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Called,“Remove and add.”  作者: 伝記 かんな
9/13

自由な旋律

心を巣食う“暗闇”と向き合う為に

ゆりと共に東京へ出向く事になった、明来と舞乃空。

様々な出逢いと時間を経て、『家』と呼ばれる所へ赴く。


           9




自由な旋律は、特別な時間を与える。


弾かれる音の粒は、漆黒の光沢から溢れて

一つの世界を生み出している。


その部屋の天井は

プラネタリウムのように高く、

礼拝堂の如く神々しい天井画が描かれていた。

壁に等間隔で照明が灯されており、

照度は淡く、温かい。


数か所に設置された重厚な牛革のソファーに

背を預ける者は、僅か男性一人。

身なりはカジュアルで、

梟のロゴが入ったキャップ帽子を

深く被っている。

腕を組み、グランドピアノに向かう女が

生み出す自由な旋律に、耳を傾けていた。


その男性が座る目の前にある、

硝子のテーブル。

そこに、爽やかなスカイブルーのカクテルが

静かに置かれた。

音色に浸る男性の邪魔をしないように、

バーテンダーの男は何も声を掛けず

速やかにカウンターへと戻っていく。



グランドピアノの奏者である女と、

バーテンダーである男には、共通点があった。

独特なヴェネツィアンマスクで

目元は隠され、表情を窺い知るのは

難しいという事。

何者なのか、尋ねることも。


そんな二人の男女が創り出す空間に漂う、

カウンター席に腰を下ろす女性がいた。

纏う服は、程よく緩めの

アイボリー色のカットソーと、

ネイビー色のワイドパンツ。

背中まである白髪交じりの黒髪は、

馬の尻尾のように

蝶々の髪留めで一つに纏められている。


彼女の視線の先には、

クリスタルのように美しいロックグラス。

ダブルで入ったモルトウィスキーの酒精を

中和するように、

丸く透明な氷が一つ入っている。

淡い照明に反射して輝くそれは、

閉じ込められた小宇宙である。



「いつも、ご苦労様。」


するりと、女性に寄り添う声。

彼女にとって、それは

無視できない呼び掛けだ。


直ぐに声の主の方へ身体を向け、会釈をする。


「労いのお言葉、恐縮です。

 ・・・ご多忙の中、お呼び立てして

 申し訳ありません。」


声の主―蔵野は微笑むと、

女性―『ジーン』の隣席に腰を下ろした。


「君から呼び出される事は、

 滅多にないからね。

 少し、長居することにしよう。」


その言葉が合図のように、

バーテンダーは動く。


「酒を嗜むのは久しぶりです。

 この一杯だけで、心地好い・・・・・・

 彼らの、おもてなしの

 お陰でしょうね。」


『ジーン』は穏やかに微笑みながら、

骨ばった指でロックグラスを弄ぶ。



しばらく二人は、

流れる音の粒を拾い集める事に

時間を注ぐ。


この空間の中にいる者は

ただ静かに、身を委ねていた。


応えるように、自由な旋律は

皆を包み込んでいく。



「・・・・・・お顔の色が良くなられましたね。

 何か、良い事でもありましたか?」


ようやく、言葉が紡がれる。

瞳に浮かぶ理知の光が、蔵野に向けられた。


「・・・ははっ。君には敵わないな。」


彼の前に、シングルの

アイリッシュ・ウィスキーが入った

ロックグラスが置かれる。


「長年の想いが、届いたからだろうね。」


そのグラスを手に取り、

彼女に向けて軽く上げた。


「だから今、晴れやかな気持ちだよ。」


「ふふっ。そうですか。」


『ジーン』もグラスを少し上げて、

にこやかに告げる。


「差し出がましいかもしれませんが、

 おめでとうございます。

 ようやく彼女は、前を向けたのですね。」


「祝福してくれるかい?」


「勿論です。・・・『彼』も、喜ぶはずです。

 ずっと、貴方様と彼女の事を

 繋げたかったのですから。」



ずっと『彼』は、自分の寿命が

僅かなものだと、気づいていた。

それを気取られないように、自ら離れて。


自分は、それを間近で見守っていた。

痛ましかったが、『彼』自身が

それを望んだのだ。


彼女は、『彼』が亡くなって

それに気づいた。

見ていられない程に、打ちひしがれていた。

だから仕事に没頭し、手を取り合いつつ

何とか保っていたのだ。



「これから沢山、

 包んであげてください。

 彼女は甘えるのが不得手ですから。」


「ああ。それは十分に感じている。」


互いに、小さく笑った。


ウィスキーを一口含んだ後、

蔵野は話を切り出す。


「・・・・・・話を聞こうか。」


一呼吸置いて、『ジーン』は言葉を紡いだ。


「懸念していた事が起こりまして・・・・・・

 “相沢あいざわ 悠生はるき”が、

 “高城たかぎ 由梨ゆり”に

 接触しました。」


「・・・・・・」


「変化はないようですが、

 報告差し上げた方が良いかと・・・・・・」


「・・・・・・そうか。ありがとう。」


「それと、もう一つ。

 貴方様の要望でしたから、今まで“彼”を

 “彼女”の傍に置かせましたが・・・・・・

 今後の事を考えると、

 離すべきだと判断しました。

 事後報告になりますが、異動させます。」


「・・・・・・」


互いの間に、自由な旋律が舞う。


「・・・・・・考えていた程よりも、

 深いようだね。」


「お気持ちは察しますが・・・・・・

 心に生まれる想いは、

 人知を遥かに凌駕します。」


「・・・止める必要が、あるだろうか。」


「・・・・・・」


「止めなくてもいい、方法はないだろうか。」


「・・・『当代』さま。」


「君の言った通りだ。

 心は、形あるものを凌駕する。

 だから逆に、

 信じてみてもいいのではないか。

 今まで二人が現実を忘れ、

 空白を共に過ごしてきた、その刹那を。」


「・・・・・・」


「僕は、甘いだろうか。」


「慈悲深いお心だと思います。」


「どんな者でも、道を踏み外す時がある。

 それを改める機会があっても、良いはずだ。

 ・・・・・・君の意向には、賛成する。

 だが、月日を重ねて

 “彼”が落ち着いた時には・・・・・・

 また、“彼女”の傍に置いてほしい。

 もしも変化があった場合は、

 僕に免じて見守ってもらいたい。」



無言の時間が訪れても、

繊細なピアノの音色が彩りを添える。


『ジーン』は、ぐいっ、と

ウィスキーを飲み干した。


「承知致しました。

 異動の件、ご理解有難うございます。

 ・・・念の為、『小百合』の見解も

 聞いておいた方が良いかと思います。」


「・・・そうだね。」


「彼女は明日、

 『ここ』に来る予定でしたね。」


「ああ。」


「私に、診てもらいたい少年がいるとか・・・・・・」

 

「“暗闇”に繋がったままで、

 意識を保っている。」


「・・・・・・それは、

 今までの事例にないですね。」


「経緯も、手がかりもない状態だ。

 何か、分かればいいが・・・・・・」


「ええ。それを願います。

 ・・・“暗闇”は、貴方様を

 破滅させようとしていますから。

 止める手立てになればいいと思います。」


『ジーン』は席を立ち、深々と頭を下げる。


「貴方様は、現在いま

 大事になさってください。

 ようやく、安寧が戻りつつある現在を。」


「・・・・・・心に刻もう。」


「あと、彼女を笑顔に。」


「永遠の課題だね。」


「ふふっ。案ずるなかれ、ですよ。」



そして彼女は、バーテンダーと

ピアニストに向けて、会釈をする。


この空間を創りし、二人のNotationに。
















                  *











まだ、欠けた月が空に浮かぶ頃。


八分音符のスタンドライトが、

部屋を温かく照らしている。


その中で明来は、ショルダーリュックに

着替えと旅行用の歯磨きセットを

詰め込んでいた。


眠る前に準備しておけば良かったのだが、

どうしても眠気が先に勝ってしまい、

そのまま寝落ちしてしまったのだ。



―詳しく聞いとけば良かった。

 タオルいるとかいな・・・・・・

 ホテルとかに泊まるんやったら、

 いらんやろうけど・・・・・・



一人になってからの旅行は、初めてだ。

何を準備していいのか、戸惑う。



―あいつはまだ寝とるやろうけん、

 聞くわけにもいかんし・・・・・・



昨晩、自分が風呂から上がると、

余程疲れていたのか

舞乃空は廊下で、うつ伏せのまま眠っていた。

流石にそのままにはしておけず、声を掛けると

彼は笑顔で起きたものの、

ゆっくりのっそり立ち上がって

洗面所に消えていった。


初日で勿論慣れないし、しかも

力のいる仕事をこなして

体力も限界だったのだろう。


夕飯の準備をしていると、

バスルームの方から声が聞こえた。



“明来ー。着替え忘れたー。持ってきてー。

 ごめーん。”



何で、用意して行かなかったのか。

言い返そうと思ったが、やめた。



“部屋に入って、すぐの引き出しのー、

 一段目にパンツ入ってるー。

 スウェットはベッドの上ー。”



迷った。

でも、真っ裸で廊下を歩かれるよりは。

そう思い、彼の言う事に従って

着替えを脱衣所に持っていった。


良かった。

彼はバスルームから出てこずに、待っていた。

出てきて待っていたらどうしようかと、

一瞬思ったが。


別に身構える必要はないのだろうが、

今までの彼の行動からすると、

考えざるを得ない。

でも流石に、その余裕もなかったのだろう。



夕飯は、葱たっぷりの卵チャーハンと、

市販でお馴染みの

インスタントのワンタンスープ。

それを、彼は美味しそうに

がっついていた。

ぺろりと平らげ、丁寧にご馳走様をすると、

率先して後片付けをしようとしたので

それを止め、自分がした。


ソファーで、うとうとしながら

片付ける自分を待っていたので、

“もう寝ろ”と声を掛けると、

“ありがとー。おやすみー。”と言って、

彼は素直にリビングから出ていった。



疲れて元気のない彼の方が、

普通なのだろう。

物足りなさを感じる自分が、おかしい。

いや、あいつが良くない。

すぐ、ハグしようとしたりするから。



―・・・・・・こんなもんで、いいかいな。


思いつく準備を終え、明来は

顔を洗いに行こうと部屋を出る。


時刻はまだ、3時を過ぎた頃だ。

しかし博多駅に5時30分待ち合わせなので、

4時に家を出なければ、余裕がない。

朝御飯は、駅で食べようと思っている。



―・・・・・・一回、声掛けとくか。


舞乃空の部屋のドアを、ノックする。


「まの・・・」


言い終わる前に、

ドアが勢いよく開いて、舞乃空が飛び出した。


「おはよ!明来!ごめん!

