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安城家

殺された安城清美は、安城弘樹と綾子の娘だ。

安城財閥は、10年前に解体してから一族が散り散りになった。唯一、弘樹だけが病院経営を成功させ、現在でも安城家の印象を辛うじて保っているが、弘樹の姉の京子は行方不明の後、精神病院で自殺、父親は新しい事業を始めるも失敗し、借金まみれになった挙句にすい臓がんで死去した。母親は徐々に体調を崩し、今も入院生活を余儀なくされている。

精神病院に入っていた京子が自殺したのは、清美が亡くなった一週間後、聴取を行なった直後だった。


「その、死んだお婆さんがその後どうなったかってのが、問題なんだよなぁ」

私はぽりぽりとピーナッツを食べながら呟いた。

「死んだお婆さんのその後って、そんなの地獄行きに決まってるじゃないすか」

後輩の笹本が言う。頬を赤らめ、呂律も回らなくなってきている。

「そりゃ、そういう意味じゃないよ。死んだ後の話なんてどうでもいいんだ、そんなもん誰にも聞けないんだから」

「じゃあ、先輩、なんだって言うんですか」

「俺が言いたいのは、安城京子があの精神病棟に入るまで何してたかってこと。空白の時間が長すぎる」

「そういうことですかぁ。それは、分かりませんよ。安城財閥のお嬢様なんだから、暫く不自由なくのんびりしてたんじゃありませんか。で、10年前に破産してから自殺未遂繰り返して病院行き。何の不思議もないと思いますけどね」

笹本は、ビールをぐびっと飲み、ふぅ、と息を吐いた。

「暫くのんびりって、30年は長すぎるだろう。結婚もしてないし、どこで何してたかって記録も調べても出てこない。分かっているのは、英国に留学したってことだけ。届出がなかっただけで、行方不明だよ」

私が言うと、笹本は不満気にこちらを見る。

「ていうか先輩、あの安城京子の話、信じるんですか?嘘ばっかり吐いてたのに。不感症の話だって本当かどうか怪しいもんですよ」

確かにそうだった。虚言癖の安城京子の言葉を信じるなんて、どうかしている。

しかし、私は信じずにはいられなかった。彼女の苦しみに満ちた語り口や表情が、不安や絶望を隠しきることができなかったもののように思えてならない。哀れな老婆が少女に返る瞬間を目にしたような気がしたのだ。


一週間前、私と後輩の笹本は安城京子に面会した。60歳手前の初老の女性だった。

虚言癖と自殺未遂で5年前から精神病院に入っていた。

安城家は、国内で知らぬ者はいないほど有名な財閥だったが、10年前に破産してから家族は散り散りになった。

その令嬢である安城京子には、女子大学を卒業後の20歳頃から破産する50歳頃まで殆ど記録がない。豪遊していた、旅をしていた、ふらついていた、と様々な憶測は飛び交ったものの、本当のところ彼女が家を出てからどこで何をしていたのか知る者はなく、5年前に精神病院に入院していた事実のみ週刊誌の記事で安っぽく扱われ、公になった。今となっては、安城家はもはや過去のものに成り果ててしまったということだろう。

面会時、彼女はいつもの虚言癖で、自分は京子の世話役だったと語ったが、実際のところ、世話役の女性を通して、自分自身の話をしていたようなものだった。それは、20歳頃から不感症になったとか、失恋してしまったとかそういった話で、ただの痴話話かと思った。とはいえ、恋愛のもつれが事件と関わっているケースは少なくないことから、私たちが捜査している安城京子の姪・安城清美殺人事件の重要参考人となる可能性があった。だが、彼女は昨日、精神病院で自殺した。


「それにしても、先輩。いくら不感症だからって恋人も結婚もないなんて考えられますかね。もっと、こう、中身っていうか、気持ちで人と付き合うってことはないんですかね」

「まぁ、それは本人にしかわからない何か気持ちの変化があったんだろう。彼女は20歳まで男性と関わりもなかったらしいし、初恋に対しての思い入れが相当あったんじゃないのか」

