいんだよ。アンタに惚れた時点でそれも無理な話なんだろうがね?」
「惚れて・・・?本当にそう思う???」
「ダラシない顔はお止め!・・・はぁ、バカバカしい止め止め!!アンタ今日は他に用事があって来たんじゃないのかい?」
そうだった。
今日の俺の仕事の話がまだだった。
お楽しみは後だ。