 疲れすぎて、おやすみのハグ忘れるとか、

 俺、ちょーダセーよなぁーっ。

 おはようのハグで許してー!」



元気いっぱいだ。

一晩寝ただけで、これか。


ぎゅうぎゅうにハグされて、明来は

抵抗する気力もなく、されるがままである。


「・・・いや、別にいいよ。」


「寂しかったろー?ごめんなー。」


「いや、別に・・・・・・」


「お詫びに、チューを・・・・・・」


「ちょ、やめろっ!」


その行為には、抵抗がある。

やってくる顔の額を、慌てて両手で抑えた。


「は、早く顔洗って来い!

 4時には家出るけんな!」


「準備は前もってしてたしー。

 顔洗って着替えたら、すぐ出れるよー。

 ゆっくり、ハグタイムできるってー。」


少しでも心配した自分が、馬鹿らしい。


「お前は、疲れすぎたくらいが

 丁度いいっちゃないと?」


「あ。ひどい。」


「離れろっ。」


「やだっ。」


必死に彼のハグから逃れようとするが、

ありったけの力でも、外れない。

それがいつもながら、悔しかった。


「仕事始めた俺は、もっと最強になるー。」


確かに、それは思う。

せっかく仕事で力が付いてきた自分よりも、

元々力のある彼が一緒の事をしたら、

更に追いつけなくなるような。

今、それに気づいてしまっても、もう遅い。


「はなせっ!」


「はははっ。悪いなー、明来。

 今日の俺は、元気いっぱいだー!」


腹立たしい。

腹立たしいが、何も出来ない。


「・・・・・・」


「・・・あれ?もう諦めるの?」


抵抗するのを止めて静かになった明来に、

舞乃空は勝ち誇った笑みを浮かべる。


「・・・・・・認める。お前は強い。」


「はははっ!嬉しいなー!俺最強!」


「・・・・・・でもな。」


両手を、彼の両脇に持っていく。


「これにお前は、耐えられるヤツ?」


こしょこしょこしょ。


「えっ、あはっ、あはははっ!」


こしょこしょこしょ。


「それっ、ずるいっ、やっ、やめてーっ!!」



―効いとる。

 何でもっと、早く気づかんかったとかいな。

 脇の下の、あばら骨。

 その部分を、こしょぐられて

 平気でいられるヤツは、超人だ。

 こいつは、普通の人間やったみたいだ。



舞乃空の、鉄壁の両腕が外れる。

彼が膝を崩して床に転げるまで、明来は

その手を止めなかった。


「あはっ!あはっ!許してっ!!

 明来っ!!」


「今度から、思うようにはさせんけんな!」


「分かった!!ごめんっ!!ごめんって!!

 ぎゃはははっ!!」


笑い転げる彼を見ていると、

自分も釣られて笑ってしまいそうだ。


「参りました、は?」


「参りましたーっ!!あはははっ!!」



くすぐる手を、止める。


すると、涙を流しながら笑っていた

舞乃空は、くすぐりの刑から解放されて

ぐったりしている。


「・・・・・・や、やるなお前・・・・・・」


その吐いた言葉に、明来は笑った。


「やられっぱなしなわけ、ないやろ。」


「はーっ、苦しーっ・・・・・・」


「先に顔洗って来い。

 ・・・朝メシは、駅で食おう。

 5時から開いとる店があるけん。」


「開いてる店、あるんだ。へぇー。

 そうだなー・・・まだ腹減らねーもんなー・・・・・・

 朝早ぇし・・・・・・」


―舞乃空が顔洗っとる間に、軽く

 廊下と階段の掃除を済ませとこう。


「明来ー。起こしてください。」


「嫌だ。」


「なんでー?ひどい。

 いっぱい、くすぐっておいてー。」


両手を差し出して懇願する彼を、明来は

じとっと見下ろす。


―油断できん。

 手を掴んだら、引っ張られて

 抑えつけられるかもしれん。


「一人で立てるやろうもん。」


「つめたいー。」


「その手には乗らん。」


お構いなしに、階段を下りていく。


「明来ちゃーん。」


「甘えるなっ。」


「出掛けるしー、イチャつけないかもだろー?

 今、いっぱいイチャついとこうよー。」


顔だけ出して、階段を覗き込む舞乃空。

彼は、悲しそうな表情を浮かべている。

それを、明来は呆れた様子で

下から見上げた。


「・・・・・・お前なぁ。

 どんだけハグすれば気が済むと?」


「ずっと。」


「ずっととか、無理やん。」


「可能な限り、ずっとです。」


「おかしいって。」


「出来れば、チューも。」


「お、おかしすぎる。」


なぜか、ドキッとした。


「好きな相手に

 くっつきたいって思うの、

 フツーじゃないんっすかねー?」


「お前の場合、くっつき過ぎやろっ。

 ・・・いいからっ!早く顔洗ってこいって!」


「明来は俺に、くっつきたいって

 思わないんっすかねー?」


「・・・・・・思わん!」


「ズバッと、嘘つきー。」


「・・・ず、ずっとっていうのが、

 どうかと思う。」


「・・・・・・俺、そんなにおかしい?」


「・・・・・・」


―なんて顔しとるんよっ。


「互いに好きなのに、

 我慢する必要あんのー?」


「我慢しとらん!状況によるけん!」


「じゃあ、いつならいいのー?」



―あぁ、もうっ!


だんだんだん、と階段を上がっていくと、

明来は這いつくばっている舞乃空に、

手を差し伸べる。


「起きろっ!」


「わーい、初握手ー!」


差し伸べた手を、両手で掴まれた。


―大きくて、長い指。

 自分の小さな手とは、大違いだ。


「手、小さっ!」


「お前が大きいだけやろっ。」


「小さいけど、めっちゃいい手ー。」


掌を、ふにふに押してくる。

それが、くすぐったい。


「お、起きろってばっ!」


「俺も、頑張らないとなー。」


「舞乃空っ!」


―これだと、きりがない。


どうしようか困っていたが、すぐに

舞乃空は明来の言う事に従って

すっと起きて、立ち上がる。


「ありがとー。手繋ぐのいいなー。

 ハグと同じくらいの破壊力あんなー。」


満足げに、彼は笑った。


「気遣いが足りなかったー。ごめん。

 今度から、無理矢理しないから。」


きゅっ、と手を握られて言われ、

明来は思わず目を逸らした。


「・・・・・・あ、謝るなっ。

 別に、それが嫌とかじゃないけん・・・・・・」


―気を遣われる方が、嫌だ。


「へへっ。やっぱお前、優しいなーっ。

 ありがとー。」


舞乃空は、とても嬉しそうだ。



彼の全てを、受け入れようとする自分がいる。

これって、一体何なのだろう。









互いに身支度をした後、

ショルダーリュックとリュックを持って

玄関へ向かう。

明来は、いつものスニーカーを履き終わると

舞乃空の方へ目を向けた。


「スマホの充電器持った?」


「あー。忘れそーになったけど、大丈夫。」


スリッポンを履き終え、

舞乃空は笑顔で両腕を広げる。


「ハグ、しよー。」


「・・・・・・さっき、したやん。」


「さっきのは、俺が無理矢理したからさー。

 きちんと、明来の気持ちが入った

 ハグしたいなーって。」


「・・・・・・」



目線を合わせずに、明来は

彼の懐へ歩いていくと、両腕を回す。


どうしても身長差があるので、

抱きつく形になってしまうのが、不本意だ。


「うわー。ヤバい。嬉しすぎるっ。」


素直にくっついてきた明来を、舞乃空は

ふわりと抱き締める。


柔軟剤の、木漏れ日のような香りと

互いの体温が相まって、心地好い。


「・・・・・・明来。お前が、

 どんな状態になっても・・・・・・

 俺が引き上げるからな。傍にいる。」



温かい抱擁と、心の籠った囁き。

安堵感を生む彼の優しさに、

ずっと漂いたくなる。


何もかも忘れて。ずっと。



しばらく寄り添った後、

ゆっくり離れて顔を合わせる。


舞乃空の優しい微笑みに、明来は

どうしても応えることが出来ず、俯く。


自分は今、きっと、顔が赤い。



互いに荷物を背負って、玄関を出た。


ひんやりと肌寒いが、丁度いい。

澄んだ空気が、夜明け前の空の

深い藍色と比例して、

何とも言えない清涼感を生み出している。


「はーっ。

 なんていい朝なんだーっ。」


「・・・・・・」


激しく打ちつけるこの心臓は、何なのだろう。


平静を装えているのか不安に思いつつ、

明来は玄関の鍵を閉める。


「・・・明来ー。

 お前、そんなかわいい顔してたら、

 ハグしたくなっちゃうじゃん。」


やっぱり、隠せていない。


心臓が胸を突き破って、自分は

息絶えてしまうかもしれない。


「よしよし。さー、行こう!