「そうなんですかねぇ」

笹本は不満そうに口を尖らせた。顔が真っ赤に染まり、茹でタコのようだ。

「でも、僕は彼女が不感症でもずっと愛せると思いますけどね。ほら、見てくださいよ、僕の彼女」

笹本がスマホの画面を私に向ける。

「美人だね」

髪の長い色白の女性が笹本の隣で微笑んでいる。

「でしょ!僕は彼女のことずっと大事にするつもりだったんですよ」

「つもりだった?」

「はい。でもふられました」

「それは気の毒に」

「ええ、でももういいんです。諦めたんです。僕はまだ彼女に見合う器の男になれないから…でも、僕は本当に彼女のこと好きだったんです、愛してたんですよ!」

笹本は悔しそうに涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしている。飲みすぎているようだ。

「笹本、水飲んで落ち着け」

私が水のグラスを勧めても、いやいやと首を振る素振りをして、

「お酒飲まなきゃ、やってらんないですよ」

と言う。

「今我慢しないと後で後悔するよ」

「僕にはもう後悔なんて何の意味もない…」

「じゃあもう分かったよ、飲みたいだけ飲めよ」

そう言いながら水の入ったグラスを勧めると、笹本はそれを一気に飲んだ。

「先輩これなんの酒ですか?」

私が無視すると、笹本はまたむすっとした顔をした。

「騙したんですね、ひどいです」

私は笑った。



30年前の新聞を読み漁っていると、安城京子が大学生の頃の記事を見つけた。安城家令嬢、女子大学ご入学の文字が白抜きの太字で書かれ、その下には若かりし頃の彼女が校門の前で微笑む姿が映し出されている。白い手袋に、ふんわりとしたワンピースを身に纏っている。リボンでまとめられた髪は黒く艶やかで、頬は若々しくふっくらとし、いかにも上流階級という出で立ちだ。彼女の隣には、例の世話役のばあやが俯いて立っている。華奢な体つきだが、京子の年齢から考えて、50歳くらいだろうか。写真に写るばあやは、少女にも大人にも見える不思議な女性だった。

新聞を読み進めていくと、安城家令嬢英国へご留学、という見出しがあった。大学卒業と同時に英国へ渡ったということは、既に分かっていることだが、留学先の大学や場所についてはやはり一言も書かれていなかった。それに、どういうわけか、留学の記事は、大学入学の記事に比べてかなり短く簡単で、小さく隅の方に掲載されていた。たったの四年で、世間の関心がなくなるはずがない。おそらく、この記事の掲載には何か大きな力が働いた。そして、その力の持ち主は、安城京子が英国に留学するという事実をなるべく世間に注目させたくなかったということだ。

それから先は、いくら探しても彼女に関する記事は見つからず、代わりに弟の弘樹の記事がメインになっていた。弘樹は、私立大学卒業後、国立大学の医学部へ編入。高校の同級生と結婚し、娘が産まれた。その後、医師として活躍すると、病院を設立。まるで成功を絵に描いたような人生だ。





安城家長男 安城弘樹

————————-

この女性というと、野々村時子のことですか?彼女は、安城家の女中でしたよ。ばあやと呼んでいました。今思えば、ばあやなんて歳でもなかったんですがね。ばあやは、姉さんが命より大事でした。でも、私は実を言うとばあやが、嫌いでした。

ええ、安城京子は私の姉です。どんな人だったか、ですか。

年は私の一つ上で、美しく、自信に満ち溢れ、いつも皆の憧れの的でした。成績優秀で、芸術の才能にも恵まれていた。それに比べて私は、勉強も運動もそこそこの、出来損ないの弟でした。私はいつも姉の影に隠れていました。

安城家は代々、美男美女の血筋だが、京子さんは格別ですね、その上、成績も優秀で、絵画展で賞もお獲りになったとか。羨ましい限りですよ。将来が楽しみですね。

で、弟の弘樹さんは今何をしてらっしゃるので?

