表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学年一の不良が図書館で勉強してた。  作者: 山法師


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/54

39 Nessun dorma

「で、なんでここなんだ?」


 涼へ伝えたあと、私は二人からアドバイス的な指示を受け、合流した涼と一緒に、4人でカラオケ店に入った。

 桜ちゃん、涼、私、マリアちゃんで、座っている。


「ここでも勉強出来るし、私たちは2、3曲歌ったら帰るから」

「そのあとのことは、光海から聞いてくれ」

「……大丈夫なのか?」


 涼が聞いてくれる。けど、私も聞きたいし。


「うん。大丈夫です」

「……。そうか、分かった」


 またなんか、頑張ってる感じする……。


「ヘイ! じゃ、まずは、私から!」


 桜ちゃんが歌い始めて、マリアちゃん、私、……で、涼が。


「歌とか、あんま分かんねぇんだけど……」


 選曲しようとして、悩んでいる。


「あんま、ということは、少しは知ってるのか? 歌いたくないなら別に良いが」

「あー、こう、音楽の授業で習うようなのとかしか知らねぇ」

「なら、もう1回いくぜ!」


 桜ちゃんの音頭により、三人でまた歌って。


「で、どう? いく?」


 完全に桜ちゃんの空気で、涼はマイクを渡された。


「……なら、これ。授業っぽくないやつ」


 涼が歌ったのは、『誰も寝てはならぬ』。しかも、訳詞じゃなくて、原曲の詞のまま。

 なんでそれを。しかも上手いし。


「……で、歌ったけど」


 涼はマイクをテーブルに置き、座る。


「……橋本ちゃん。なぜにその歌を?」

「ああ、祖母の好きな歌。俺、高い音出せないし、丁度いいかと」

「なんの歌か分かってるのか?」

「いや? 家にCDあるけど、日本語じゃねぇし。歌詞カードは失くしたらしいし。音で覚えた」


 そうなんかい。……あ、だからリスニングも、少し得意なのか?


「……じゃ、みつみん」

「あ、うん?」

「話と、その曲の説明任せていい?」


 まじか。


「しょ、承知した」

「で、マリアちゃん、どうする? もう1曲歌う?」


 桜ちゃんの言葉に、


「いや、潮時だと思う」


 マリアちゃんは、そう答えて。

 二人は行ってしまった。


「……で、何がなんだったんだ? あの二人が光海に変なことするとは思わねぇけど」


 不思議そうな顔の涼に、「えーと。まず、聞いて欲しいことがあります」と、私はコーヒーチェーンでの話をした。


「それで、疑問は早いうちに解決したほうが良いって、言ってくれまして。ここなら人目にもつかないからって。ごめんね、図書室で勉強してたのに」

「……や、悪い……気ぃ遣わせた……」


 りょ、涼が項垂れている……!


「えー……爆発の意味はな、お前がどっからどう見てもいつ見ても可愛くて、気を引き締めてないと脳みそがショートしそうだから、なんだが」


 脳みそがショート。


「それは、どうすれば改善されます……?」

「……。…………引かねぇ?」


 何を言うつもりだ。


「が、頑張ります」

「ありがとう。じゃ、言う。お前ともっと触れ合いたい。手ぇ繋ぐだけじゃなくて、抱きしめたり、……キスとか、したい」


 ふぉ、ほおぅ……。


「それに、光海、朝早いだろ。学校で勉強するからって。下校は、お前、バイトとかあるし、しょうがないと思ってるけど。俺も朝早めて、一緒に登校したい」

「そ、それは、睡眠時間とか、大丈夫ですか?」

「今はな、夜に、資格とかの勉強してる。だからそれを、朝に回せばいいと思う」

「大丈夫なら、いいですけど……」

「で、光海。それらひっくるめて、どう思う?」


 え、えーと。


「登校は、大丈夫です。下校も、出来る日は一緒に帰りましょう。で、その、触れ合い、なんですが……」

「や、無理にとは言わねぇから」

「いえ、そうでは無くてですね。そういうことを、家族や友達以外としたことがほとんど無いので、出来るか、不安で」

「ほとんどってなんだ?」


 涼が顔を上げてくれたけど! なんか怖い!