 楽しい旅が始まるぞーっ!」


頭をぽんぽんされて、明来は言葉も出ない。


温かいハグを心行くまで味わい、

力強い言葉をもらって、何と言えばいいのか。


歩き出す事くらいしか、できない。


明来の様子に大満足なのか、舞乃空は

満面の笑みで隣を歩く。


「明来、ヤバい。かわいすぎる!」


「・・・・・・あのな・・・・・・」


かわいい、というのは、聞き捨てならない。


「さっきのハグは、

 今までの中でダントツ良かった!

 思わず、チューしそうになったもんなー。」


―・・・・・・

 さっきなら、多分、されても、

 嫌じゃなかったと思う。いや、

 してもいいかなと、思ってしまった。


「いっぱいチャージしとかないと、

 この先もたねーよ?

 ゆりさんの目の前でとか、

 イチャつけないだろー?俺はいいけどー。」


「・・・・・・」


顔の火照りと動悸が治まらず、明来は

深いため息をつく。


こんな始まりで、いいのか。

これから自分は、得体の知れない“暗闇”と

向き合わなくてはならないのに。



“松宮冷機”の看板が、目に入る。

有難い事に、それが少しだけ

クールダウンさせてくれた。


葉音は、起きているだろうか。


「そういえば、葉音は家族と

 旅行に行くんだったっけ?」


ちらっとだけ横目に

通り過ぎただけだったが、舞乃空は

それを拾って話題を振ってきた。


「・・・うん。北海道旅行。」


「いいなーっ!いつか俺たちも行こーぜ!」


「・・・・・・そうやな。」


「誕生日なんだろ?」


「ああ。今度、お前と俺の3人で

 メシでも食いに行こう。」


「おー。じゃあ、カラオケもゼッタイだな。」


「・・・そっか。それ、いいかも。」


「はははっ。いっぱい歌わせてやろーぜ。」



昨晩、葉音のライブ配信に

伺わせてもらった。

熱狂的なファンがいるらしく、

小規模ながらも盛り上がっていた。

何となく疎外感を覚えながらも、

輝かんばかりの笑顔で歌う彼女を、

温かく見守った。


これから、どんな成長を遂げるのか。

自分とは、かけ離れた世界で

彼女は様々な出逢いを経て、輝いて。


それを、壊さずに済んで本当に良かったと、

心から思っている。



「あー。もうハグしたい。」


その舞乃空の言葉で、現実に引き戻された。

明来は、並んで歩いていた彼と

距離を取るように、早歩きする。


「だから、そういうこと言うなっ!」


「もう言っちゃうけどさー。

 俺の初恋の相手って、お前の事だぞー。」


「・・・・・・は?」


思わず、立ち止まる。

振り返る先には、彼の微笑みが浮かぶ。


「引っ越すの、ホントは

 死ぬほどイヤだったんだけどさー。

 小さかったし、どうする事もできねーだろ?

 だから、お前の母親に

 聞いたことがあるんだ。

 “大きくなったら、僕は

  明来と結婚できますか?”って。」


―初耳だ。いつ、母さんに

 そんな事を聞いたのか?


「そしたら、めっちゃいい笑顔で

 “明来があなたの事好きなら、

  できるわよ。”って言ってくれたんだよ。

 “そうなったら、どんな時も

  傍にいてやってね。”って。

 それが、ずっと頭に残ってたんだ。」


「・・・・・・」


驚きを、隠せない。


「はははっ。これも、秘密にしてた話。

 ・・・まさか、これが繋がるとは思わなくね?

 こんな奇跡みたいな事、

 あるんだなーって。」


「・・・・・・」


急に、舞乃空と目を合わせるのが

恥ずかしくなった。

踵を返して、早歩きしていく。


彼も、それに合わせて歩き出す。


「ある意味、ほぼ叶ってるよなー。

 嬉しくてさー。毎日夢みたいなんだよ。」


「・・・・・・」


返す言葉が、見つからない。



自分は、どうして。

舞乃空の事、あまり思い出せないんだろう。


その時の、彼に対する気持ちとか、

状況とか。

家に来るぐらい、仲良くなったのに。

自分も少なからず、

気にかけていたはずなのに。



彼は、こんなにも。


自分の事を、想ってくれているのに。











                  *











視線を落とす先に在るのは、書籍の活字。

走らせる毎に、情景や心境が

映像となって流れていく。


物語の世界に浸り、現を忘れる時間が

堪らなく大好きだった。


自分を忘れられる、読書の時間。

安らぎと恍惚さえ与えてくれる

本の力を、何時しか

逃げ道にしか使わなくなっていた。


見たくないものまで

見えるようになってから。

何かで逸らさないと、

気が狂ってしまいそうで。



私は生まれつき、人の行く先が“見える”。


”読める”とも言えるその力を、

少しも素晴らしいとは思わなかった。


決まった人生。

それが覆るわけでもない。

そう決めつけて、物事を見ていた。


それを変えてくれたのは、『彼』だ。


初めて、行く先が読めない人間に出逢った。

驚きと、得も言われぬ期待感。

それを、よく憶えている。


『彼』の成長とともに、何時しか

想うようになって。

『彼』も、私の事を想ってくれて。

傍にいるだけで、嬉しくて・・・・・・

行く先の事なんて、考えなかった。

考えたくなかった。

行く先なんて、見たくなかった。


『彼』が、選んだ道。

否定できる程、私は強くなかった。



『彼』が、いなくなってから・・・・・・

本を読まずに、やってくる現実を処理して。

何事も、感じなくなっていた。


でもまた、今。


読書の時間が、至福だと

感じられるようになった。


思えば、あの人との出逢いは

本から始まっている。


あの頃から、

あの人はずっと、私の傍にいてくれて。

寄り添ってくれていた。

只々、優しく、温かく。


“感謝”という言葉だけでは、とてもじゃないが

言い表せられない。

何と言えばいいのか。



会いたい。


数日会えなかっただけなのに、長く感じた。

早く、会いたいな。


あの人も、そう思っていたらいいけど。


だと、嬉しいな。











                *











博多駅に到着した明来と舞乃空は、

改札口から構内へと出る。


早朝という事もあるが、行き交う人も少なく

殆どの店のシャッターが下りている。


「この時間に開いてるって、

 俺たちみたいに早出する人からしたら

 めっちゃ助かるよなー。」


「・・・コンビニ飯でもいいんやけど、

 せっかくだからと思って。」


「うんうん。分かるー。」



しばらく歩いていると、

“Donuts”と光るLED看板が目に入る。


「・・・・・・あれ?」


店先にいる、背筋の伸びた女性の後姿。


ベージュのランタンスリーブに、

シェルピンクのマキシ丈スカート。

白く小さなキャリーバッグが、

彼女の足元に寄り添っている。


「ゆりさん!おはようございます!」


舞乃空が手を振りながら声を掛けると、

その女性は振り返った。


「おはよう、舞乃空くん。明来くん。

 ・・・朝早くに呼び出して、ごめんなさいね。」


微笑むと、切れ長の目尻が少し下がる。

美人が表情を緩ませると、

釣られてしまうのは仕方のない事だ。

明来も表情を緩め、挨拶の言葉を飲み込み

会釈をする。


「いえいえ!俺も明来も

 電車旅、めっちゃ楽しんでます!

 えっと・・・・・・もしかして、ゆりさんもここで

 朝メシっすか?」


「ええ。手土産も買いたくて。

 一緒に食べましょう。」


まるで、ここであった事が

自然の流れのように、

彼女の言葉には淀みがない。

こうなる事を、知っていたかのようである。


女性ーゆりは明来と舞乃空を交互に見て、

くすっ、と笑う。


「会わなかった間、何か良いことあった?」


「ありました!」


逸早く、舞乃空が反応する。


「明来とっすねー、念願のち・・・・・・」


「あーっ!!」


一体、何を言おうとしているのか。

思わず声を上げてしまった。


「何もありません!

