初めての会話は他人行儀?
体操着に着替えた2人は体育館にある教官室にはいる。
「佐久間、佐々木。改めてよろしくな」
「はい、お願いします」
柚姫と夏羽の声が重なる。
「佐々木はバレー部の方で小池先生が待ってるから向かってくれ」
「はーい!」
「佐久間は俺に着いてきてくれ」
「分かりました」
そう言って私たちは別れ、先生について行くのだった。
「知っているとは思うが、自己紹介しとく。学年主任の高山だ。」
「よろしくお願いします」
1年生の学年主任。
知らないわけが無かった。
「そういえば、部員に倉山がいるな。話したことなあるか?」
「いえ、ないですね」
「部員も少ないが、1年生では倉山が1人だけだからお互い助け合って仲良くしてくれ」
「わかりました」
部員が少ないとは言っいたけど、まさか1年生が1人だけだとは思わなかった。
「倉山は中学でバドミントンをやってて入学から部活に入ってるんだ」
「そうなんですね」
会話しながら高山先生に連れられ、バドミントン部の前に着く。
「はい、集合!」
パンパンと手を叩き先生は集合をかける。
1列に並んだ部員達は私に目線を送る。
「今日から入部する佐久間だ。分からないことだらけだから助けてやってくれ」
「佐久間柚姫です。よろしくお願いします!」
お辞儀をすると部員達からよろしくと拍手された。
「倉山!部室と用具入れ案内してくれ」
「…わかりました」
表情を変えない彼は私の前を歩きだす。
正直、なにを考えているのかわからないくらい無表情だった。
「倉山くん?えっと、よろしくね?」
少し戸惑いながら挨拶をする。
「…うっす」
えっとー…それだけ?
一言会話を交わすと2人は無言で部室と用具入れに向かう。
「ここ、部室なんで、自由に使ってください」
「…わかりました」
「用具入れはここです」
「…はい」
同じ1年生とは思えないくらいの距離感。
もちろん初対面なので会話が弾まない事は仕方ないのかも
しれないが、ここまでよそよそしいのだろうか?
私は心の中で(これ、一線引かれてるわ)と感じた。
確かに、クラスの中で彼は物静かな人だった。
これが通常運転なのかもしれない。
特に会話もなく、2人は体育館に戻る。
「よし、戻ったな。部活再開するぞ」
先生の一言で部活が再開した。
私は初日なのでまずは見学と先生に言われ、
静かに座っていた。
「そこ!フォームが崩れてる!」
「はい!」
部員が少ないといえどしっかり声が出ていて
活気溢れる雰囲気だった。
「次!倉山!」
「はい」
彼がコートに立ち、基礎打ちが始まる。
その姿はクラスにいる彼とは違い、とても輝いていた。
すごい。
かっこいい。
私は輝いている彼から目が離せなくなっていた。
「今日はここまで。明日からは佐久間も参加してもらうからよろしく」
「はい。お願いします」
「解散」
先生が帰った後に私も部室に向かう。
「佐久間さん!」
元気な声で話しかけられる。
「佐久間さん、部活どうだった?」
声をかけてくれたのは、先輩だった。
「はい、活気溢れててバドミントン早くやりたくなりました!」
「それなら良かった!先生結構厳しいけどねぇ」
少し笑いながら先輩は言う。
「私、野中綾!これからよろしくね!」
「佐久間柚姫です。よろしくお願いします!」
「もう1人女子いるんだけどね、今日休みなの!また来たら紹介するね!」
「そうなんですね!」
とても優しそうな先輩。
「倉山くんと同じクラスなんだってね!クラスでも物静かなの?」
「そうですね…今日初めて会話したのでまだわからないんですけど…」
「え!まじ?そういうレベル?」
「はい…」
野中先輩は笑いながら会話をする。
「佐久間さんも最初は緊張すると思うけど分からないことがあったらなんでも言って!」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、また明日ね!」
笑顔を私に向けて野中先輩は部室を出た。
「夏羽の所に行こう」
私は着替えを済まし、夏羽の所へ向かった。
「夏羽〜」
駐輪場に居た夏羽に声をかける。
「柚姫!お疲れ様!どうだった?」
「うん、楽しそうだったよ!夏羽は?」
「私も!これからが楽しみだよ〜!」
夏羽とは途中まで帰り道が一緒なので、2人で自転車を漕ぐ。
「やっぱさ〜、高校生といえば恋愛だよね!」
夏羽が急に言い出す。
「恋愛かぁ〜」
「何、興味無い感じ?」
「そんな事は無いよ」
「青春したいよ〜」
「まぁ、確かに」
「でしょー?」
今まで恋愛漫画を読んできた私は恋愛に興味無いわけではなかった。
むしろ、憧れがあるレベル。
「柚姫は好きな人のタイプある?」
「タイプかぁ、優しい人とか?」
「うわー!めっちゃわかる!恋愛漫画みたいな恋したいよね!」
「それ!憧れるよね!」
夏羽に共感してもらってテンションがあがった。
帰り道は恋愛漫画の話や、理想の人の話をして
盛り上がりながら帰った。
「じゃあ、ここで!柚姫また明日ね!」
「うん、夏羽もまた明日!」
1人の帰り道は頭の中で話してた恋愛の事を考えながら帰る。
理想の人。
タイプの人。
恋愛漫画を見ていた私は完璧な王子様よりも少し意地悪だけど優しくて、面白くて、楽しい人がいいと理想があった。
もちろん理想と現実は違うと理解はしていたけど、
素敵な恋がしたい。
憧れだけは捨てなかった。