49 文化祭の出し物
「はいじゃあ次はぁ……」
現在、自宅にて。私と涼は愛流に、もう2時間以上写真を撮られまくっている。一応、休憩を挟みつつ。
丸一日空く日まで待てないと、合計24時間に変更された資料集めは、今日、あと1時間は続く。
と、そこに、大樹が帰ってきた。
「あっちょっと待って! お兄ちゃんも呼ぶ!」
愛流はそう言って、部屋を出る。
「じゃあ、一度、下ろしてください」
「ん」
片腕だけで抱き上げられていた私は、涼にそっと下ろしてもらう。
「連れてきた!」
「連れてこられた。どうも、橋本さん」
キラキラした顔の愛流と、げんなりした顔の大樹が対照的だ。
「どうも、大樹」
大樹が呼び捨てで構わないと言うので、涼は大樹を名前だけで呼ぶようになった。
「で! ですね! 今度は橋本さんとお兄ちゃんで、撮りたいんです!」
「ん?」「げ」
涼は不思議そうな顔になり、大樹はより、げんなりした。
「変なのは撮りません! 嫌だったら嫌ってお願いします! 私がヒートアップしたら、お姉ちゃんかお兄ちゃんが止めますから」
「自制心を保とうね、愛流」
「分かってるって! で、良いですか?!」
分かってんのか?
「俺はいーけど、まあ。橋本さんはどうです?」
「よく、分かんねぇけど。大丈夫だと思う」
で、愛流は、涼と大樹を撮り始めた。
途中で祖父母と散歩をしていたマシュマロが帰ってきて、私は愛流の、お願いという名の指示のもと、マシュマロを連れて来る。そして、マシュマロも参加する。
「愛流、もう時間。アラーム鳴るよ」
で、鳴った。
「あっ! この! まだ撮りたいのにぃ!」
丁度ポージングに参加していなかった私は、アラームを止める。
「今日は終わり。残りはまた次回以降。いいね?」
「はぁい」
がっくりと肩を落とす愛流を横目に、「なら、俺は行くから。失礼します、橋本さん」と大樹は出ていった。
「涼、大丈夫?」
「大丈夫」
そう言う涼は、マシュマロを抱えて座り込むポーズのまま。
「離して良いか? マシュマロ」
マシュマロが甘えた声を出す。
「マシュマロ、離したい」
涼が少し強めに言うと、マシュマロは名残惜しそうにしながらも、もぞもぞ腕から抜けようとする。涼が手を離せば、マシュマロは私にダイブしてきた。
「はい、マシュマロ、よく出来ました」
しっかり抱き上げ、ワシャワシャと撫でる。
「あ、涼、コロコロは出してあります。あと、タオルも出してありますけど、濡らす必要があったら、流しとか洗面台、使ってください。で、愛流」
気落ちから復活し、私とマシュマロを撮り始めた妹に、声を掛ける。
「なぁに?」
「なぁに? じゃないの。もう終わりでしょ?」
「これはいつものだもん」
ああ言えばこう言う……。
「涼の見送りをしたいの。マシュマロ、リビングに連れて行くよ?」
「マシュマロと一緒に見送ったらイイじゃん」
「あのねぇ……」
「や、光海とマシュマロが大丈夫なら、それでも構わねぇんだけど」
コロコロを終えタオルで顔を拭いている涼が、そう言った。
マシュマロはもう、涼の顔をペロペロするようになった。完全に懐いている。
我が家での、マシュマロが敬意を払う順番は、母、祖母、私、祖父、父、大樹、愛流の順だ。彼方と勇斗は小さいからか、守る対象として見ている。私目線からすると、涼も、少なくとも、父と大樹の間くらいの位置になると見ている。もっと高い気もする。
「ほら、橋本さんもそう言ってる」
「……分かった。涼、良い?」
「ああ。タオル、どうしとけばいい?」
「そこに置いておいてください」
「ん」
で、私はマシュマロを抱えたまま、帰りの支度を終えた涼を、玄関までお見送り。
「今日は長時間、付き合って貰ってありがとうご、ざ、ありがとう」
「……慣れてきたから、大丈夫。じゃ」
「うん。また明日。ほら、マシュマロもお見送りしてね」
体の向きを変えて、マシュマロに、涼が見えるようにする。マシュマロはすぐ、涼へ顔を向ける。