 こいつが、仕事始めたぐらいで!」


ニヤニヤする舞乃空を抑えるように、明来は

彼の前に立って言葉を被せる。


「そうなんっすー。めっちゃキツいけど、

 楽しいんっすよねー。」


そんな明来の頭の上から、彼は笑顔で言う。


二人のやり取りを、ゆりは

笑みを崩さずに見守りながら口を開いた。


「良かったわね。

 楽しいと思える仕事に就けて。」


「はいー。ぜんぶ明来のお陰っすー。」


「ふふっ。食べながら、

 聞かせてもらおうかしら。」


「ゆりさんは?何かいいことありました?」


「そうね・・・・・・

 今日を迎えられた事、かな。」


「おーっ。名言!」


ふわりと微笑んで、彼女は踵を返し

店内に入っていく。


それと共に、生じた風に乗って

微かなシトラスの香りが漂う。


洗練された、女性の佇まい。

思わず明来は、見惚れてしまった。



彼女の方こそ、

数日会わなかっただけなのに。

さらに、綺麗になっている気がする。










朝食を済ませた後、三人は

新幹線乗り場へと足を運んだ。

ホームに出ると、5脚程並んでいる

座り心地の良い椅子に其々座って、

電車が来るのを待っていた。


時折案内アナウンスが流れるくらいで、

人気は少なく、静けさの方が勝っている。

それが、とても好ましかった。

悠然と待っていられる。


舞乃空に目を向けると、彼はスマホを手に

画面を見ていた。


彼の佇まいは、同じ歳とは思えないくらい

洗練されている。

着ている服も、足の長さも、表情も、

どれを取っても格好いい。

普段ふざけている印象の方が強いけど、

こうして公然の場で改めて見ると、

非凡なのだと認識してしまう。


自分との違いしか見つからず、

只々見つめていると、彼が目を合わせてきた。

笑顔を返され、どきりとして視線を逸らす。

その流れで、ゆりの方へ目を向けた。


遠くの線路を見つめている

彼女の膝の上には、先程朝食で立ち寄った

ドーナツ屋の持ち帰り箱。

誰の手土産なのか舞乃空が聞くと、彼女は

“小さな姫君がご所望なの”、と

顔を綻ばせて答えた。

勿論誰なのか分からず首を傾げたが、

後々会う人物なのだろうと、理解した。


待ち受ける者たちが、一体何者なのか。

明来は想像もつかなかった。


彼女が家に来て、予言めいた言葉を残し、

目が覚めた時には、もう去った後で。

自分が何に侵されているのか

誰も分からない中、

“暗闇”という存在を見据えて。


多くを語らない彼女には、

自分の行く末が、数多にも広がっているのか。

そう考えると、正直怖い。


でも、不安はない。

隣にいる彼の存在が、大きいのだろう。

気づけば自分は、彼を頼っている。

だから、今日を迎えられている。

彼がいなければ、もうとっくに

自分という存在は、

“暗闇”に支配されていたのかもしれない。




思い思いに新幹線を待つ三人が座る

目の前を横切る、一人の青年。

首に掛けて、胸元で

ぶら下がっている一眼レフカメラに

目が留まる。

皆視線を、横切っていった青年の背中に向けて

見守っていると、彼はホーム全体を見回し、

歩いては立ち止まっていた。


「・・・・・・撮り鉄かなー?」


舞乃空が、ぽつりと呟く。


「・・・・・・ここで、会うなんて。」


少し驚きの色を浮かべて、ゆりは

言葉を漏らす。


「・・・知り合いなんですか?」


明来が聞くと、彼女は間を置いて

小さく頷いた。


「・・・・・・ええ。少しだけね。」



ホームに、アナウンスが流れる。



“まもなく、12番乗り場に

  東京行き新幹線が参ります。

  ご注意ください。”



それと同時に、青年はカメラを手に取る。

構えるとレンズを覗き、

ホームに新幹線の顔が現れた瞬間

シャッターを切り出す。

連射する音と、

新幹線が風を切って入ってくる音と

重なり合って、同調している。



「・・・・・・行きましょうか。」


ゆりが声を掛けて、立ち上がる。

青年を見守っていた明来と舞乃空は、

その呼び掛けで我に返った。


「少しだけ知ってるって・・・・・・

 一体誰なんっすか?」


ゆっくり立ち上がって尋ねる舞乃空に、

彼女は口を開く。


「彼は、カメラマンよ。

 画展を開く程の、有名な。」


「そうなんっすか?!」


明来も立ち上がり、新幹線を見守っている

青年の姿を見据える。


「病気で生死を彷徨っていたけど、乗り越えて

 彼は今、生きているの。」


「へぇー・・・・・・」


「とても、逞しくなったわね。」


そう言葉を紡ぐ、ゆりの表情は

とても優しくて温かい。


彼女は、青年と歳が

あまり変わらないように見える。

だが、どことなく

揺るぎない安堵感をもたらす

彼女の雰囲気は、母性に近い。



それを纏うゆりに、二人は押し黙って

目を向けていると、彼女は微笑んで言った。


「さぁ、乗りましょう。」




















今日の東京は、雲が多いものの

晴れ間が窺えて、気温も平年並みと

過ごしやすい一日を迎えていた。


新橋駅から歩いて数分の所に、

“Calando”というカフェバーがある。


アイボリー色の塗装を施した壁は

一見地味に見えるが、日が落ちて

淡い照明を灯すと、

温かく落ち着いた彩りに染まる。


扉の傍には、150㎝ほど成長した

ユーカリの鉢植えが、

客を出迎えるように佇んでいた。



「マスタぁ~。チャバタセット2つ、

 お願いしま~す。」


元気な可愛らしい声が、店内に響く。


「はいよ。」


その注文を受け、カウンターにいた店主は

厨房へと姿を消した。



オフィス街が近い為、平日は

会社員と思われるスーツ姿の客が殆どだが、

ゴールデンウイークという祝日の為、

カップルやシニア層など様々だった。


“オフィス街の隠れ家”として有名になった

この店は、客足が絶えることはなかった。


店の奥にあるステージには、

漆黒の光沢を放つ、グランドピアノ。

スポットライトに照らされ、

大きな存在感を放っているが

奏者はおらず、蓋は閉まっていた。



「すみません。」


とある皺を刻んだ夫婦がいる

テーブル席から、声が上がる。


「は~い。」


女性店員は、大学生バイトの一人である。

普段は講義が終わった後の出勤なので

夜の時間に勤務しているが、祝日の為

人手がいるとの事で臨時出勤していた。


オレンジ色に近い髪を後方で2つに纏め、

マツエクが施された目は、瞬くと

バサバサと仰がれる扇子のようだ。

ショートパンツから伸びる

すらりとした足は、眩しい程に白い。


「今日も晴ちゃん、来ないの?」


「そうですねぇ。最近忙しいみたいなので~。

 申し訳ありませ~ん。」


彼女は申し訳なさそうに、ぺこりと

頭を下げる。


「おとうさん。困らせては駄目ですよ。

 晴ちゃんは有名人なんですから。」


「でもねぇ。晴ちゃんのピアノ、この店で

 聴きたいんだよねぇ。」


「ですよね~!分かります~!」


「お嬢さんは、ピアノ弾けるの?」


「自分ですか~?ムリです~。

 でもぉ、ドラムなら得意です~。」


「ほおぉ、ドラム叩けるの?凄いなぁ。」


「あはは。凄くないですよ~。

 練習地味だし~、セットにこだわると

 果てしないっていうか~、

 やれる場所も限られるから~、

 ちょっとしまったなぁって思うんです~。

 他の楽器しとけばよかったなぁって~。」


「いやいや、ドラム叩けるのは格好いいよ!

 店内に置けばいいのに。

 マスターにお願いしたらどうだい?」


「そうそう。晴ちゃんと、あなたと、

 あと他の楽器が出来る人がいれば、

 ここでライブできて、楽しそうよねぇ。」


「いいですね~!楽しそう!」


日葵ひまりちゃーん。

 持っていってー。」


店主から、声が掛かる。

女性店員―日葵は夫婦客にお辞儀をすると、

カウンター内に戻っていく。

チャバタとミネストローネ、そして

ルッコラと生ハムのサラダが乗ったトレーを

其々両手に持ち、夫婦客の元へ運んだ。


「お待たせしましたぁ~!

 超絶美味のチャバタセットで~す!」


「ありがとう。」


元気いっぱいで浮かべる彼女の笑顔に、

夫婦も釣られて笑顔になった。


丁寧にお辞儀をした後、日葵は再び

店主のいるカウンター内へ歩いていく。


「マスタぁ~。いきなりなんですけど~。

 お店にドラム置く予定って、あります~?」


「ははっ。聞こえてたよ。

 そうだね。考えているところだよ。」


「えっ。ガチですか~??」


「元々この店は、ライブできるように

 防音も考えて建てたんだよ。

 ・・・今までは、あのピアノを置くのが

 やっとだったけどね。」


「うわぁ~!ヤバッ!

