表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/41

台風一過、残った真実 中

 んんっ、と酒呑が重々しく咳払いをして、真剣な眼差しをゆきに向けた。


「ゆき殿の弟君だが、妖怪であったことは聞いたかな?」


 大混乱の中で胡月に言われた言葉を思い出す。あの時は必死すぎて、心も脳も言われた事実に追いついていなかった。しかし、今、酒呑に改まって告げられ、思い起こすと自分が目にした弟の妖力を否定することはできなかった。


「はい。弟の結界のおかげで、母が無事だったと聞きました」


 弟が何者であろうとも、2人が無事だったことに変わりないし、何より自分は妖怪の先祖返り、と言われている存在だ。そんな家系から妖怪が出てもおかしくないのかもしれない。

 ゆきの言葉に酒呑は大きく頷いた。


「いかにも。ただ、人と人の間に、先祖返りではなく、妖力を持ち合わせた子が生まれることは稀にある。先祖返りのゆき殿に続き、弟君は妖怪とは……倉敷家はわしが思っていたよりも妖の血が濃かったのかもしれんな」


 酒呑は深く唸りながら、顎をさする。

 倉敷家に流れている妖の血、それは一体どのように受け継がれてきたものなのか、ゆきには知るよりもなかった。ただ、そのおかげで救われた命に、ゆきは感謝せざるを得なかった。

 晴れやかな気持ちだったゆきだが、酒呑の表情が再び固くなったことに気づき姿勢を正す。背筋に緊張が走った。


「昔から、人の間に生まれた妖は、その妖力のコントロールができず、人の生命力に影響を与えかねん。ゆえに、幼いうちから我ら妖はその子を保護し妖の世界で育てていた。そうせねば、その子に大事な家族を奪わせてしまうのだ」


 重い酒呑の言葉にゆきは顔を青ざめた。

 酒呑の抑えきれなかった妖力を浴びて、倒れかけたことが度々あった。胡月や玉枝に結界を張ってもらうことで、命の危機とまではいかなかったが、弟がこれから出会うであろう全ての人に結界を張ることはできない。

 人に影響を与える妖力というのは、おそらく、妖の怒りや負の感情に触発されている。幼い子に怒りを我慢しろ、不快に感じるな、など無理な話である。


「じゃあ、あの子は親元を離れなくちゃいけないんですか……?」


 生まれて間もない赤子を、両親から引き離すのか。震える声でそう問うと、酒呑は目元を緩ませて首を左右に振った。


「本来ならそうであったろうな……。ただ、ゆき殿の加護、という形で送られた妖力が膜のようになって、妖力が外に出ないように保護してくれておる。もともとは胡月の妖力だったからだろうな、胡月の結界ぐらい強い。あの子が妖力をコントロールできるまで十分持つだろう」


「それじゃあ、あの子は親元にいていいんですね……っ!」


「ああ。これに関しては、2人ともようやった」


 酒呑が満面の笑みを浮かべる。

 思わぬ幸運に、ゆきは安堵と嬉しさで、自然と笑みが溢れる。消えそうになりながら、必死に母親を守っていた男の子の、がんばりが報われたようでゆきはうれしくて仕方がない。


 喜びに浸りたいところだったが、まだ真剣な話が控えているらしく、酒呑が咳払いをしたので慌ててゆきも背筋をただした。


「弟君の妖力コントロールについては、我らの方で受け持つことになった。まあ、ある程度成長してからじゃないと訓練はできんから、おいおい、だな。次にバレリ家について、だ」


 酒呑の言葉を受けて、今まで黙っていた胡月が口を開く。


「バレリ家、および今回の虎徹の婚姻に関わった西洋妖怪のやつらについて、ルネに直談判してきた。今回の件は、国家間戦争になりうる重大な事態だ、と。まあ、もともとバレリ家本家と、今回の事件を企てた叔父のエドモンドは意見が割れていたことは調査済みだったから、あちら側がどのようにでるか、試したようなものだったが……」


 胡月の言葉に、酒呑が深く頷いた。


「まだ若いのに、しっかりした当主だったな。エドモンドのしでかしたことを深く詫びておった。詫びて済む問題じゃないと、認識した上でな」


「いくらあいつらが勝手にやった、とはいえ親族だからな。やつらは反逆者として、法のもとで裁くつもりらしい」


 2人の言葉にゆきは少し、安堵した。自分がきっかけで、これ以上、たくさんの人を巻き込んだ戦争なんかになれば後悔しても仕切れない。それに、エドモンド達は野放しになる訳ではなさそうだから、きっと、平穏な日々が戻ってくるだろう。

 そんなゆきの予想は、胡月のめんどくさそうな次の言葉で、一瞬で砕け散った。


「ただ、あっちの内部に巣食っている悪しき者達を洗いざらい綺麗にするために、協力して欲しいとか、あのおっさん、図太すぎるだろ……」


 胡月のうんざりした声にゆきが戸惑っていると、酒呑が「仕方なかろう」と胡月を嗜める。


「あれだけ派閥勢力が好き勝手できておったのだ。おそらく、その支配は根強く蔓延っておるだろう。幹部の方もだいぶ突かねばならぬだろうし……。まあ、我らが封じた2人をこのまま封印しとくくらい問題なかろう」


 酒呑の言葉に、ゆきは「え?」と聞き返す。酒呑と胡月が封じた2人、といえばエドモンドとアダンのことだろう。

 エドモンドは酒呑の腹の中、アダンは石に封じられてはずだ。


「安心せい。エドモンドはわしの腹の中で、着々と妖力を奪っておるし、アダンの方は玉枝に頼んで陰陽師の者に封じてもろうてる。至って安全じゃ」


 それは、安全……なのだろうか?

 よくわからないが、きっとそうなのだろう。


 戸惑うゆきの隣で、胡月が深いため息をついた。


「アダンの方はまだいいとして、問題は父さんの腹の中だろ……。下手したら妖力全部奪い取って、吸い殻だけにならないか?」


 呆れた様子の胡月に、酒呑は動じることなく、むしろ誇らしげに「問題なかろう!」と胸を張る。


「こちらが管理中に、やつらがどうにかなろうとも、それは致し方ないことだとルネも了承しておる。エドモンドが吸い殻になるのが早いか、はたまた、ルネが全てを整え迎えにくるのが早いか、我慢比べだな」


 豪快に笑う酒呑に、ゆきは驚き固まる。

 ものすごい言葉を聞いた気がするが、きっと、深く考えないほうがいいことだ、と頭の中から必死に追い出す。知らぬが仏、とはよくできた言葉だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