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学年一の不良が図書館で勉強してた。  作者: 山法師


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41 初デート

 これから、涼の家で、デートなのだ。初デート。人生初のデートだ。カラオケからの帰りに、二人で決めた。

 しかも! 今日はカメリアの新作発売日! 一緒に買って食べようと、約束しようとしたら。


『昼までに売り切れる可能性あるぞ』


 と、言われ、しゅんとしてしまって。


『先に買っとく。それでもいいか?』


 嬉しくて。


『ありがとうございます! あ、ありがとう!』


 と、いう次第。

 涼の家に上がって、お線香で挨拶して、


「先に部屋行っててくれ」

「はい!」


 嬉しさのままに、この前の部屋へ。

 入って、改めて、部屋を見回す。本棚、青系のベッド、青系のローテーブル、タンス、小物を置いてある棚。窓は一つで、カーテンも青系。空いている壁にはハンガーラックがあって、色々と下がっている。


「本棚……」


 資格の本、経営の本、スイーツのレシピ集、製菓の事典、オススメした参考書、教科書、漫画……あれ。


「ガシャクロだ」


 漫画のスペースの所に、ガシャクロが。1巻から26巻まで。今、これ、30巻を越えてる筈だけど。


「涼、ガシャクロ好きなのかな?」


 週間の青年誌に載っているらしいので、男性の目にも留まるだろうけど。桜ちゃんは女性人気が圧倒的だと、言っていた。……どうなんだろう……。


『入るぞ』

「あ、はい。うん」


 トレーを持った涼が入ってきて、私を見て、


「なんか気になるヤツ、あったか」

「ああ、と、色々気になったけど、ガシャクロが、あるなって」

「ああ、それ、母さんの」


 トレーから、新作タルトと紅茶をローテーブルに置きながら、涼はそう言った。


「そうなんですか」


 ローテーブルへ寄りつつ、言う。


「そ。母さん、それのファンだった。すっごい語られた。光海もそれ、好きなのか?」

「や、桜ちゃんが、ガシャクロのファンで」

「ああ、百合根経由か」

「ドラマの二期が冬に始まるそうで。1話を一緒に観る約束をしました。マリアちゃんも一緒に」

「へぇ……ほら、用意出来たぞ」

「あ、はい。あ、うん」


 涼と並んでいただきますをして、生のブルーベリーが乗ったタルトを、一口。


「……美味しい……!」

「良かった良かった」


 タルトを堪能しつつ、涼から、今日のカトレアの様子を聞かせてもらった。

 開店前から既に、数人並んでいた。迎えに行く前にも見たけど、タルトは売り切れ直前で。


「涼のおかげで、初日に食べれてるんですね……」

「そう言っていただけてなにより。……でさ、光海の服、気になってたんだが……青なのは……」

「あ、ブルーベリーなので、青のワンピースを着てきました。この部屋も青系ですよね。涼は青が好きなんですか? あ、好きなの?」

「……なんか、適当に集めてたら、青系になった」

「無意識に青が好き? あ、でも、髪の色はオレンジと赤ですよね」

「ああ、これは……美容院で『派手な感じで』ったら、こうなった」

「じゃあ、何色が好きなんですか?」

「色の好みとか、考えたことねぇ」

「では、暫定的に、青で」

「……まあ、良いけど」


 さて、食べ終わってしまった。紅茶も空だ。

 ……どうしようかな。


「涼」

「ん」

「呼んでみました」

「……お前……」


 涼が、唸るように言う。


「……光海、ちょっとこっち来い」


 顔を向けられ、言われる。


「? なんですか?」


 すぐ隣に座っていたので、体を少し寄せ気味にして、顔を近付け、見る。

 涼は私を、じっ……と見つめ、


「光海」

「はい」

「I love you more than anyone else.」

「へ」


 なぜ。


「合ってるか? お前が言ったのと」

「あ、合ってます……どうして……?」

「あのあと、発音思い出して書き出して、単語当てはめて和訳して、たぶんこれだな、と」


 なんじゃそりゃあ。


「耳、良いですね……」

「すぐに意味が分かんなかったの、悔しかったから」


 涼はそう言って、残りのタルトを食べきった。

 く、悔しいからって、そんな、分かるんか? 英語だからか?


「では、涼、これは?」

「ん?」

「(あなたのことが大好きです)……フランス語です。留学先の候補のひとつと、聞いてましたから」

「もっかい、言ってみてくれ」


 涼が、体ごとこっちを向いて、また、顔を近寄せてきた。

 ……もっかい、か。


「(あなたのことが大好きです)」

「……、……(あナたのコトがダイすキです)」


 ……うっそぉ……。


「……ちょっと違うか」

「いえ、近いですよ。で、あの、意味、分かってます?」

「分かってない」

「あなたのことが大好きです、と、言いました」

「…………おまえぇぇ……!」


 涼がうずくまった。というか、丸まった。


「いえ、あの、すみません。どういう意味かと、聞かれるかと」


 頭を撫でながら、言う。髪、柔らかいな。


「……なんだ俺はお前んちのマシュマロか?」

「マシュマロっぽいなと、思ったことは何度かあります」

「……俺、人なんだけど?」

「知ってます」

「なんで頭……」

「触り心地がいいなーと」

「光海もサラッサラだが?」

「存じております」


 頭を撫で続ける。……いつ起きるかな。

 そのままさわさわと撫でて、両手で撫でて、つむじの位置を確認して、などしていたら。


「…………俺にもやらせろや……」


 涼がムクリと起き上がった。むくれて、顔を赤くしている。


「あ、えと、髪?」

「そーだよ」


 と言いながら、手を伸ばされる。このまま?