 そうなったら嬉しいです~!」


「でもね、ロックで叩いちゃうと・・・・・・

 お客さんビックリするからね。」


「あははっ、分かってますぅ~。

 秘密にしてましたけど~、

 ジャズのお勉強してるんですよ~。」


「へぇ。それは良いこと聞いたなぁ。」


「いつか晴さんと、

 セッションできるといいな~。」


そう言って笑う彼女は、とても明るい。


「そうだ、日葵ちゃん。今日12時に

 予約が入ったからね。

 奥のテーブル席準備しといて。」


「奥のテーブル席ですか~?晴さん用に、

 いつも空けてるテーブル席ですよね~?」


「日葵ちゃんは会うの、初めてかな。

 晴ちゃんとも親交ある人だよ。」


「ええ~っ!楽しみ~!!」


「今日は珍しく、4人で来ると

 仰ってたから・・・・・・僕も楽しみだよ。」


「了解です!準備しますね~!」


鼻歌を歌いながらホールに向かう彼女を、

店主は温かく見送る。

そして、淡く光るグランドピアノに

目を向けた。



この店は、繁盛するようになった。

とある女性が、この店で働く事になって

ピアノを弾くようになってから。


彼女のピアノを求めて、やってくる客は

後を絶たない。

今日予約を入れてくれたお客様は、

彼女をバックアップしている。

自分も、学生バイトの日葵も、

彼女のファンだ。


最近は多忙なのか、姿を見せていない。



―最高のまかないと、お酒を準備して

 待っているよ。晴ちゃん。


 だからまた、ふらっと。遊びにおいで。
















新幹線が東京駅に着いた11時頃には

雲一つない快晴まで天気が回復し、

駅構内の人出は最高潮に達していた。


ホームから出て構内を通り、

外に出るだけでも、人波に酔って

気疲れしてしまった。


「あー。帰ってきたーってカンジ。」


ぽろっと漏らす舞乃空は、決して

嬉しそうではない。


東京駅丸の内側から出て直ぐの

路上パーキングに、

迎えの車が来ているらしい。


「時間に合わせて、

 停めてあると思うけど・・・・・・」


その車が見つからないのか、ゆりは歩きながら

停まっている車に視線を送る。

そして、とある車の横で

動きを止めた。


「・・・・・・?ゆりさん?」


目を見張らせてフリーズしている彼女に、

明来は声を掛ける。


「・・・えっ、何で・・・・・・」


「どうしたんっすかー?」


舞乃空も不思議に思い、尋ねた。


ゆりの頬が、紅潮しているように見える。

明来と舞乃空は顔を見合わせて、

首を傾げながらも

彼女が視線を向けている車を見た。


その車は、高級車である。

降り注ぐ太陽の光に反射して、

コバルトブルーのボディが輝いている。

運転席側から、

スーツ姿の男性が降りてきた。


「こんにちは。」


「・・・あ!どーも!」


その男性を見るなり、舞乃空は

笑顔で声を上げてお辞儀をする。

見知らぬ人物に、明来は

戸惑いを隠せない。


「明来、この人だよ。あの時、車で

 俺たちを家に送ってくれた紳士。」


「ははっ。初めまして、というべきだろうね。

 僕は、蔵野 恵吾。

 君の名前は、舞乃空君から聞いているよ。」


返す言葉が見つからず、明来は

会釈をすることしか出来なかった。


浮かべる微笑みに、人柄が出ている。


「お迎えって、

 蔵野さんの事だったんっすねー。

 優しいっすねー!」


舞乃空が放った言葉に、蔵野は

小さく息を漏らして笑う。


「荷物を、トランクへどうぞ。」


トランクを開ける動作だけでも、

優雅で上品に見える。


二人が言われるままにリュックを

トランクへ入れる中、

ゆりは背筋を伸ばして蔵野の横に立つと、

会釈をして言葉を掛けた。


「・・・・・・『ことり』さんは、別の所へ?」


彼の眼差しは、限りなく優しい。


「急遽、仕事が入ってね。」


「・・・直々に、いらっしゃるなんて・・・・・・」


「駄目だったかな?」


「い、いえ・・・・・・

 駄目だ、なんて・・・・・・」


“心の準備が、間に合わなくて・・・・・・”


そんな、彼女の声が

聞こえてくるような気がする。


舞乃空は、ニヤニヤしながら

ゆりに言葉を掛けた。


「ゆりさんっ。そこは、

 “迎えに来てくれて嬉しい!”、で

 いいと思うんっすけどー。」


「えっ。あ・・・その・・・・・・」


もじもじする彼女に、明来は

微笑まずにはいられなかった。


―ゆりさんって・・・・・・

 こういうの、本当に弱いんやな。


蔵野は、ゆりと目を合わせながら、

彼女が手にしている

キャリーバッグのハンドルを、ゆっくり掴む。


ゆりは思わず、ハンドルから

ぱっと手を離した。


彼は微笑み、ハンドルを縮めて

キャリーバッグを持ち抱えると、

トランクに入れる。


「会いたかったよ。」


さらりと流れるように紡がれ、

笑みが零れる。


ゆりは、この上なく

顔を赤らめて、微笑んだ。


「・・・・・・はい。私も、です。」



二人のやり取りを、笑顔で見守る舞乃空。

明来も、良い雰囲気の二人に

笑みを浮かべた。


蔵野は、明来と舞乃空に目を向ける。


「君たちは後部座席へ。みんなで食事しよう。

 とても美味しくて、良い店があるんだ。」


“良い店”に、ぴんときた舞乃空は

嬉しそうに笑って言う。


「もしかして、“Calando”ですか?」


「ああ。よくご存じだ。

 もう予約してあるからね。」


「やった!一回だけ行った事あります!

 また行きたいと思ってました!」


「ははっ。僕も行きたくてね。

 ・・・店に着くまで、ごゆるりと。」


「はーい!」


舞乃空は躊躇いなく、

後部座席側のドアを開けて乗り込む。


この人は先程から

執事のような振る舞いなのだが、

どことなく優雅で気品を感じる。


舞乃空が言っていた人物像と

蔵野を取り巻く雰囲気に納得しながら、

明来も後部座席に乗り込む。


味わったことがない、座り心地の良さ。

家のリビングにあるソファーも

負けていないが、手触りが上品だ。


「・・・実は、私も行こうと思っていました。

 予約は、していませんでしたが。」


「それは良かった。

 ・・・マスターは、驚くだろうね。

 僕たちが知り合いだって事は、

 知らないはずだから。」


「ふふっ。きっと、そうですね。」


ゆりは、助手席側のドアを開けて乗り込む。

それを見届けた後、蔵野は

トランクを閉めて運転席へ乗り込んだ。


「美味しい食事を堪能して、

 『家』に向かうよ。・・・何事も、

 腹を満たさないと動けないからね。」


「そうっすよねー!」


エンジン始動の機嫌良さと、

弾むような舞乃空の声が重なる。



旅は、始まったばかりだ。


こんな楽しい幕開けなら、

乗り越えられそうな気がする。


こんなにも、笑顔になれて、

温かく、いられるなら。




















“Calando”の扉が開く。



「いらっしゃいませ。」


カウンターから、声が掛かる。


蔵野のすぐ後ろから入ってくる

ゆりの姿を見て、店主は目を見開いた。


「・・・・・・もしかして、ゆりちゃん?」


「・・・はい。ご無沙汰しています。」


丁寧にお辞儀をする彼女に、

思わず顔を綻ばせる。


「びっくりしたよ。とても綺麗になったね。」


「・・・・・・ここに来られて嬉しいです。

 また、マスターの料理が食べられるなんて

 夢みたいです。」


「ははっ。嬉しいなぁ。

 そんな風に言われると、照れるよ。」


そして蔵野とゆりの姿を

交互に見て、微笑んだ。


「まさか、お二人が面識あるなんて・・・・・・

 思いもしませんでしたよ。」


「サプライズ成功かな?」


「はい。お見事です。

 ・・・さぁ、奥のテーブルへどうぞ。」


「いらっしゃいませ~!」


奥で控えていた日葵が、

元気よく笑顔で声を上げた。


二人が歩く後ろから

舞乃空と明来が現れると、店主は

再び目を見開く。



背の高い少年は、見たことがある。

一回来店しているが、確か・・・・・・

もう一人の少年は、初対面だ。

一体この二人と、どんな関係なのか。



「また来れて嬉しいなーっ!」


嬉しそうに店内を見回す舞乃空の後ろから、

明来は緊張気味で静かに付いていく。


店内は、ほぼ満席で賑わっている。

落ち着いた内装で、ステージに鎮座する

グランドピアノの存在感。

こんなお洒落な店に入るのは、初めてだった。


「・・・・・・カフェ?バー?」


小声で舞乃空に尋ねると、

彼は満面の笑みを浮かべて答える。


「どっちも、だよー。」



グランドピアノのすぐ傍にあるテーブル席に、

蔵野とゆり、明来と舞乃空で

向かい合って座った。


「お水、すぐご用意しますね~。」


日葵はテキパキと

グラス4つにレモン水を注いで、

テーブルに置いていく。


テーブルに予め用意されていた

袋入りのおしぼりを、各自開けて手を拭いた。

A5サイズの手作りメニュー表も、

其々の場所に置かれている。


「皆食べたいものを、好きなだけどうぞ。」


蔵野の言葉に、舞乃空は即座に頭を下げた。


「ゴチになります!」


「おいっ。」


慌てて明来が窘めるが、彼は

優雅な笑顔で頷く。


「そのつもりだよ。」


「いや、でも・・・・・・」


ちらちらと、手元のメニュー表に

視線を配らせて、戸惑う。


―食べ放題とかじゃないのに。しかも4人分

 奢るってなったら・・・・・・

 一体、どのくらいになるん?


「お言葉に甘えよーっ!」


「そうしてくれると嬉しいね。」


「明来くん。ここの料理、すごく美味しいの。

 心行くまで食べた方がいいわ。」


ゆりの言葉に、明来は驚かざるを得ない。


―ゆ、ゆりさん・・・・・・?

 もしかして、この人が奢るの、普通なん?


「チャバタセットがいいなぁ・・・・・・」


「いいっすねー!

 俺も食べたかったんっすよ!」


「僕も、チャバタセットにしようかな。」


「とても絶品だそうですよ。」


「決まりだね。」



3人が和気藹々と話す中、明来は

その輪に入れず、じっと

メニュー表を見つめた。


―・・・・・・ミートソースとか、

 ここに来てまで頼むのは

 もったいないよな・・・・・・

 みんなが言っとる、チャバタって何?

