40 アズサの友人たち
さて、今日は、バイトの日。昼を含めた4時間だ。アデルさんはそろそろ安定期だそうで、悪阻も楽になってきたらしい。
で、今日のお昼頃、アズサさんが友人を二人連れて、やって来てくれることになっている。
「(光海、機嫌がいいな?)」
エマさんに言われ、
「(友達がお昼頃に来るそうで、楽しみで)」
エマさんには、相談の結果と、ことの次第を軽く話し、お礼を言った。ヴァルターさんとウェルナーさんはいらしていないので、まだ、話せていない。
「光海、いいか」
明宏さんに呼ばれ、飲み物の追加と、
「それと、ムース・オ・ショコラを一つ」
「俺はクレームダンジュで」
明宏さんと楓さんの注文を確認し、食器を持って厨房へ。
今日は、指輪してたな。そんなことを思いつつ、飲み物を用意する。
明宏さんと楓さんは、色は違うけど同じデザインの指輪を持っている。気分によって着けたり着けなかったりするらしいけど、記念日前後には、必ず着けるのだそうだ。
おまたせしました、と飲み物を持っていき、一旦引っ込む。
さて、どの記念日だったか……あ、確か、この時期に出会ったんだっけ。それか。
思い至ったところで、ラファエルさんに呼ばれ、明宏さんたちの所へ、スイーツを持っていく。で、他には無いとのことで、引っ込む。
さて、12時を過ぎたところで、ドアの前に人影が。人数は、三人。
カラン、とドアが開く。アズサさんと、そのご友人らしいお客様二名だ。
「いらっしゃいませ。お久しぶりです、アズサさん」
「お久しぶりです」
会釈をしてくれたアズサさんは、髪型とピアスは変わらずで、黄緑のワンピースを着ていた。
「お客様がたも、アズサさんから伺っております」
「どうも」
「こんにちわ」
一人は、緑の髪を編み込んでいて、プリントシャツとジーパン、大ぶりのネックレス。
もう一人は黒から紫になっているハーフツインで、水色のロリータ服だ。
「三名様でよろしいですか?」
「はい。席、選んでいいですか?」
アズサさんに言われ、もちろんですと答え、ルーティンをこなし、水を持っていく。
「おまたせしました」
と、置けば。
「はじめまして。アイリスという名前で活動しています」
ロリータ服のかた、アイリスさんが、自己紹介してくれた。
「こちらこそ、はじめまして。成川光海と申します」
「あ、オレは、マキ・省吾です」
緑の髪の人、マキさんも自己紹介してくれる。
「マキ・省吾さんですね。いらしてくださってありがとうございます」
で、注文は考えるとのことで、引っ込む。
アイリスさんもマキさんも、アズサさんの事務所に所属しているモデル仲間だそうで。マリアちゃんとも何回か、面識があるそうだ。
そう回想していたら、アズサさんに呼ばれた。
「ボクは、カスレで。飲み物はいりません」
と、アズサさん。
「私は、ピッカータとラタトゥイユとフリカッセ。飲み物はアイスティーを」
と、言ったアイリスさんに、それならセットにすると安くなると言い、セット注文に。
「オレはキッシュとコーヒーで。これも、セットになります?」
マキさんのそれを肯定して、セットに。飲み物は先で、ということで、厨房へ。ルーティン、飲み物をテーブルへ持っていき、引っ込む。
カラン、とドアが開き、見れば、ウェルナーさんがいた。
「(いらっしゃいませ、ウェルナーさん)」
「(光海。今日は俺一人。席はカウンター)」
かしこまりましたと、ルーティン。で、水を置きがてら、エマさんにした話をウェルナーさんにもして、お礼を言った。
「(へー良かったじゃん)」
「(はい。みなさんのおかげです。ありがとうございます)」
「(兄さんにも言っていいの?)」
「(もちろんです。それと、私からも直接お礼を言いたいので、話が被ってすみませんとも、伝えていただけると、幸いです)」
「(分かった。言っとく。それと、注文いい?)」
ウェルナーさんは、じゃがいもガレットとディアボロ・シトロンを注文して、両方同時に、とのことだった。
メモして、厨房へ。伝達、で、アズサさんたちの料理が一部出来上がっていたので、持っていく。まだ他の料理は準備中だと説明し、カトラリーなどの説明をして、引っ込もうとして、エマさんに呼ばれた。
「(はい。なんでしょうか)」
「(リンゴのコンポートをお願いしたくてね。あと、また、少し相談に乗ってくれないかい? コンポートはあとでいいから)」
の、相談内容は、レイさんが、猫を飼いたがっている、と。
猫カフェに通っていたレイさんとエマさんは、レイさんから、猫を飼いたいと相談を受けたらしい。
「(で、どんな猫かって聞いたんだよ。そしたらさ。通っている所の、この子なんだけどね。を、飼えないかって)」
猫カフェのホームページを見せてもらい、その該当猫を見せてもらう。三毛猫で、メス、推定5歳。名前はチャチャ。
「(お店の方には、そのお話はしたんでしょうか?)」
「(いや、しようとは思うんだけど、その前に、猫についての知識を深めたほうがいいんじゃないかと、思っていてね。レイにそう言ったら、難色を示されてしまったんだ。それで悩んでる)」
「(それならそれこそ、お店に連絡をしたほうが良いと思います。この猫さん、譲渡可、となっていますから、猫について調べているうちに、誰かの家族になってしまうかも知れません。常連で顔馴染みということですから、話を聞いて貰えると思いますよ)」
「(あー……やっぱりそうか。レイにもそう言われたよ。うん。決心がついた。そうするよ。ありがとう、光海)」
「(いえ、こちらこそ。では、コンポート、少々お待ち下さい)」
厨房、伝達。アズサさんたちのものはもう少しだと言われ、ホールへ。待つのと同時に、店内を確認していたら、ラファエルさんに呼ばれた。
料理を持って、アズサさんたちのと、エマさんのテーブルへ。そこで、丁度昼休憩になったので、厨房へ。
賄いを食べ、身だしなみのチェックをして、ホールに出る。
ウェルナーさんの会計をして、テーブルを片付け、隅に。
猫ねー猫も好き。ただしマシュマロは家族なので別枠。
で、そうこうしているうちに、バイトの終わりが来た。
奥に引っ込み、帰り支度をして、スマホを確かめ、ニヤついてしまうのを堪えながら、返信。
ラファエルさんとアデルさんに声をかけて、店の裏から出た。
「おまたせしました! あ、おまたせ!」
「ああ、うん。なんかもう、その言い直しすら可愛い」
待ってくれていた涼は、少し赤い顔で、呆れたようにそう言って、
「じゃ、行くか」
と、手を差し出してくれた。