 そして、スーッと髪に指を通され、ふわり、サラリと髪が遊ぶ。


「お前、ホント、サラサラしやがって」


 怒られるように言われるけど、涼。眉をひそめて笑顔って、何かな。


「楽しい?」

「楽しい」


 涼は、私の後ろに回り込み、本格的に髪で色々し始めたらしい。

 ので、私は頭を動かさないまま、見える範囲でものを見る。


「なるほど? 滑らかすぎて三つ編みを保つのすら難しいって訳か」

「うん。ねえ、涼」

「あん?」

「あの棚、何が飾ってあるの?」


 電子時計が置かれた棚を、示す。


「ああ、なんかこう、色々。見るか?」

「見たい」


 そう言ったら、


「じゃ、来い」


 と、髪の毛から手が離れる。……ちょっと、寂しい。


「で、だ」

「うん」


 今度は棚の前に二人で並び、


「これ、なんか役に立たないかって、集めてたやつだ。捨てるに捨てられなかったもんなんだよ」


 色々と、ある。寄せ木細工の箱に、本物か分からないけど水晶のようなもの、小さくてレトロな地球儀、瓶に詰められた造花、などなど。


「役に立てるって、お菓子に?」

「ん。見た目とかな。これはクッキーの柄に応用できないかとか」


 と、涼が手に取ったのは、寄せ木細工の箱。


「箱入り娘って、知ってるか」

「二つの意味で」

「その、片方のやつ。開けてみるか?」

「……やってみる」


 箱を渡され、どこが動くか、探す。


「……。ちょっと、座るね」


 そのままペシャ、と座り、細工と構造を確かめていく。


「模様が一番キレイに見えたから、それを買った。別に、細工箱を買うつもりじゃなかったんだが」

「ふむ」

「クッキーの作り方の一つに、……金太郎飴みたいなやつあるだろ」

「アイスボックスクッキー?」

「ああ。そんな感じで、模様を再現できないかって、思ったんだ。ただ、細かくなればなるほど、再現性がムズい」

「……あ、開いた!」

「マジか。結構凝ってるやつだぞ」

「そうなんだ。中、見ていい?」

「何入れたかも忘れたし、俺も見たい」

「では、失礼して」


 扉を開けるように、蓋を開ける。


「……これ……」


 中にあったのは、折りたたまれた、紙。


「……ちょっと、いいか」


 手が伸ばされたので、「どうぞ」と、箱を渡す。涼はそこから紙を取り出し、箱を床に置き、紙を開く。


「…………」


 涼が、難しい顔になる。


「何が書いてあったか、聞いていい?」

「見てみ」


 渡され、受け取る。

 紙には、カメリアのスペルが沢山書かれていた。


「たぶん、恐らく。字の練習だな、これは」

「そうなんですね。紙、ありがとうございます」

「おう」


 涼に紙を手渡し、箱がもとに戻っていくのを見ていると、


「カメリアの由来、知ってるか」

「ホームページの、『誇り、という花言葉から、製菓への誇りを忘れないために』ってあるのは知ってますけど……それだけなら、私に聞きませんよね?」

「もう一つ、意味……由来が、あってな」


 もとに戻った箱入り娘を持って、それを見つめたまま、涼は言う。


「椿姫って、知ってるか」

「あの、オペラのなら」


 椿姫。真実の愛の話で悲恋の話だ。


「祖母、ばあちゃんがさ、それ、大好きだったんだと。けど、店名にそのまま椿姫ってつけるには、内容がな。だから、カメリア」

「おばあさん、オペラとか、好きだったんですか?」

「じいちゃんからはそう聞いてる。俺が生まれる前に死んだから、どれだけ好きだったかは、知らん」


 そうなんだ……。


「……あの、トゥーランドットのCDも、その関連だったのでは?」

「あ。……あー……あーーー…………なんで気付かなかったよ俺……」


 涼が項垂れた。


「椿姫も、歌えたりします?」

「小さい頃は、歌ってたけど。歌詞カード、残ってたからな。意味を知って、歌うの止めた」


 涼は、箱入り娘を戻す。


「もしかして、音楽の授業以外のレパートリー、全部それ系ですか」

「ああ。……はあ……一刻も早く、流行りのを覚えねーと」


 涼がまた、隣に座る。


「……話は変わりますが。涼」

「なん?」

「さっきのフランス語、二度聞いただけなのに、充分通じる発音でした。これからはリスニングも、強化します?」

「まあ、じゃあ、する」

「なら、そうしていきますか」

「……言っとくけど。今は勉強の時間じゃねぇぞ」

「分かってます。あ、分かってるよ」

「くっそお前光海お前可愛いこのヤロウあーーークソ」


 涼は反対側を向いて、小さく呟いた。




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