 ・・・この、日替わりパスタって・・・・・・


「店員さーん。今日の日替わりパスタって、

 なんっすかー?」


知りたい事を、偶然にも

舞乃空が聞いてくれた。


近くに待機していた日葵は、

とことこやってくると笑顔で応える。


「春キャベツと自家製ベーコンの

 バジルパスタでーす!」


「やばっ、うまそっ!」


「春キャベツは時期的に、今日までですね~。

 おすすめですよ~。」


「うわーっ、迷うーっ!」


「あははっ。いっぱい迷ってくださ~い!」


分かりやすく頭を抱えている彼に、

日葵は笑いながら去っていった。


明来は舞乃空に対し、羨望の眼差しを送る。


―・・・・・・こいつのコミュ力、

 少し分けてもらいたい。


「パスタも、チャバタセットも

 頼むといいよ。」


「えっ、いいんっすか?」


「確かに、迷うわね・・・・・・」


「それなら、パスタは僕とシェアしよう。」


「・・・いいんですか?」


「僕も食べたいからね。」


何気に、二人の距離が近い。

一緒にメニューを決める蔵野とゆりの

仲睦まじい光景を、明来は

メニュー表越しに眺める。


「明来ー!何にするか決めたー?」


楽しそうに聞いてくる舞乃空に

ちらっと目を向けた後、ぼそっと答える。


「・・・・・・決めきれん。」


「はははっ。

 チャバタは絶対、食べた方がいい。

 ここの名物って言ってもいいかも。

 朝の時間限定でさー、前に来た時

 食べれなかったんだー。

 ・・・チャバタっていうのは、パンみたいなやつ。

 ここのパスタを

 食ったことがあるんだけどさー。

 もー、ちょーうま。食った方がいいぞー。」


自分の一言で、彼は悟ったのか

説明を交えて教えてくれた。

それに感謝しつつ、明来は告げる。


「・・・・・・お前と、同じやつにする。」


「よしっ。決まりー!」



意見が纏まりつつある

4人の様子を窺い、日葵は

にこにこしながら声を掛けてきた。


「お決まりですか~?」


代表して、蔵野が口を開く。


「チャバタセット4つと、

 日替わりパスタ3つで。あと、

 マスターおすすめのフレッシュジュースを、

 4つお願いします。」


「はい!

 ご注文の確認をさせていただきま~す。

 チャバタセット4つと、

 日替わりパスタ3つ。

 マスターおすすめのフレッシュジュース

 4つですね~!

 それでは、しばらくお待ちくださ~い!」


オーダー票を書き留め、日葵は

皆のメニュー表を回収し、

ぺこりと頭を下げて去っていく。


それを見送りながら、ゆりは小さく笑った。


「・・・あの子、明るいですね。」


蔵野も、微笑ましく見送っている。


「そうだね。初めて会ったよ。」


舞乃空は、二人に目を向けて笑う。


「蔵野さんも、ゆりさんも

 マスターと知り合いなんっすね。」


「・・・ああ。経路は違うけどね。」


「俺は一回だけ、夜に来たことがあって・・・・・・

 奇跡的に、“HARU”のピアノを

 聴くことが出来たんっすよ。」


「・・・・・・“HARU”って・・・・・・

 もしかして、あの?」


その名前は、明来でも聞いたことがある。



《“ジャズ”と一括りしてしまうには、

 彼女を語れない。

 自由な旋律が舞い降りて、

 先人たちの血と涙に息吹を与えていく。》



そんな見出しの雑誌を

目にしたことがあって、気になり

デバイス越しで一度だけ

聴いてみた事があった。


綺麗で、繊細で。

心地よくて、そのまま眠りについた。

次の日の目覚めは、

とても良かった気がする。


見出しの意味を理解するには、まだ

自分の経験値では、足りないのかもしれない。


生音で聴くと、また違うのだろうか。



「いやーっ、ヤバかった。感動しちゃって。

 大泣きしちまいました。

 チャンスがあれば、また生で

 聴きたいんっすよねー。」


恍惚の表情を浮かべながら話す舞乃空に、

蔵野とゆりは顔を見合わせる。


微笑みを交わした後、彼に視線を移して

ゆりが言葉を漏らした。


「・・・・・・聴けるかもしれないわね。」


「・・・えっ?」


「恐らく、近いうちに。」


「失礼しま~す!お先に、

 マスターおすすめの

 フレッシュジュースで~す!」


いつの間にかやってきた日葵が、

其々の目の前に

グラスに入ったオレンジジュースを

置いていく。


それを見て、ゆりは顔を輝かせた。


「ここのオレンジジュース、

 とても美味しいの。ふふっ。

 マスターに感謝しなきゃ。」


彼女は嬉しそうに、グラスを手に取る。


話の途中で気になったが、明来と舞乃空は

同じようにグラスを手に取った。


ゆりの様子に、蔵野は表情を緩ませて

グラスに手を伸ばす。

そして、肩の位置まで持ち上げた。


「それでは、今日という日に。」


「かんぱーいっ!」


「・・・乾杯って・・・・・・」


―何に?


「ふふっ。乾杯。」


正直何に乾杯なのか、疑問に思いつつ

明来は皆と同じように

グラスを前に伸ばす。

そのままの流れで口へ運び、含んだ。


「・・・!」


「うんま!」


「美味しいっ。」


「うん。美味いね。」


今まで飲んできたオレンジジュースとは、

比較にならない。


程よく冷たく、小さく残った果肉の粒を

感じられるのが、とてもいい。

でもそれが喉を通るのに

邪魔にはならず、滑らかで気持ちがいい。


どうしてこんなに、美味しいのか。


一気に飲んでしまいそうなので、抑えて

少しずつ飲んでいく。

皆も、その美味さに感想を述べながら、

この店の事について語り合っている。


しばらくすると、

チャバタセットが運ばれてきた。

4セットなので、日葵が二回に分けて

両手にトレーを持ち、テーブルに置く。


ルッコラと生ハムサラダの

お洒落な盛り付けに目を奪われ、

具沢山のミネストローネに喉を鳴らし、

綺麗に焼けたチャバタの、香ばしい匂いに

がっつきそうになるのを抑え、

手を合わせて

“いただきます”と唱えた。


隣の舞乃空も、同じ気持ちだったに違いない。

その後、勢いよく食事を進めていく。


そんな自分たちを、蔵野は

上品にチャバタをちぎり、口に運びながら

微笑ましく見守っている。


ゆりも二人を優しく見守りながら、

生ハムサラダを堪能している。



―ヤバい。ばりうまい。

 チャバタ、最高。うますぎる。


 なんだこの、ミネストローネ。

 レシピ、教えてもらいたい。作りたい。

 毎日食べたい。

 でも、この味にはならんやろうなぁ。


 この、ルッコラと生ハムサラダ。

 えっ。ただのサラダなんよね?

 何でこんなに、美味しいと?

 あっ、ドレッシング?

 それがうまいとかいな。

 どこで買えるんやろう。

 ・・・手作り、かな。そうやろうなぁ。



あっという間に、平らげた。

舞乃空も、食べ終わっている。


「ほらー。足りねーだろ?」


なぜか勝ち誇った笑みを浮かべる彼に、

明来は思わず笑う。


「うん。足りんね。」


パスタはまだか。

二人は、そんな具合で

カウンターへ目を向ける。


すると、丁度厨房から店主が現れて

パスタの乗った皿を手に持って

出てきたところだった。


自分たちのかな。だといいな。

そんな眼差しを送る。


「もう食べたの?すごい。」


ころころと、ゆりは笑っている。

そんな彼女の笑顔と、二人の様子に

蔵野も顔を綻ばせていた。


和やかな雰囲気の大人たちは、まだ

チャバタセットを食べきれていない。

そんなに、落ち着いて食べ進める

レベルじゃないのに。



笑顔の日葵と共に運ばれてきた、

春キャベツと自家製ベーコンの

バジルパスタ。


これが、衝撃だった。

恐らく、今まで生きてきた人生の中で、

一番美味いパスタだ。


「うまーいっ!やばっ。

 これ、5皿くらい、いけるかも。」


―俺も。


言葉を出すのが惜しい。

ずっと、口の中に入れておきたい。


「頼むかい?」


笑いながら、蔵野が聞いてくる。

それは流石に舞乃空も、慌てて首を振った。


「い、いえいえ!例えただけっすよー!

 流石に、量をがっつくのは

 逆に、申し訳ないっす!

 美味しい口のままで、

 終わりたいっていうか・・・・・・」


うんうん。

明来は、同意するように頷く。


「ははっ。後で、マスターに伝えよう。

 かなり喜ぶと思うよ。」


「そうっすね!お礼言いたいです!

