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なんであんなに、苛々したのか自分でも分からない。だが、ヴィルヘイムにあんな風に言われて、腹が立った。
確かにマリエッタの事で、色々と悩む事は多いがアロイスのことは好きだし、一緒にいる時間は愉しい……筈だ。
だが正直、たまに分からなくなる。自分はアロイスの事が本当に好きなのかと……。ただその前に彼とは政略的な関係であり、本来感情など必要はない。故に、無意識に彼を好きになろうとしている様にも感じる。
自分が自分で分からない。
「アロイス、様……」
リディアはベッドに潜り込み、目を閉じた。
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リディアはため息を吐いた。実は今日は先日の埋め合わせで、アロイスからお茶に誘って貰い城へと来ていた。先程まではアロイスと愉しく会話をしながらお茶をしていたのだが、急に従者がやって来て「マリエッタ様のお加減が」そう言った。
無論アロイスは直様「分かった。直ぐに行く」そう言い席を立つ。「すまない、リディア」そう彼から言われれば「私なら大丈夫です」と笑顔で答えるしかない。
ただ今日はいつもと違った。いつもならば、このまま屋敷に帰るのだが……。
「必ず戻る。だから少し待っていてくれないか?」
リディアは、嬉しくなり頬を染め頷いた。
あれから、3刻は立つ。未だにアロイスは戻らない。
「いい加減諦めたらいいのに」
「……」
「どうせ兄上は戻らないよ」
「……」
「ねぇ、リディア」
「ほっておいて下さいっ!」
思った以上に大きい声が出てしまい、リディアは慌てて口を押さえた。はしたないし、流石に失礼だ。
「申し訳、ありません……」
ヴィルヘイムに謝り、リディアは俯いた。彼はアロイスが席を外し程なくしてふらっと現れた。それからずっと一緒にアロイスの戻って来るのを待ってくれている。
「そろそろ日が落ちる。大分冷えてきたし……帰った方がいい」
ふわりと、急に背中が温かくなる。驚いてリディアが顔を上げると、ヴィルヘイムが自身の上着を脱ぎ掛けてくれていた。
「リディア、送るよ。帰ろう」
リディアは情けないが言葉が見つからず、静かに頷くしか出来なかった。
帰りの馬車に揺られながら、リディアもヴィルヘイムも互いに無言だった。リディアは窓の外を眺め、ヴィルヘイムは腕を組み瞳を伏せている。
やがて馬車は自邸の前で止まり、扉は開かれた。リディアが降りようとする前に、ヴィルヘイムが降りた。その様子を不思議そうに見ていると、彼はリディアに手を差し出す。
「あ、ありがとうございます……きゃっ」
その手を取ろうとするが、次の瞬間身体がふわりと浮き気付けば馬車から降りていた。
「ヴィルヘイム様、何をなさるんですか!」
またいつもの様に揶揄っているのだろう。リディアが子供の様に頬を膨らませ、非難の声を上げると彼は、笑った。
「そうそう、君はそれぐらい元気な方がいい」
「……なんですか、それは」
「そのままの意味だよ。じゃあ、僕は帰るから」
そう言いながら馬車に乗り込もうとするヴィルヘイムの姿に、リディアは、ハッとした。
「ヴィルヘイム様、上着を」
未だに彼の上着を羽織っている事を、すっかり忘れていた。慌てて上着を脱ごうとするが手で制止される。
「部屋までの間に身体を冷やすといけないから、そのままでいいよ。上着は君にあげる」
「あげるって、こ、困りますっ!」
「はは」
ヴィルヘイムは愉しそうに笑い、行ってしまった。