「ほとんどって誰だ? 誰とそういうことした?」

「じょ、常連さんとかです! バイト先の! 地域や民族性にもよりますけど、日常的にハグなんかをする人もいるので! ですけど、今は配慮して下さっているので! 皆さん! そういうことはありません!」

「ハグなんかって? キスもしたのか?」

「小さい子に、挨拶でほっぺにされただけです!」

「何歳」


 グイグイ来る!


「よん、4歳の子です!」

「そうか。で、光海。提案なんだが」

「な、なんですか……?」

「どこまで出来るか、試してみねぇ?」

「え?」

「手は、握れただろ。そこから今、どこまで大丈夫か。確認したい。ダメだと思ったら即言ってくれ。やめるから」


 真剣に、でも不安そうに、言う、から。


「す、少しずつ、なら……」

「じゃ、今、手。握っていいか?」


 差し出される。


「あ、はい。それは」


 それに、自分のを、重ねる。握り込まれる。


「大丈夫か?」

「大丈夫です。でも、これだと、私の手がすっぽり包まれてしまいますね」

「……なら、これは?」


 手のひらを合わせるようにされて、指を絡められた。

 これは! 世に言う! 恋人繋ぎ!


「……離すか?」

「い、いえ、そうではなく……こんな気持になるんだぁ……と……」

「……嫌では、ない?」

「緊張、しては、いますけど……嫌では、ないです。なんか、くすぐったいです」

「……はーーー可愛い」


 うつむきながら言われましても!


「……このまま、少し、寄ってもいいか」

「は、はい」


 少し空いていた距離を詰められて、足が、触れた。あ、足! そしてそのままぴったりと!


「まだ、いけるか?」

「こ、ここから、どうすれば……?」

「体、引き寄せたい。腕、回していいか」

「は、はい……」


 空いている手が、ウエスト辺りに回される。繋がれていた手も離れて、背中に。

 グイ、と、引き寄せられて。


「──っ!」


 ぶつかる、と思ったけど、その少し手前で止まった。……ちょっと、びっくりした。


「……怖いか」


 すぐ近くに、涼の顔があって。瞳の奥に、期待と不安と色んなものが、ごちゃまぜになってるのが、分かって。


「ちょっと、びっくりしただけです。ぶつかるかも、と、思ってしまって」


 安心して貰おうと、笑顔で言った。

 ら。


「……なら、ゆっくりやるから、このまま抱きしめてみる」


 また、頑張ってる……堪えてる、だっけ。顔になって、そう言って。

 そっと、ゆっくり、ふわ、と、抱きしめられた。

 やっぱり、良い人だ。優しい人だ。


「涼」

「なんだ」

「私も、腕を回して、いいですか?」

「ああ」


 涼の背中に腕を回す。エアコン、効いてるから、涼が温かいな。


「もう少し、寄ってもいいですか?」

「うん」


 体を寄せて、腕に力を込めて。涼も、確かめるように、回した腕に力を込めてくれた。


「光海」

「はい」

「少し、このままでいて、いいか」

「もちろんです」


 数分、そのままでいて。


「……なあ、光海」

「はい」

「もう1個、いいか」

「なんですか?」

「口調、三木とか百合根に話すみたいに、してくれないか?」

「えっと、タメ口、ですか?」

「そう」

「どう、えぇと、ずっとこうだったから……頑張り、……頑張る」

「……うん。光海、好きだ」

「私も、えっと、好き。涼のこと」

「ありがとう。……そういや、曲の説明って?」


 え? この状態で?


「あ、あれは、あるオペラ──歌劇の、アリア、曲で……」


 私は、トゥーランドットの概要と、その曲の歌詞や内容について説明した。


「……はっず……」

「いえ、あ、知らなかったんだから、しょうがない、と、思うよ? それに、とっても上手だったし」

「流行りの曲、覚えるわ」

「それも良いと思うけど。また聴きたい気持ちもちょっとある」

「……なら、光海と居る時にだけ、歌う」

「うん。ありがとう」


 そしてまた、こうしてて。

 時間の連絡の呼び出し音に、二人して驚いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