 おすすめしてくれた、店員さんにも!」


「ふふっ。そうね。」



和やかな、ひととき。


会ったばかりで、

ろくに言葉も交わしていない間柄でも、

集う場と極上の食事があれば、

至福の一時になるのか。


それを、味わえた時間だった。



蔵野という人は、

彼女と自分たちの為に、

この場を用意してくれたのだと思う。


身も心も準備して、

“暗闇”と立ち向かう為に。


















“Calando”を出た後、蔵野の車は皆を乗せて

機嫌よく発進していく。


「・・・えっと、これから向かう

 『家』っていうのは・・・・・・

 どこにあるんですか?」


舞乃空が、話を切り出す。

それは、ずっと気になっていた話題だ。


間を置いて、蔵野は言葉を紡ぐ。


「・・・・・・これから向かう場所、

 出会う者たち、出来事、それを

 君たちが他言しないと

 誓えるかどうか・・・・・・

 まず、聞かせてもらおう。」


落ち着いたトーンの声音が、車内に響く。

ゆりは、黙ったままだ。


「勿論です。それが、

 明来を助けることに繋がるなら。」


真面目な表情で告げる彼の横顔を、

明来は見据える。


「・・・・・・明来君は、どうかな。」


「・・・・・・」


この人たちは。

自分を、本当の意味で

助けようとしてくれている。


上辺だけではなく。心の底から。


「・・・・・・はい。

 自分の為に、なぜここまでお二人が

 親切にしてくださるのか、

 見極めたいと思います。」


明来が紡いだ言葉の後、二人はしばらく

何も口を開かなかった。


蔵野は、カーオーディオに電源を入れる。


すると、すぐに綺麗なピアノの音色が

重苦しい車内の空気を、

少しだけ軽くしてくれた。


自由な旋律。

“HARU”のピアノだ。


「親切・・・という言葉は適切じゃない。

 実は、僕たちにも関わる事だ。」


「・・・・・・それは、

 ゆりさんから聞いています。」


「君のご両親が所属していた

 財団の事は、知っているかい?」


「・・・・・・はい。どうしても気になって。

 調べて、知りました。

 何で、両親は死んでしまったのか・・・・・・

 自殺として処理されているけど、

 ずっと、納得いかなくて。」


「納得が、いかないというのは?

 ・・・・・・警察は、徹底的に

 調べているはずだが。」


「・・・・・・」


少なからず。

自分の前では、思い詰めた様子とか、

何かに追われているとか、

そんな素振りはなかった。


「・・・・・・自殺、じゃなくて、

 事故、だとしたら・・・って・・・・・・

 でも、言われる通りです。

 何の、証拠もありません。」


次に言おうとしている事は、

口にするのも恐ろしいが、

話すべきだと思った。


「ただ、引っ掛かるのは・・・・・・

 両親が死んだ日の事を、

 俺は、憶えていなくて・・・・・・」


「・・・・・・明来。」


震えている手を、舞乃空が握ってくれた。

彼の温かさが、奮い立たせてくれる。


「その憶えていない時間の事を

 思い出せたら、何か分かるかもしれない。

 そう考えているんですけど・・・・・・

 どうしても、思い出せません。」


―自分が思い出す事で、事実が分かるなら。

 どんな辛いことが起ころうとも。

 ・・・・・・その方が、いい。



蔵野とゆりは前方を向いたまま、

静かに聞いている。


「蔵野さんたちと関わる事って、

 何ですか?・・・財団とは、

 どういう関係なんですか?

 ・・・・・・敵対していた、とか。」


―この二人には、自分たちに分からない事が

 見えているのだとしたら。

 知っておきたい。



繊細なピアノの音色と共に、

穏やかな声音が耳に届く。


「・・・・・・敵対、というより

 追跡しているんだよ。“暗闇”の根源を。」



舞乃空が、すぐ傍で

寄り添ってくれている。


“暗闇”と聞いても、

手から伝わる彼の温もりが包んでくれて、

怖いとは思わなかった。



「僕たちの『家』には、

 “それ”を研究する施設がある。

 そして、“それ”に被害を受けた者たちもいる。

 ・・・君は、“それ”と繋がっているが、

 個として意識を保っている。前例がない。

 それが可能なのは、なぜなのか。

 ・・・・・・これ以上、

 深い悲しみを生み出したくはない。

 故に、知る必要があるんだ。」


「・・・・・・全ては・・・・・・」


ぽつりと、ゆりが呟く。


「“暗闇”から、始まっているのよ。」



明来は、ふと車窓に目を向ける。

すると、都会には似つかわしくないものが

視界に飛び込んできた。


樹木の、深い緑に覆われた樹海。

それを堰き止めるように、

薄汚れたコンクリートの壁が覆っている。


「舞乃空君。東京に住んでいた君なら、

 “特区”の事は知っているね。」


その単語を聞いて、舞乃空は頷く。


「樹海を、壁で取り囲んである所っすよね?」


「ああ。国の所有地だ。」


「・・・めっちゃ怪しい所っすよね。

 噂が色々ありすぎて、怖くて

 誰も触れないっすよ。

 ・・・・・・そこが・・・・・・

 えっ。まさか・・・・・・」


「僕たちの『家』は、そこに在るんだよ。」


その発言に、驚かざるを得ない。


「い、いや、でも、今言った通り・・・・・・

 国の所有地で、立入禁止になっているから

 普通じゃ入れない所っすよ・・・ね?」


「・・・・・・『家』の者なら、門は開く。」



車は、大きな鉄の門の前で停止する。

固く閉じられ、決して開く様子は窺えない。


周りには、誰もいない。

警備員らしき姿も、見当たらない。

カメラで、監視されているのだろうか。

そう思って目を凝らすが、

それらしきものは見当たらない。



「ここからは、徒歩になるよ。

 ・・・・・・車から出ようか。」


エンジンが停止すると同時に、

ピアノの音色も止まる。

訪れた静けさの中、乗っていた皆は

ドアを開けて外に出た。


涼しい風が、吹き抜ける。


日は傾いているが、まだ時刻は夕方前で

樹木に光が差し込んでいる。

普通に見れば安らぐのだが、

壁のコンクリートの無機質さが

近寄り難さと寂寥感を生み出していた。



「・・・・・・蔵野さんって、

 一体何者なんっすか?」


開いたトランクの中から

リュックを取り出し、舞乃空が尋ねる。

それに、彼は穏やかに答えた。


「・・・僕は、『管理人』と呼ばれる者だ。」


「・・・・・・『管理人』・・・・・・?」


ショルダーリュックを肩に掛けて、明来は

その単語を紡ぐ。


「『家』を総括する者。

 皆の、『心』を預かっている。」


蔵野はキャリーバッグを取り出して

ハンドルを伸ばすと、ゆりに手渡した。


彼女のもう片方の手には、

見慣れたドーナツ屋の持ち帰り箱がある。

それを目にすると、

少しだけ安堵感を覚えた。


彼はトランクを閉めると、車の鍵を取らずに

門へ向かって歩き出す。


「蔵野さんっ。鍵、さしっぱなっすよ。

 掛けなくていいんですか?」


それに気づいて、舞乃空が呼び止める。

彼は、少し頬を緩ませて告げた。


「大丈夫だよ。すぐに、『家』の者が

 所有のガレージに届けてくれる。」


言われている事に、ぴんとこない。

周りには、人影もカメラも

見当たらないのだが。


明来と舞乃空は疑問だらけのまま、

門の前に立つ蔵野とゆりの後を追う。



門は、固く閉じられている。


仕組みは詳しくないが、閂も鍵穴も

見当たらないのは異様だ。

一体、どうやって開けるのか。


蔵野は、すっ、と手を伸ばし、門に触れた。


すると、

ぎいぃぃぃ・・・・・・と、

古びた重々しい音を立てて、開いていく。


二人は只々呆然と、その光景を眺める。


門の向こう側に見えるのは、

青々と茂っている草原と

自分たちを迎えるように並ぶ、

樹海の木々たち。


一瞬、ここがどこなのか、理解不能に陥る。


「・・・・・・すげぇ・・・・・・」


隣から、感嘆の声が耳に入った。

自分も、大いに同感だ。


「万が一この門を突破されたとしても、

 『家』へ向かう道を知っていなければ、

 樹海の餌食になる。

 ここには、我々も認知していない生物が

 存在するからね。」


餌食。

未知の、生物。


聞いて、身震いした。

ゲームの世界で言う、

モンスターみたいなものだろうか。


皆が門をくぐり抜けると、

独りで音を立てて、

ゆっくり閉じていく。


この門は、生きているのかもしれない。

そう考えるしか、出来なかった。



「・・・『家』へ、向かう道って・・・・・・?」


道らしき道は、ない。


「・・・・・・ここだよ。」


立ち止まった蔵野は、

目の前に広がる草原を指差す。


先程から何もかも、理解が追い付かない。


「・・・・・・ただいま、『烏』。

 開けてくれないか。」


彼が紡いだ心地好い低音の言霊は、

草原に吹き抜ける風に乗って響き渡った。


草原から、地鳴りがする。

いや、そうではなく、開く音だ。


少しずつ地面が割れ、

ぱっくり割れた裂け目から、

地下へ続く階段が見える。


またしても、非現実的な光景。

恐怖を通り越して、妙な期待感が

湧いてくる始末だった。


「ゲームじゃん。」


自分と同じ感想を述べて、舞乃空は

笑わずにはいられない様子だ。


「さぁ、行こうか。」


こうなればもう、付いていくしかない。




階段を下りると、

決して明るくない照度の灯りが

等間隔に置かれた地下通路が現れた。


行く先が見えない程真っ直ぐ伸びた

その通路を、ゆりが先導するように

蔵野の前を歩いている。

明来と舞乃空は、その二人の後を

少し間隔を空けて付いていく。


壁はコンクリートで固められていて、

ひんやりするのと、

じめっとするのと、

何とも言えない空間である。



「・・・・・・これで、

 モンスターとか出てきたらさー・・・・・・

 ゆりさんが、やっつけんのかなー。」


ひそひそと、耳打ちしてくる舞乃空。


「・・・・・・あの人が、魔法使うかもしれん。」


明来も彼の話に乗り、抑えめの声で

言葉を返す。

抑えると、掠れた声が

さらにウィスパーになる。


「さっき蔵野さんが言ってた『烏』って、

 もしかして、妖精だったりしてー。

 妖精って、見えないんだろ?」


「それを言うなら、精霊やないと?

