鋼鉄のお嬢様
冒険者ギルドを目指すヒバナは、賑やかな市場を歩いていた。新鮮な果物や工芸品が並ぶ露店を楽しみながら街の喧騒に包まれていたところで、よそ見をしていた彼女は誰かとぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさい!」
「いえ、こちらこそ申し訳ない。いつ見ても素晴らしいこの街の景色に心奪われておりました」
ヒバナが見上げると、そこには物腰柔らかそうな金髪にロングコートのヒューマンの青年が立っていた。
「おや、見たところ新人冒険者の方でしょうか?」
「はい!今日始めたばっかりです!」
「なるほど、ではこの出会いを記念してこちらのサポートパーツを差し上げましょう」
「えっ、いいんですか? ありがとうございます!」
「1人でも多くの冒険者の方にこの世界を楽しんでいただく事が私の願いですので。それでは、よい冒険を」
そう言って青年は市場の人混みの中へ消えていった。不思議な出会いに驚きながらも、ヒバナは再び冒険者ギルドを目指すのであった。
「イベント……じゃないよね?親切な人。あっ!名前、聞き忘れちゃった」
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「ヒバナ・パールカさん、これで冒険者としての登録は完了になります。現在キャンペーン期間中ですので新規に登録された方にはこちらの武器を支給しています。是非長く冒険を楽しんでくださいね。」
「ありがとうございます!まずは簡単なモンスターの討伐とかから……」
「だから俺たちのパーティに入れって言ってんだよ!」
「しつこいですわね。何度言われようとお断りですわ」
ギルド内のホールでは、冒険者たちが情報交換をし、クエストの掲示板に群がっている。しかし、その一角では品の良い服装をしたお嬢様風の少女と、無骨な男が言い争いが起こっているようだった。
「このゲームをあんたみたいに防御型や支援型のエクスマギアで進める物好きは少ない。攻撃型に比べ効率良くモンスターを狩れないからだ。だが後の攻略で必須になるので貴重な人材を俺たちは早めに引き入れておきたい。どうだ?あんたも今は地味で面白くないこのゲームを楽しみたいだろ?」
「残念ですが、わたくしは今この世界を楽しんでますの。あとは目の前のマナーの悪い方が居なくなったら……もっと楽しい」
「言わせておけば!!」
「強引な勧誘ですね。警告して来ますので少しお待ちくだ……ってヒバナさん!?」
ギルドの受付嬢が動く前に、ヒバナは2人の間に入っていた。
「まぁまぁ落ち着いて!2人ともちょっと出会い方が悪かっただけ。落ち着いて話せば仲良くなれるよ! そう……まずは好きなロボットの話とか」
「冒険者なら冒険者らしく、エクスマギアで話をつけようじゃねぇか」
「ええそうですわね。わたくしもちょうどそう思っていたところ」
「私は改造されてワンオフになった量産機かな。性能面で格上の相手に迫っていくのとか超カッコいい!」
「決まりだな。ルールは2vs2だ、俺は後ろのこいつと組むがお前は……その態度で組める奴なんているのか?」
「ご心配なく、わたくしのペアはこの子ですわ」
「えっ?」
喧嘩の仲裁をしていた、つもりだったヒバナは突然お嬢様風の少女に肩を掴まれギルド奥の対戦用のスペースに連れて来られた。そこには少し大きなテーブルに魔法陣が描かれていて、流れのままエクスマギアをセットすると周囲が暗闇に包まれる。次に目の前に広がったのは緑豊かな森の中で、自分はよくあるロボットのコクピットにいる事に気がついた。
「対人戦だと仮想空間でエクスマギアを操縦する感覚になるんだ、面白いなぁ。そうだ、貰った武器とパーツセットしておこう」
ヒバナが戦闘の準備を進めていると、お嬢様風の少女から通信が入った。
「わざわざ割って入って来るなんて相当お強いのでしょう?期待してますわ。あなた冒険者レベルは?」
「えーっと……1!です……」
直後、絶句し思考が止まったであろう彼女の様子が通信越しでもよく分かった。
「で、でも力を合わせればきっと勝てるよ! あ、私はヒバナ!あなたは?」
「ソフィア・アイゼンルージュですわ……」
「ソフィア!素敵な名前!キラキラのお嬢様って感じ!」
「……ふぅ、ありがとう。そうですわね、これが物語なら十分過ぎるお膳立て。よろしくヒバナ、わたくしも好きですわ、ワンオフの量産機」
2人が打ち解け、準備を整えるとシステムが戦闘開始を告げた。
「魔装!」
「いくよ、ソルジャー!!」
「シュヴァリエ、勝利の栄光をわたくし達に!」