はぁ、夏篠学園ですか。優秀なのは違いないのでしょうがねぇ。

皆そんな調子で、私の話となると、それ以上は聞きませんでした。

夏篠学園は、世間的には優秀な部類にはいる学校ではありましたが、巷ではどこへも入れなかった売れ残りが金を積んで入る学校だと噂が流れていました。

実際、その通りだった。本当に優秀なのは、全額支給の奨学金が支払われる特待生のみで、その他は金のある馬鹿ばかりでした。

ばあやは、出来の良い姉のそばにいつもいて、周りの人間が姉を褒めると、まるで自分が褒められたように誇らしげな顔をしていました。京子を育てたのは、自分なのだと言わんばかりに。

けれど、あの出来事から半年と経たずに、姉は姿を消した。

あの事を知っているのはおそらく私だけだと思います。姉が大学三年生の頃でした。

あの日。姉がばあやを呼んだのは真冬の雪の日でした。私は、腹の調子が悪く夜中に何度かトイレに行っていました。食あたりでもしたのだろうかと思いながら廊下を歩いていると、ばあやが血相を変えて姉の部屋に入っていくのが見えました。深夜零時を回っていたでしょうか。何事だろうと気になり少し様子を伺っていると、ばあやは直ぐに出て来ました。障子の向こうの姉に向かって、お茶を淹れて参ります、と言う声が聞こえました。

ああ、姉の気まぐれか、と思いました。

姉はその頃夜遅くまで帰らないことが多く、ばあやは夜更けに姉に呼び出され、その度にお茶や睡眠薬を持って行かなくてはならなかったからです。姉は我がままなことばかりしていましたが、ばあやはそれが当然のように姉の世話をしていました。何しろ、大事な京子お嬢様ですから。

その日は、いつにも増して遅い時間にばあやを呼び出していたから、何かあったのかと少し気にかかりましたが、やはりいつも通りの、お茶と睡眠薬だったようでした。

私は自室に戻って目を閉じました。

それから10分くらいして、ばあやがお茶を持って姉の部屋に戻って来る音がしました。でも、しばらくばあやは部屋から出て来ませんでした。姉が駄々をこねているのだろうか。翌日も朝から学校に行かなくてはならないのだから、そんなことを気にするよりも早く寝てしまおう。そう思って、私は、やきもきしながらも眠りにつこうと努めていました。

しかし、それにしても長すぎると思ったのです。

次に扉が開いたのは、一時間後でした。私は、気になって、襖の隙間から姉の部屋を見ました。ばあやは、いつものように静かに戸を閉め、それから少しばかり庭先で雪を眺め、項垂れながら戻って行きました。私は、その時のばあやの横顔が忘れられない。暗がりでも分かる、雪の反射できらりと光ったあれは、私が見た最初で最後の、ばあやの涙でした。

いくらなんでも、ばあやを泣かせるなどやりすぎではないのか。

私は、ばあやのことは好きではありませんでしたが、泣かせたことなどないし、泣いてほしいと思ったこともない。女中いびりなど珍しいことではなかったけれど、あれは低俗な人間だけがやることです。あれだけ世話を焼かせているのにもかかわらず、ばあやを泣かせた姉が私には度が過ぎて無慈悲で身勝手な人間に思えました。

しかし、それだけじゃありません。実を言うと、私の中でおかしな考えが浮かんでどうしようもなかった。

こんなこと本当は言ってはいけないことなのかもしれませんが、私は姉とばあやがただならぬ関係にあったと思えてならないのです。なぜって、よく考えてみればですよ、毎日のように夜ばあやは姉の部屋に行くのです。普段私は寝ていて知りませんでしたけど、一時間も部屋から出てこなかったのはあの日たまたまではない気がするのです。どうぞお笑いになってください、姉とばあやがそういった関係にあっただなんてあり得ないと。女中いびりの方がまだ良かったかも知れない。しかし、あの涙。あれは、愛する人に突き放された女の涙に違いないと、私はそんな馬鹿らしい妄想に取り憑かれてしまったのです。

