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声の主は国王陛下だった。一瞬にして広間は水を打ったように静まり返る。


「アロイス、王太子にはヴィルヘイムを据えた。お前には子爵位を与える。これは決定事項だ。異論は赦さん」


国王から突然告げられた言葉に、アロイスは顔面蒼白になった。


「ち、父上っ、何故ですか⁉︎何故私ではなく、弟のヴィルヘイムなんですか⁉︎」


「そんな事も分からぬか……情けない」


国王は呆れた顔で、深いため息を吐く。アロイスは歯を食いしばり、ヴィルヘイムを睨む。


「お前の所為だっ!ヴィルヘイム、お前が何か汚い事をして」


「 アロイス 」


低く響いた声色に、思わずリディアは身体をびくりと震わせた。自分ではないと分かっていても、心臓が跳ねた。それ程の怖さを感じた。


「お前は第一王子であり、王太子になるのが本来ならば自然な流れだ。だが私はずっと決め兼ねていたのだ。正直、お前には次期国王、王太子としての器が備わっているとは思えんかった。私が選び婚約者に充てがったリディア嬢をこの様な公の場においても蔑ろにし、あろう事か従妹のマリエッタにうつつを抜かし規律を乱すなど、王子としての自覚が無さ過ぎる。それでもいつかお前が改心するかと思った事もあったが……無駄だった様だな。やはり、お前はあの女の息子だ」


あの女……正妃の事だ。その瞬間、ヴィルヘイムが笑った気がした。



「お前の母正妃とその妹の公爵夫人は、国税を使い込み、横領の疑いで捕縛した。無論、正妃の生家及び公爵家にも調べが入っている……それに加え、正妃には不貞の疑いもある。私と婚姻を結ぶ随分と前からの関係があったらしいな」


この言葉の意味……今この広間の誰もが同じ事が頭に過った事だろう。


「兄上、いやアロイス。貴方は一体()の子なんでしょうね」


その場に崩れ落ちたアロイスを、リディアは見て思う。彼は国王陛下には似ていない。それは誰が見ても明白だった。だが別段気にする様な事ではないだろう。彼は正妃に良く似ていた。男子が母親似なのは珍しい事ではない。


だが今この状況下においてこの事実は、彼と国王の親子関係を否定するものに他ならない。実際彼が国王の実子かなど、既にどうでもいい議論なのだ。


「アロイス、城を去れ。ここにお前の居場所はない」


国王はそう吐き捨てた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





アロイスは、この後子爵位を与えられ郊外へと移った。正妃の生家は没落し、正妃とその妹の公爵夫人はそれぞれ辺境の古城で死ぬまで幽閉される事と決まった。


「マリエッタは、関係ないからっ!そ、そうだ、ヴィルヘイム、貴方婚約者いなかったわよね⁉︎マリエッタがなってあげてもいいわよ」


驚く事に彼女は、あっさりとアロイスを見捨て今度はヴィルヘイムに乗り換えようとした。あまりの変わり身の早さにリディアは唖然としたが……「僕が君みたいな薄汚い女、相手にするとでも思う?頭、大丈夫?」と取り合って貰えなかった。


瞬間彼女は発狂した様に泣き叫び、暫く手がつけられなかった。


マリエッタのその姿に、少しアロイスに同情した。彼は酷い人間だが、彼女に対しては誠実だったと……思っている。


彼女の身体を気遣い、新薬の開発まで漕ぎ着けた。想像するに、かなり大変だったのだと聞かずとも分かる。その彼を、いとも簡単に切り捨て自身はヴィルヘイムへと乗り換えようとした……リディアは、少し胸が痛んだ……。


そしてマリエッタは、この半年後……亡くなった。死因は持病が悪化したとの事だった。新薬の完成は間に合わなかったらしい。……何とも呆気ないものだ。


ただ、少し気になる事がある。


噂で聞いただけで事実かは分からないが、あの直後ヴィルヘイムが新薬の開発班を解散させたと……。







あの舞踏会の日から、早いもので一年が過ぎた。


リディアは、読んでいた本をそっと閉じた。


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