仲良し?
倉山くんとの会話はそこまで増えることも無く、挨拶や必要最低限の会話だった。
彼がどんな人なのかもわからない。
クラスでは仲のいい男子と会話するのみで、女子と会話をするところを見た事がない。
部活の先輩と話す時も礼儀正しい後輩としての対応。
何を考えているのかも分からなかった。
本格的に部活に参加し、部員として馴染めてきた梅雨頃。
バドミントン部に新しい部員が増えた。
同じ1年生の女の子。
クラスは違うので初めましての子だった。
「今日から部員になる坂井だ」
「初めまして!坂井美希です。バドミントンは未経験なので、よろしくお願いします!」
「佐久間、坂井を案内してくれ」
「わかりました!」
私は先生に言われ、坂井さんを案内した。
「初めまして、佐久間柚姫といいます!なんか分からない事あったらなんでも言ってね!」
「はい、お願いします」
坂井さんは同じ1年生だし、これから仲良くやって行けるといいな。
「中学の時、バドミントンが無かったから高校でやれるの楽しみにしてたんだよ〜!」
「あ、そうだったんだ!一緒に頑張っていこうね!」
軽く自己紹介をして雑談をしながら部室や用具入れなどを
案内した。
「おー、戻ったか。坂井は今日参加するか?」
「はい、やりたいです」
「なら佐久間、倉山。お前たちが教えてくれ」
「わかりました」
「じゃあ、坂井さんこっちで練習しよっか」
「うん!」
私達3人は体育館の端っこでバドミントンの基礎を
教え始めた。
「坂井さん、これはこうやってやるんだよ!」
「うーん、結構難しいね」
「慣れるまでは大変かも!」
私と坂井さんは苦戦しながらも練習をしていた。
倉山くんは少し退屈そうに見ていた。
「…倉山くん。ちゃんと教えてよ」
私は倉山くんに話しかける。
「うい」
素っ気ない様子で返事をする倉山くん。
…絡みずらい…。
「ちょっと私部室にタオル忘れてきたからもってくる!」
坂井さんはそう言って小走りで去っていった。
残された2人は無言で床に座る。
「…いつもこんな感じなの?」
私は恐る恐る話しかける。
「まぁ。あんまり会話しないかもね」
「ふーん。仲良い人とも?」
「仲良い奴とは普通に話すよ」
「へぇ、人見知りってやつ?」
「…否定はしない」
あー。この人、仲良くなるまで時間かかるタイプなのかな?
仲良くしたいけど、このままじゃ無理なのかな?
「ごめん!おまたせ!」
「おかえり!じゃあ、続きやろうか!」
坂井さんが帰ってきたので、練習を再開させた。
自分でバドミントンをやる時はスムーズにできるのに、いざ人に教えるとなると難しい。
「えー…これどうやって教えたらいいの…?」
私は呟くように独り言を話す。
「…もしかして、教えるの下手くそ?」
そう言い放ったのは倉山くんだった。
「え!?」
「あ…」
私が驚いた様子で反応すると、倉山くんは少し焦ったような反応をする。
「…じゃあ、倉山くん教えてよ」
「めんどい」
「めっ、めんどい!?」
倉山くんの返答に私は少し大きな声で返す。
「ふふふっ」
会話を聞いていた坂井さんが少し笑う
「2人、仲良さそうだね」
坂井さんから思ってもなかった言葉がでる。
「いや、どこがよ!?」
私は思わずつっこむ。
「早く練習終わらせようぜ」
倉山くんはだるそうな雰囲気で言う。
「…倉山くん何もしてないでしょうが」
「うっせ」
この時、倉山くんと自然な会話が出来たことを
嬉しいと感じた。
初めて会話した時から敬語が無くなって、くだらない会話ができ始めた事に私は少しだけ彼の性格を知れたのかもしれないと思った。
この出来事から部活では倉山くんとフランクに話ができるようになってきた。
「倉山くん、そのシャトル取って」
「どれ?」
「倉山くんの横にあるでしょ」
「あー、これね。はい」
倉山くんはシャトルをシュッと私に向けて投げる。
「いや、危なっ!もっと優しく投げてよ」
「優しく投げました〜」
「…うざぁ」
倉山くんと話してきて、彼の性格で分かったことがある。
少しでも打ち解けないと一線を引かれてる態度を取る。
慣れてくると結構雑なところがある。
…結構いじわる。小学生みたい。
第一印象とは全くの別人だった。
同じクラスではあるが、部活以外の時間で話すことは
一切無かった。
クラスの倉山くん。部活の倉山くん。
2人存在するんじゃないかと思うくらい別人。
どちらとも見ていた私は、部活で会えるのを
密かな楽しみになっていた。
〝この時間がずっと続けばいいのに〟
この感情が好きと直結するかはわからないが
心の中で思っていた。