私は、翌朝、朝食をとった後、姉が一人になったのを見計らい声をかけました。書斎でです。

「姉さん」

姉は、本棚から芥川龍之介の蜘蛛の糸を引っ張り出していました。

「弘樹、どうしたの」

「昨日の晩、何があったのですか。ばあやが泣いていたではありませんか」

姉は一瞬固まったのですが、

「さぁ、何のことかしら。私はただ、いつものようにお薬を飲んで寝ただけだけれど」

と続けました。

「しかし、私は、姉さんの部屋から出て来たばあやが泣いていたのを見たのです。それに、一時間もばあやは姉さんの部屋にいたではありませんか。一体何をしていたのです?」

「ちょっとした話よ。あなたには何の関係もない」

「でも、私には姉さんがばあやに辛く当たり過ぎているように見えます。ばあやがどれだけ姉さんのことを大事にしているか、知らないわけではないでしょう。ばあやは、私の為にはしないことでも、姉さんの為には惜しまずやるんだ」

「そんなことないわよ。ばあやは、誰にでも公平に接しているわ。そういう女だもの」

私は、姉がばあやのことを女と言ったのには驚きましたが、その時の彼女の顔は、あまりにも自信に満ち溢れていました。光を溜めた瞳は私の顔をまっすぐに見据え、唇は弓のようにキュッと結ばれ、頬は情熱を湛えたかのように上気していました。その顔は今までみたどの顔よりも美しく、強い意志を感じさせるものだった。

私は、姉には敵わない。そんな気がしました。

「そうですか。何もなかったのなら、私が騒ぐ事ではありませんね。もう学校の時間ですから」

「そう。それじゃあ」

「行って参ります」

「ええ、気をつけて」


それきり、姉とその晩の事は話していません。

その後?確かその半年後くらいだったでしょうか、姉は家を出たきり帰りませんでした。もうご存知でしょう。表向きは、海外留学ということになってましたし、父も母もそう言っていたけれど、時間が経つにつれて、私も察していきました。姉は、帰ってこないのだと。

あの日、あの部屋で何かあったのだと思います。ばあやと姉は何を話していたのか。本当はどんな関係だったのか。今となってはもう分かりませんが…姉は自殺し、ばあやは老人ホームに住んでいますが、認知症でまともな話をするのは困難ですから。

どこの老人ホームかって?確か、田舎の方だって聞きましたけど、暇を取らせた後のことはわかりかねます。

姉は、三十年間一度だって私に連絡を寄越しませんでしたよ。てっきりもう亡くなっているのだと思って、私もそう受け止めることにしていたのです。それが、週刊誌であの病院に入院してると知って…あの時は、姉が生きていると知って、涙が出るほど嬉しかった。それなのに、面会は断られました。姉からしてみると、合わせる顔がないということなのかも知れませんが、やはり血の繋がった兄弟に拒絶されたのは、相当ショックでしたね。


で、あなた方は今、娘の事件を調べているんでしょう?どうして姉の事ばかり…ああ、やはりあなた方も、姉を魅力的だと思われるのですね。彼女は、いつもそうです。無関係の人間にまで憧れを抱かせる。清美もそうでした。

僕にはまだ、あの子がもういないだなんて信じられないんですけれどね。現実味がまるでないのです。

ええ、確かに、清美は実子ではないですが、そんなもの関係ないですよ。私たちは、本当の親以上に愛情を注いできたつもりです。清美がどんな子だったかと言いますとね、昔から出来の良い子でした。頭も良かったし、一度教えたら、きちんとそれを守るような律義さもあって、年の割には大人びている方だったかも知れません。だから、清美が国際弁護士になるために英国に留学したいと言ったとき、私は驚きませんでした。むしろ、清美らしいと思った。

誰にでも優しい子でしたから誰かに恨みを買うようなことはなかったと思います。友達も多かったと思います。しょっちゅう大学の友達と旅行にも行っていましたしね。

最近変わった様子があったかといえば、姉の写真を手帳に挟んで持ち歩いていたことでしょうか。清美が姉の写真を持ち歩いていると妻が言うので、それとなく聞いたことがありました。そうしたら、清美は持っていた写真を見せてくれました。姉がいなくなる直前に撮られた数少ない写真でした。昔のアルバムの中に入っていたのを見つけたとかで、とても綺麗な人だったから、と。確かに姉は美しかったので、私はただ、そうか、と言っただけでしたが、妻はやたらとその事を気にしていました。

