幕末にて百鬼夜行
灰狼は今回のイベントに向けて、一週間ほど前から「幕末」にログインしていた。
そして今、そのイベントの終盤である。
「やっぱり、こっちのが性に合ってるな」
「灰狼!天誅してやるぅぅ!!」
「お返し天誅」
「やはり敵わぬのか・・・」
今回のイベント「極限月下」ではデスしたプレイヤーが「怨霊」となってリスポーンする。
灰狼の背後に屯するそろそろ百人に到達する亡霊の中に、また一人加わる。先程天誅したプレイヤーだろう。
序盤は大人しくし、中盤から動き始めた結果、ぞろぞろとプレイヤーが集まってきたため、その全てを返り討ちのした結果、灰狼は今、百鬼夜行状態となっている。
この亡霊共はキルスコアの他に壁をすり抜ける偵察機やスコアに釣られたプレイヤーを誘い出すなど活用の方法は多い。基本的には亡霊を自身の側から離れさせ、スコア隠しを行う。
しかし、灰狼は隠さずプレイヤーを誘い出し、戦闘を楽しんでいた。
・・・横から小さいが声が聞こえる。
「げっ、百鬼夜行」
「天誅」
長屋に隠れてイベント終了を待つプレイヤーを壁貫き天誅し、向かうは「レイドボス」ユラのいる場所だ。
「幕末」二日目に戦った結果、一撃も入れれずに天誅されたからな、4日目に出会ったハルさんにレイドボスさんの話を聞いて対策練ったんだ、今回こそ一撃入れてやる。
「・・・噂をすればなんとやらだ」
物陰に隠れ、少し離れた場所で壁貫きでプレイヤーを仕留めてるレイドボスを見る。距離は10mは離れているだろう、流石に気づかれないは・・・こっちを向いた?
「・・・気づかれてるな、これは」
ちょうどいい、一対一と行こうか。亡霊たちのボディランゲージによるとレイドボスさんと半殺し状態の2位以外ランカーは全滅らしい、邪魔する者はいないだろう。
レイドボスさんがこちらに歩いてくる。背後には、数百人の亡霊による百鬼夜行・・・流石はレイドボスさんだ、観客(被害者)が多い。
二人は大通りで相対する。周囲には長屋がある。レイドボスさんは・・・様子を見るに、いきなり本気状態。もしかして、「祭囃子」と「勇者」VS「レイドボス」の戦闘場所ってここの近くか?
「この前の・・・」
「ありがたいね、覚えられてたか」
どうやら、初対決の一対一での戦闘を覚えていたらしい。記憶に残った、という事でいいのかな?
「ユラさん、一騎討ちと行こうか」
亡霊共が騒ぎ出す。音は聞こえないが、きっとレイドボスさん相手にこちらから話しかけたことに対してか、一騎討ちを申し出たことについて話しているのだろう。
「・・・良いよ」
レイドボスさんは言い終えると共に一閃。レイドボスさんの持つ「斬星竿」が高速で振るわれる。首狙いの剣筋、今の俺なら避けれる・・・老人との戦闘がここで生きてきた。
姿勢を低くし、斬撃を避ける。低い姿勢から前に踏み込み、突きを繰り出すが、体を捻り避けられる。
「・・・まぁ、避けるよな」
「・・・楽しい」
笑みを浮かべる。まだまだ、余裕があるようだ。
レイドボスさんとの戦闘は短期決戦でなければ勝ち目は無いだろう。倒すのならばそれこそ一撃での天誅だ。
思考を加速させる、なにか技はないか?・・・一つ、完璧には真似できないが試してみるか。
「来ないの?」
「心配無用だ」
一瞬、斬星竿が動く。風切音と共に首に迫る斬撃を身を屈め避ける。すかさず体制を整え追撃を躱す。
不安定で流動的な剣筋が次々と襲いかかる。気を抜くな、集中して躱し続け、仕掛けるタイミングを待つ。
横から、斬星竿の剣先が首に迫る。今だ、身を屈めそれを躱す。すかさず後ろに飛び退き斬星竿の届かない距離を取る。
祖父の言葉、動きを思い出しながら居合の構えを取り、覚悟を決める。この一閃で勝敗が決まる。
「ユラさんよ、最後の一閃だ」
居合の構えから縮地を使い、一瞬で相手の懐に入り抜刀。狙いは首のみ。首を断つ
が、目の前の怪物には一歩及ばなかった。
「・・・斬り落とせないか」
「とても、惜しかったよ」
剣先は首を斬り裂いたが、断つことは出来なかった。
「天誅」
レイドボスさんの斬星竿が首を断ち、俺は亡霊となった。
その後の亡霊達との観戦や会話は楽しいもので、知人が多くなった。
「・・・楽しいな」
今回のイベントは楽しいな、「祭囃子」サンラクや当千、新人の灰狼。・・・とても楽しい。
イベント後も、楽しみだ。
今回のイベントで増えた「幕末」知人
・幕末ランカー・・・レイドボスさん関係や自身についての話。
・「祭囃子」サンラク・・・死にゲーマーとクソゲーマー。
・京極・・・新人仲間。レイドボス関係の話。どちらも身内に剣道経験者がいる。
・「戦争屋」トリガー・・・以前、仇討ち感染をされた。
既に知人
・「銭鳴」ハル・・・基本情報を教えてくれた人。指パッチンからの天誅を灰狼にした結果。二回目から腕ごと斬り落とされた。