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第5話

「私が事件に気づいたのは今日の朝ね。私は忘れ物を取りにこの部屋へ入った。ちゃんといつも通り鍵がかかっていたのは確認している」

「鍵はいくつある?」

「職員室に1個だけね。スペアキーは多分、ないと思う」


 なるほど、と私は頷く。


「そして私は自分のロッカーの鍵を開けた」

「ロッカー?」

「奥に3つあるでしょ? あの中にそれぞれの私物が入ってるのよ」

「ロッカーの鍵は共通?」

「共通ではない。でもその鍵は学校の物だから、この部室のとある場所に3人分の鍵を隠してある。それは私たち3人だけしか知らない。先生だって知らない。それに部屋の扉も窓の鍵も閉まっていた。まぁ、ここは3階だから、窓からの侵入は無理でしょうね」

「だから、犯人はこの2人のうちどちらかだと?」

「そうよ。そしてこの2人しか私のブルマ姿は見ていない! 私のブルマ姿を見て、劣情を催し、我慢できずに盗み去ったのよ! 私の履きたてのブルマがどうしても欲しかった。私は彼女たちの前で洗濯しよーかなぁと言ってしまった。だから犯人は、洗濯する前にどうしても欲しかった。それは何故か! それは――匂いを嗅ぎ、ペロペロしたかったからでしょ! この変態が!」

「何故そのような発想になるのかが理解できないでござるよ!」

「本当に白々しいわね! 何故と聞いたの? そんなの決まっているわ。それは何故か――それは、私が隠れ美人だからよ!」

「隠れ美人?」


 志摩子は首を傾げる。


「まあ、何となく分かると思うけど、私はちゃんとしたら美人だから」


 理恵はドヤ顔になる。


 まぁ――確かに、素材はいいのかもしれないが……。


「いくら理恵殿が美人だったとしても、普段の理恵殿を見て欲情するような人はいないでござるよ」

「そうっすね。欲情からは程遠い人物っすよね」

「こ、心にも無いことを言いやがってぇ」

「因みに、他に盗まれた物はないの?」

「ないわね」

「そちらのお二人も?」

「さ、探してみるでござる」

「そ、そうっすね」


 しばらく待つが、特に何もなくなってはいないようだ。


「理恵、昨日までは間違いなくあった?」

「あったわ、間違いなく。この私の頭脳に賭けてね」


 そう言って、理恵は自分の頭に人差し指を置いた。

 それなら、まったくもって信用できる情報ではない。


「でも確か、昨日――洗濯するって言って鞄の中に突っ込んでなかったでござらんか?」

「確かにそうっすね、言われてみれば確かに――」


 私たちは全員、理恵の方に視線を向けた。


 理恵は頭に人差し指を置いたまま固まっている。


「理恵――あんた、もしかして」


 志摩子は軽蔑するような目を理恵に向けた。


 理恵の顔に冷や汗が流れる。


 皆の痛い視線が理恵に降り注がれる。


「ん~?」


 綾香ひとりだけ、首を傾げていた。


 あぁ、綾香。あなたはいつまでもそのままのあなたでいて。


「ちょっと待って、鞄の中は探したわよ。ブルマなんて入ってなかったから。ちゃんと何度も探したから、間違いなく」

「それを認識して探したのはいつ?」

「いや――それはまぁ、ブルマがないと気付いたときだけどぉ」

「それなら、帰って放り投げた鞄からお母さんがブルマを取り出して洗濯したって可能性がある」

「か、勝手に? ブルマよ。今時ありえないブルマなんか、そんなの勝手に洗わないでしょ」

「鞄の中に汚いブルマがあったら、普通は洗うと思う」

「汚くないですけど!?」

「理恵、とにかくお母さんに電話しなさいよ」


 志摩子の目がかなり冷たい。


「そ、そうね、後で聞いてみるわ」

「今すぐよ。当然、スピーカモードで」

「いやーでも、親との会話を聞かれるのは恥ずかしいと言いますかぁ」

「あぁ?」


 志摩子に睨まれ、理恵は慌ててスマホを取り出して電話をかけた。そして、通話が繋がった時、理恵の表情は明らかに引き攣った。


『何?』

「あ、あぁ、私だけどさ。昨日、私のカバンの中から何か勝手に取り出した?」

『ブルマのこと?』


 母親の言葉に理恵は、なんとも言えない顔をした。


「そ、それ、どうしたの?」

『どうしたもなにも、洗ったわよ。だって汚いじゃない』

「汚くないですけど!?」

『もう乾いているから、あんたの部屋に置いてあるわよ』

「そ、そう、ありがとう……」

『それだけ? お母さん、忙しいからもう切るわよ』


 理恵の返事を聞かずに、通話が切れた。


 沈黙。


「よかったね~、これで事件解決だよ~」


 変な空気が流れる。


「そ、そうね。流石は泉探偵団だわ。見直したわよ、綾香」

「えへへ~、ありがとうぉ。今後も、泉探偵団をよろしくだよぉ」

「当然よぉ。贔屓しちゃうからね! あぁ、それと噂も広めといてあげるわ。泉探偵団の凄さをね」

「わ~、本当? 理恵ちゃん、ありがと~」

「あぁ、しまった!」

「ど、どうしたの~?」

「しまったわー、とんでもない急用を思い出しちゃったわねー。こりゃー1秒たりとも余裕ないわー。このままだと、母が急死してしまうわね!」


 先ほどまで、あんなに元気だったのに?

 

「そ、それは大変だよ~」

「そう、大変なのよ。だから、これで失礼するわね」


 そう言って、理恵は片手を軽く上げた。


「ちょっと待ってくれるかしら」


 理恵の肩に、志摩子の手が置かれた。


「詳しく話を」

「いや、だから私忙しくて――」

「詳しく話を」

「いや、あの――」

「詳しく話を」


 私は首を傾げている綾香を部室の外に連れ出し、扉を閉めた。


 どうか安らかに眠れ、理恵。


 付き合いは長い。だから、骨ぐらいは拾ってあげよう。

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