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いつも感じていた不安が、現実になった。
結局アロイスのリディアへの優しさは、薄っぺらなものでしかなかった。
「それと良い機会だ。皆に聞いて貰いたい。実は新薬の開発に成功し、今治験段階に入った。これがあればマリエッタの病は治る」
あぁ、そういう事か……。
リディアは直様、言葉の意味を理解した。そして、すっとアロイスへの気持ちが冷えていくのを感じた。
マリエッタの病が治る見込みが立った。だからもう、リディアは用済みという訳だ。だから……いとも簡単に婚約破棄すると口にしたのだろう。
「リディアとは婚約破棄をした故、代わりにマリエッタを婚約者に据える」
アロイスの言葉に広間は、水を打ったように静まり返った。
今日のこの事がなくとも、近い内にアロイスは婚約破棄をするつもりだったのだろう……。
「リディアは私の妃に相応しくないと今、判明した。ならば、マリエッタが私の妃になるのが自然だ。本来はマリエッタが私の婚約者になる筈だったのだからな」
アロイス様って、こんな方だったかしら……。
勝手に話を進めるアロイスに、リディアは怒りよりも笑いが込み上げて来る。
リディアは婚約してから、優しいアロイスの事をずっと慕っていた。彼がどんなにリディアとの約束を反故にして、マリエッタを優先させようとも……。
今更だが客観的に見れば、自分はただ彼にいいように使われていただけだ。アロイスのあれは、優しさではない。だが、リディアは未熟さ故それに気付かなかった……情けない。
彼はマリエッタが無理だから、リディアを婚約者にした。だがマリエッタの病は治る見込みが出来た。だから今度はリディアを捨てて、マリエッタに戻った……。
彼はいつもリディアとマリエッタを天秤にかけていた。まあ、天秤がリディアに傾く事などはなかったが。それでも婚約者の地位だけは常に、リディアに傾いていたのは唯一の救いだったのに……。
……それも、今日で終わり。
彼の全ての天秤は、マリエッタへと完全に傾きリディアはもう彼にとって価値がない。意味がない。必要がない……。
もう、疲れた……婚約破棄?すれば良い。もう、どうでもいい……。
「リディア、君への処分は後程決める。まあ修道院が妥当だと、私は考えているがな」
処分……私に、濡れ衣を着せ婚約破棄をした上に、修道院へと行けと言う訳?
もしかしたら、アロイスはマリエッタと共謀してリディアを陥れようとしているのかも知れない。余りに展開が早く、予め考えていた様にしか思えない。
全ては、アロイスとマリエッタの筋書き通りなのだろうか。
「婚約破棄後に面倒事を彼女が起こさない様にと、修道院に入れてしまおうという魂胆かな」
リディアが脱力し、投げやりになっていた時だった。
まさか……彼が現れるなんて……。
彼はリディアを庇う様にして、アロイスと対峙する。
「本当に腹黒いですね、兄上」
ヴィルヘルムは、アロイスを見遣り嘲笑した。