「バイバイって。またねって」
撫でつつ言えば、マシュマロは控えめに鳴いた。
「ん、マシュマロも、またな」
涼はマシュマロを一撫でして、帰っていった。
私はマシュマロをリビングに連れていき、まだ時間あるな、と、家族と一緒に戯れて居ると。
「おおおお姉ちゃん!」
愛流が小声で叫びつつ、リビングに入ってきた。
「どうしたよ?」
「これ! 見て!」
と、スマホを見せられる。
「……ああ、賞、取れたんだね。おめでとう」
「…………それだけ?」
不満そうに聞くな。
「大賞2作と奨励賞1作、おめでとう。複数取れたんだね。すごいよ、愛流」
「イエイ! ありがと!」
愛流から見せられたのは、Web上のイラストコンテストの結果。あの、天女の絵は、大賞の1つで、他2つも、愛流のアカウント名だった。
リビングに居た家族も、おめでとうとか、どんな絵だとか、愛流に聞いてくる。
そんなこんなをしていたら、ご飯の時間になった。
◇
今はバイト中である。なんとか心を宥め、仕事をする。
今日は、文化祭の出し物を決める日だった。挙手制で候補を出すやり方をして、それぞれに投票し。
和モダンレトロな装いのスタッフが接客するカフェに決まった。
そしてそこから、大まかに担当を決めていって。材料は、こういう場合の業者から仕入れることにして、料理系の担当の一人に、涼が収まった。それは良かった。それは。
そして私も、裏方に回ろうと思ったんだけど……接客スタッフになってしまった。周りと涼に押されて。周りはともかく、涼に押されて、断れる訳がなかろうが。
衣装のデザイン、決まったら即、クラスラインに送られて来るらしいけど、どんなのになるのか。
そんなことを考えていたら、エマさんたちに呼ばれ、飲み物の追加を頼まれる。こなして、おまたせしました、と、持っていき、引っ込む。
レイさんはニコニコしていて、エマさんはそんなレイさんを愛おしそうに眺めている。
あの、猫の話。良い方向に纏まる見込みだ、と、お二人から聞いた。今週中に、正式に、あの三毛猫のチャチャを、家族に出来るそうだ。良かった良かった。あと、名前はそのままチャチャ、を引き継ぐらしい。拾われてからずっとチャチャだったし、チャチャ自身もその名前を、自分のだと認識しているから、だと、レイさんが語ってくれた。
それと、また、アイリスさんが来ている。もうほぼメニューを制覇したらしい時に、メニューは定期的に変わるのかと聞かれて。
『10月中旬から、クリスマス仕様になりますよ。店全体も変わりますが、クリスマス用のメニューが追加されます』
と、伝えた。
『なら、それも、追加されたらいただきますね。ありがとうございます』
と、黒のゴスロリを着ていたアイリスさんは言ってくれた。
なんにしても、店を気に入ってもらえたようで、なによりだ。
で、バイトを終えて。スマホを見たら、仮の衣装デザインが来ていた。
「……」
仮の衣装は、2種類。
一つはレースやリボンなどで装飾された、形はほぼメイド服だけど、襟は着物風で、袖の部分が振袖みたいになったもの。もう一つはメイド服と対なのか、執事服のような、燕尾のような……に、ところどころ、和のアレンジが。
『質問疑問どしどし下さい』
そこまで読んだところでスマホを閉じ、仕舞い、挨拶して、電車へ。
と、スマホに通知。涼からだ。
『クラスライン、見たか』
『見たよ。仮の衣装の力の入れように驚いたよ』
半日足らずで送ってきた訳だし。
『どう思う』
『可愛いし格好いいけど、似合うかなって』
『似合うに決まってんだろ』
『そっか。涼に言ってもらえるなら、あれでいく』
ありがとう、の、スタンプを送ったら。
『お前は自分が可愛いのを自覚しろ』
そうなの? まあ、涼が言うなら、そうなんだろう。
『うん、分かった。ありがとう』
ハートのスタンプを送った。
あ、あと、マリアちゃんのクラスは、短編映画を撮るそうで、桜ちゃんのクラスは、白雪姫を演るらしい。桜ちゃんの配役は、鏡だそうだ。