ばあやですか?もうとっくに暇を取らせてましたよ。ばあやは清美が産まれてすぐ田舎へ帰りました。恐らくは、自分の病状に気づいていたのだと思います。うっかり何か忘れるなんてこと、昔のばあやにはありえないことでしたからね。安城家に奉公に来て以来、彼女は私と姉の親代わりでしたので、彼女のことはよく分かっているつもりです。私は、ばあやのことは好きではなかったけれど、信頼はしていました。ばあやが安城家を何より大事にしているのは、ばあやを見ていれば自ずと分かりましたし、家の名を汚さないようにと私も厳しく躾けられましたから。







安城弘樹の妻 安城綾子

————————-

はい、清美は実子ではありません。誰の子か?安城家の血縁の方で、由紀子さんとおっしゃる方です。…ええ、そうです、清美を養子に連れてきたのは野々村さんです。この家に嫁いできてちょうど一年後くらいでした。実は、養子を迎えたいと言う話は、私や弘樹さんから出たのではなくて、野々村さんが言い出したことなのです。嫁いでまだ一年でしょう、子供が出来なくてもまだ何の問題もないと思っていました。けれど、一年も経ってるのに妊娠もしてないなんて、とお義母さんが仰ったらしくて。おかしなことですよね、お義母さんの目論見などすぐに分かりましたよ。お義母さんは私のことはあまり気に入っていなかった様子でしたし、私のような庶民が生んだ子は嫌だったんでしょうね。それならば、お義母さまの遠縁の由緒ある家の子を引き取った方がまだましだと思ったんでしょう。私も初めは嫌でしたよ。それは、勿論、自分の子を産みたかったです。当時24で、まだまだ若かったですしね。でも、あの子がこの家に来てからは、そんなことを考えるのすら忘れていました。私からしてみれば、誰が生んだ子だろうが関係なく清美は私の娘なんです。お義母さんも別人のように優しくなって、清美を大変可愛がるようになりました。野々村さんには感謝しています。お義母さんと本当の親子のようになれたのもあの子が来てくれたおかげなのですから。

清美がどんな子だったか?

それはもう天使みたいな子ですよ。小さい頃から色々なことに気づくような子でした。特に私とお義母さんの仲が上手くいっていないのを、何にも言わずとも感じ取っているようでした。清美は、私がお義母さんにいじめられないようにと、いつも私の側にいましたね。お義母さんは清美の前では意地悪できないんです、だって嫌われたくありませんからね。ええ、学校ではどんな生徒だったか?成績は優秀でしたし、お友達も沢山いましたよ。特に、英国からの留学生とは随分仲がよかったようですよ。名前?申し訳ございませんけれど、お名前までは…でも、留学生との交流もあって清美は留学を決めたんだと思います。留学したいと言い始めたのもその頃でしたから。

確かに、義理の姉である京子さんも英国へ留学なさってましたね。ただの偶然かというと、そうではないと思いますよ。清美が京子さんの写真を持ち歩いていたのを見たので、京子さんに憧れていたのだと思います。美しくて、財力もおありで、皆の注目の的でしたし、そんな方が身内にいるとわかれば、私だって憧れますわ。京子さんはいつも輪の中心にいらっしゃるような方でしたね。面識はありましたけれど、あまり親しくはなかったです、近寄り難い雰囲気もありましたし…やはり私とは身分も違いましたから。

でも、留学へ行かれてから行方が分からなくなったと聞いて、世の中物騒なものですね。

野々村さんとは、清美を引き取るにあたり親しくさせていただいてました。とても丁寧な方ですね、あの方は。はじめての子育てで不安なことばかりでしたが、野々村さんが赤ん坊のあやし方から教えてくださって、本当に助かりました。今どうされてるか?存じませんけれど、田舎へ帰ったと聞いています。


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