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予測不能な救出劇 後


 あたりがオレンジ色に染まり、小さな光の粒子がキラキラと光る。まるで、夕日の光に包まれたような感覚に、ゆきは目を細める。


 眩しい……。


 ゆきの目に鋭い光が矢のように、ゆきの瞳へと入り込む。眩しいフラッシュを浴びせられたかのようで、ゆきはたじろぐ。

 体を逸らせば逸らすほど、その美しい世界はゆきを排除しようと、ますます強くゆきを照らす。


ーーー抗うな。


 耳元で胡月の声が聞こえた気がした。

 慌ててあたりを確かめるもの、胡月の姿はない。


「ねぇ、どこにいるの?」


 胡月の姿を探そうとして、ようやく、目の前にいる亜希と小さな男の子の存在に気がついた。


「亜希さんと……君はもしかして、」


 ゆきが2人の存在に気づくと、矢のような光はますます強くゆきを射抜く。そして、近づこうとするゆきの行動を阻むかのように、光の矢が重石となって、ゆきの手足に絡みつく。


 その重石に抵抗しようとすればするほど、ますますその重みは増し、ゆきの体の自由を奪う。そのことがゆきの焦りをさらに煽る。

 

「胡月さん、どうしよう!足が動かない……!」


 姿の見えない胡月に助けを求める。すると、耳元で再び胡月の声がこだました。


ーーー抵抗するな。


「え?」


ーーーその子は、母親を守るのに必死なんだ。抗えば敵と見做される。


 ゆきからは胡月の姿は見えないものの、胡月は今の状況をどこからか見ているらしい。ゆきは無理やり動かそうとしていた足の力をそっと抜く。


「怖がらせてごめんね。私はあなたのお姉ちゃんだよ、あなたを助けにきたの」


 男の子に向かってそう言うと、精一杯の笑顔をその子に向けた。光の矢も、重石も、全部全部受け止めて、ゆきの体は鉛のように重く沈むような気がした。


 沈む体に不安になりながらも、ゆきは世界が少し変わっているのを感じた。さっきまでの拒絶のようなものがなくなり、亜希と男の子に少し、近づいたような不思議な感覚だった。


 ゆきが暴れないことに安心したのか、体の沈没が止まる。恐る恐る起きあがろうとするが、今度は体が沈むことなく自由に手足が動かすことができた。


 ゆきはほっとしつつも、もう一度亜希と男の子の元へと近づいていいものか計りかねていた。

 男の子の顔色が悪く、肩で息をしており、一刻も早くその子を救わなくちゃいけないのは分かっている。だが、ゆきに何ができるのだろうか、ただ、近づいて怖がらせて余計にその子を追い詰めるのではないか、そんな不安がゆきの胸をよぎる。


 ゆきが動けずにいると、再び胡月の声がする。


ーーー大丈夫。そばに行って力を分けてやれ。今のお前には、座敷童子の……妖としての力がある。座敷童子は幸運の象徴、お前の力で2人を包み込んでやれ。


 背中に優しい温もりを感じる。胡月に背中を押されたような、そんな気配がした。


 ゆきは意を決して、前へ踏み出す。


 小さな男の子が、不安げにゆきを見つめた。その瞳に、ゆきは微笑みをつくり話しかける。


「大丈夫、怖くないよ。私にも一緒に亜希さん、ううん、お母さんを……、そして、あなたを守らせて?」


 力の使い方なんてわからない。胡月の言ってた力がなんなのか、どうやって力をわけるのか、どうすれば2人を救えるのか、全然わからない。


 何もわからない。でも……。


 ゆきは2人の前に跪き、そっと胸を押さえた。胡月にもらった妖力が、ゆきのからだの中を満たし、そして、陽だまりのような温もりを持って、胸に溢れていた。


 どうか、2人が無事でありますように……。


 ゆきの胸から、男の子の世界が作り出した光と似た色の、淡い橙色の光がふわっと広がっていく。その様はまるで、蝶が舞うように軽やかで、美しい弧を描きながら、亜希と男の子を包む。


 男の子は、やっと安心したかのように、強張った肩の力を抜いて、ゆきの放つ光に包まれてその瞳を閉じた。





ーーー……


 

 ゆきがそっと瞼を開く。


 そこは先ほどと同じ山のはずれで、ゆきのそばには亜希が規則正しい寝息を立てて倒れているだけで、ゆきがさっきまで見ていた男の子はもういなかった。


 ただ、亜希の周りには淡い橙色の光が帯びており、先ほどまでいた世界が幻ではなかったことを思い知る。


「うまく、いった……の?」


 首を傾げるゆきの後ろで、ガサッと葉の掠れる音がする。慌てて振り向くと、そこには胡月が地面に体を預けて仰向けになっていた。


「はぁ……疲れた……」


 大きく息を吐くとそのまま目を閉じる。見るからに疲労困憊な胡月に、ゆきはどうしたものかとオロオロしていると、胡月はしっしっとゆきを追い払うような仕草をした。

 意図がわからず首を傾げると、すぐに「ん……っ」と女性の呻く声が聞こえた。


「お母さん……!」


 ゆきが慌てて亜希の手を握り、そう声をかけると、亜希は小さくみじろいで、長いまつ毛に覆われた瞳をゆっくりと開ける。


「ぁ、れ……?ゆきちゃん……?」


 亜希の声で、名を呼ばれゆきは堪えていた感情が溢れ出し、ぽろぽろと涙が溢れる。


 よかった、無事だった……!


 溢れる涙が頬を伝うのもお構いなしに、ゆきは何度も、母の名を呼ぶ。


「お母さん……、よかった……っ!」


 そう言いながら亜希をその胸に抱きしめる。状況が掴めず、亜希はきょとんとした顔をしていたが、やがてその目に微笑みを浮かべ、そっとゆきを抱きしめ返した。


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