 見えんかったってことは、多分。」


「マジかっ。」


―冗談抜きで、そんな世界観かも。


「・・・・・・俺たち、無事に帰れるとかいな。」


「・・・・・・だ、大丈夫じゃね?」


“大丈夫”、という言葉が

こんなにも頼りないと思ったのは、

今までにない。



明来は、前を歩く二人の背中に

視線を向ける。

彼らは、ずっと無言のままだ。

会話をする様子がない。


“Calando”にいた時は、距離が近くて

良い雰囲気だったのに。

今は、ゆりが蔵野の前を守るように歩き、

距離を保っている。


彼女が引くキャリーバッグのガラガラ音と、

持っているドーナツの持ち帰り箱が、

この通路の雰囲気とアンバランスだ。

そのお陰なのか分からないが、

薄暗くて不気味すら思える

空間なのだが、不思議と恐怖はない。

先程から起こっている、

非日常的すぎる出来事のせいでもあるのか。


―・・・・・・戦うとかになったら、

 どうなるんやろう。

 キャリーバッグ、武器にするとかいな。

 舞乃空は見ているから

 分かるやろうけど・・・・・・今でも、

 ゆりさんが戦える人だとは思えん。

 やっぱり、蔵野さんが魔法使うとか。

 ・・・・・・


そんな、奇妙な想像を浮かべる始末だ。

同じ思いなのか、舞乃空も押し黙って

横を歩いている。



しばらく歩いていると、前方から

光が漏れている箇所が見えてきた。

皆がそこに辿り着く前に、

今度は自然と天井が開いて

はっきり見えなかった階段が現れる。


上った先は、天国なのか。


階段を上り、地下から地上へ出ていくと

青空に浮かぶ太陽の光が、降り注いだ。

あまりの眩しさに、目を細める。

歩いてきたせいもあるが、

急に暑さを感じ、じわりと汗をかく。

今日の気候は、初夏である事を

思い出させた。



白くぼやけた視界が

はっきりすると、門の前に広がっていた草原と

同じような光景が映る。

ただ違うのは、少し離れた場所に

白亜の建物が窺えたことだ。

施設のようだが、明来には

その一角が城塞のように見えた。


ここに入った時から、全てが

非現実的である。



草原を歩いていき、建物の近くまで行くと

再び、固く閉ざされた

大きな鉄の門が見えてくる。

そしてその傍らに、小さな影が佇んでいた。


陽の光に反射する、

黒々しいセミロングの髪。

黒真珠のような、大きな双眸。

可愛らしい顔立ちとは似つかわしくない

苛立ちが、その非凡な少女から漂っている。


「遅かったではないか!待ちくたびれたぞ!」


蔵野に向かって悪態をつく

その少女は、失礼かもしれないが

非常に愛くるしい。


大きな、大人用のパーカー。

腹の辺りに、血のソースが掛かった

入れ歯が描かれている。

覗かせる細い足と大きめのスニーカーが、

背伸びしている子どもに見えて仕方がない。


「すまない。食事を済ませてきた。」


苛立ちをぶつける彼女を宥めるように、

彼は至って穏やかな口調で言うと、

優雅に微笑む。


それが却って、少女をヒートアップさせた。


「何を悠長に!儂は、

 腹を空かせて待っているというに!」



―・・・・・・“わし”?



舞乃空と、目が合った。

笑ってはいけないと思うが、

彼女は、時代劇の観すぎではないだろうか。


「申し訳ありません、『烏』さま。

 ご所望の品を、献上参りました。」


ゆりは、にっこり微笑むと

少女―『烏』にドーナツの持ち帰り箱を

恭しく差し出す。


少女の劇に、あえて乗るのか。


明来と舞乃空は、興味津々で

行方を見守る。


目の前に差し出された

ドーナツの持ち帰り箱を見るなり、

『烏』は目を輝かせた。


「おお!あれか!手土産ご苦労!

 流石は『小百合』だ!

 ふんっ、お主とは違うなっ。」


蔵野に向かって鼻息を漏らし、

歓喜溢れんばかりに、それを受け取る。


箱を開け、中で並ぶドーナツを

輝かんばかりの笑顔で眺めた後、

『烏』は折れたパーカーの袖の上から

ドーナツを一つ掴み、大きな口を開けて

かぶりついた。



―・・・・・・『烏』って、もしかして・・・・・・

 蔵野さんが呼び掛けとった、あの?

 ・・・・・・どう見ても、人間の子どもやん。

 ・・・妖精に、見えなくもないけど。


妖精級の、可愛らしさ。

出で立ちがハイセンスすぎて、

受け入れ難いが。

ドーナツを頬張る姿は、人間そのものだ。


「・・・・・・はははっ。何だ、あいつ。

 ちょーめんどくせー。」


「・・・・・・えっ?」


舞乃空が、ぼそっと漏らした言葉に

明来は目を丸くする。


彼女は地獄耳なのか、

その声を聞き逃さなかった。


咀嚼を終え、飲み込むと

じろっと、大きな瞳を向ける。


「・・・・・・初顔の小童だな。何者だ?

 無礼な上に、無駄に背が高いぞ。」


ゆりは、すかさず告げた。


「彼は、事前に話を差し上げていた

 少年の友人です。」


「・・・・・・」


『烏』はドーナツの持ち帰り箱を

ゆりに返すと、無造作に袖を払って

舞乃空の前に歩いていく。


身長差が、半端ない。


かなり見上げる形をとって

睨みつける彼女を、彼は不敵にも

見下ろして笑っている。


「・・・・・・無礼者が。跪け。」


「んー。何だろ。この違和感。」


「首が痛いぞ。二度は言わん。」


何か、ぴんときたのか

舞乃空は驚いた表情に変わる。


「・・・・・・まさか、ガチで

 お姫さまなんじゃね?」


その発言に、蔵野とゆりは目を見開いた。


彼女の、大きな瞳に漂う波が

大きく揺れる。


「・・・たっ、戯けたことを言うな、小童。」


「・・・・・・うん。やっぱそうだー。

 すんません。失礼しました。」


何を思ったのか、彼は

背負っていたリュックを下ろして

折った両膝と共に地面に付けると、

胸に手を当てて会釈をする。


「これで、満足でしょうか。お姫さま。」


浮かべる微笑みは、爽やかだ。


「や、やめろ!もういい!立て!」


『烏』は動揺しつつ、ふんっ、と

そっぽを向いた。

矛先は、蔵野へ向けられる。


「恵吾!何だ、この小童はっ!

 また妙な者を連れてきおって!」


明らかに、彼女の悪態が

助けを求めているように見える。

彼は、小さく笑った。


「ははっ。ここまで、純度が高いとは

 正直思わなかったよ。」


「・・・・・・全くっ。

 託児所ではないのだぞ、ここは!」


「彼は、大きな力になってくれるよ。」


「はい!なんなりとー!」


「・・・・・・うむ・・・・・・」


唸った後、『烏』は

ちらっと明来に目を向ける。


ロックオンするような、眼差し。


ぴりっとするのを感じて、

身動きが出来なくなる。

向けられた黒真珠は、

自分を射抜いてしまいそうだ。


彼女は折れた袖を、くいくいっと動かす。


“近う寄れ。”、という意味なのだろうか。


逆らう意思はないので、

素直に彼女の前まで歩いていくと、

目を合わせる。


本当に、宝石のように輝く瞳。


そんな双眸を向けられ、明来は

金縛りのように固まる。


『烏』の、折れたパーカーの袖が

自分に向かって伸びる。

ぐいっ、と上着の首元を掴まれて

引っ張られると、距離を詰められた。


殴られるのではないかと、一瞬思う。


「・・・・・・『小百合』。

 確認の為に聞くが、お主、正気なのだな?

 『家』に、“暗闇”を招くというのは。」


彼女の目は、自分を捉えたままだ。

息を飲むことも、容易ではない。


「・・・・・・はい。

 あえて、招き入れる事で

 打開策が生まれる。

 私は、そう見据えます。

 例え、何が起ころうとも。」


「破滅を、引き起こす事になってもか?」


「・・・・・・」



ゆりは、蔵野と目を通わせる。


考えは、同じであると。

そう、伝わる。


「・・・・・・破滅の兆しは、

 好機と隣り合わせでもあります。

 踏み込まなければ、見えないことも。」


全ては、覚悟の上で。


そんな二人の意志が、聞こえてくる。



自分の首元を引っ張っていた、

『烏』の手が離れる。

そして、高く上げられた。


「見届けるぞ。お主たちの覚悟を。」



彼女の力強い声と共に、

門が、音を立てて開いていく。













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― 新着の感想 ―
[良い点] 蔵野さんと『ジーン』先生のいる場所に、晴ちゃんとマナさんを感じます。 晴ちゃんとマナさんを感じます!!(大事なことなので二回言いました) そして!!樹くんが、樹くんが、いた!!(´;ω;…
[良い点] 『ジーン』さん、悠生さんに移動の件を伝える時も、気持ちを尊重して告げていました。今回の蔵野さんとの会話にもそんな優しさ……というと言い回しがちょっと違うかもなのですけど、繊細なものを感じま…
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