51 試食会と三者面談
レシピのものを仮に作ろうと思うから、試食をお願いしたい。涼は緊張しながら、そう、クラスラインに送ってみた。
『え、マジ?! 食う!』
『どこで? なるべく全員に、一口でもいいから試食を行き渡らせたいよね』
『家庭科室借りるか?』
『あ、その案、賛成』
クラスメイトたちのその反応に、呆気に取られて。
『じゃ、家庭科室借りる、で。いいか? 橋本』
慌てて、『分かった』と送ったら。
『試食品だからさ。材料調達、分担しようよ』
そして、その話がどんどん進むことに、また呆気に取られて。
『これで全部出たよね? 橋本』
涼は我に返り、流れていったそれらを見直し、
『ああ、全部、揃ってる。あとはどのくらい作るかと、いつ作るか、か?』
そしてそのまま話は進み、涼は、光海にも食べてほしくて、光海の放課後が空いている時間を指定した。
◇
「大福用のいちご調達係、到着です」
言いながら、家庭科室に入る。そこにはもう、結構な人数が集まっていた。
「おお、来た。ほら、橋本」
レシピの詳細を説明していたらしい、コックコートにマスク姿の涼が、肩を叩かれて、ハッとしたようにこっちを見た。
「光海」
「買ってきました。2パック。ちゃんと領収書も」
言いながら、他の食材たちが置かれている調理台へ、いちごを置く。と、ふんわりと、甘くて美味しそうな匂いが、鼻先をかすめた。
「あれ、もう作ってます?」
「ああ、ケーキとクッキーの部隊が早めに到着してくれたから。スポンジとか、冷まさないといけねぇし。それだけ、先に」
ほうほう。
そして、続々と集まってくる後続。そうかからず、食材は全て揃った。
そして涼は、クラスラインに、モノが出来たら連絡する、と送り。
涼と一緒にスイーツ作りを担当するクラスメイトたちに説明を再開して、スイーツ作りに取り掛かる。
作るのは、いちごのケーキ、チョコケーキ、抹茶のケーキ、あんこと小豆を使ったケーキ、抹茶プリン、クリームあんみつ、いちご大福、プレーンとチョコと抹茶のクッキー、シフォンケーキ。
飲み物は、コーヒー、紅茶、カフェオレ、ミルクティーとレモンティー、の、予定。
クッキー3種は、お持ち帰りも出来るようにする予定だ。
そこから、部活などの予定がある人は抜けるけど、残れる人は残って、見学したり、ちょこちょこ手伝ったり。私も手伝いに加わる。
周りに説明をしながら自分も作業をする涼を見て、すごいなぁと、思うと同時に。
こだわる部分はこだわってるけど、簡略化してる部分もあるな、と、思う。なぜそう思うかと言われれば、涼に、カメリアのレシピを説明してもらったからである。ガチに本格的なものを知っていると、そうでない部分が分かる。そんな感じ。
これは、涼なりの配慮だろう。簡略化することで、わりかし簡単に作れて美味い、という、印象を持たせて、他のスイーツ担当へのハードルを下げたいんだ。と、思うなどしている。
で、涼は、家庭科室から借りた食器に、出来上がったそれらを乗せて、手の空いている人に、写真と連絡を頼む。どれだけシュミレーションしたのか、とても手際が良い。
捌けていたクラスメイトたちが再集合してくるのを横目で見つつ、私もシフォンケーキを写真に収め、出来上がりの連絡をする。
そして、全てのスイーツが出来上がり、みんなでの試食会が始まった。
「は? うま」
だろうだろう。
「この抹茶プリン美味しい……」
だろうだろうだろう。
全てが結構好評で、あとは、当日どれをどれだけ用意するか、という話に。
「……あのさ、去年の文化祭って、どんな感じだった?」
涼の、少し控えめな質問に。
「結構人、来るよ。3日全部一般公開するし」
「ここを志望してる中学の、とか、他校生とかも来るし」
「それと、ざっと他のヤツを調べたんだけど、カフェ系は他に5つあるね。けど、全部手作りなのは、ウチだけっぽい。強みだよ」
「お、おお……」
そんな話をしながら、どれも美味しいので、どれだけ、の部分は、ラインでの複数投票で決めることに。
そして、残ったみんなで後片付け。スイーツは完食。残ったら頂戴する気だったりしたんだけど、みんな食べてくれて、それはそれでなによりだ。
「……なあ、光海」
「うん?」
帰りの電車にて。
「周り、クラスのみんなはさ、俺のこと、どう思ってんの?」
「一生懸命で良い人だと、思ってると思います、まる、るよ」
握っていた手に、ぎゅっと力が込められた。
と、そこに、ラインの通知。クラスラインだ。開けば、
『今日のケーキとかの写真でさ、仮のポスターとチラシ、デザインしたいんだけども』
横を見れば、涼は少し、驚いた顔をしていて。
「涼、どうします?」
「あ、ああ、返事、送る」
もう何人か、それは良いな、とかコメントしているところに、『頼む、助かる』と、涼は送った。
◇
涼は三者面談の保護者を、父に頼んだ。当たり前に思えるそれを口にする時、舌が引きつりそうになった。父は頷いて、分かった、と言った。
そして、その、三者面談で。
『涼さんは、授業態度もとても真面目です。行事にも真剣に取り組んでいます。クラスメイトや他の生徒とも、馴染んでいると、自分からは見えます』
担任に言われ、真剣に聞いてくれている父に、心の中で、驚いて。
成績の向上、素行の良好さ、様々に言われるそれが、自分のことではないようで。
そして、進路の話になり。
涼は、パティシエを目指していると。言えること全てを言って、流石に言い過ぎたかと、少し思ったところで。
『それだけ具体的に考えられているということは、それだけ真剣だということなんでしょうね』
担任に言われ、父にも同意され、それならこれからの方向性について……と、夢でも見ているような気持ちで、その後の話を聞いていた。




