プロローグ
侯爵令嬢のリディアには、アロイスという婚約者がいる。彼はこの国の第一王子だ。
そして彼には、幼馴染で従妹の公爵令嬢のマリエッタがいる。彼女は、生まれつき身体が弱く長く生きる事が出来ないと言われていた。
本来ならアロイスの婚約者には、マリエッタがなる筈だったのだろうが、彼女の身体の事もありマリエッタは婚約者にはなれなかった。
そんな彼女の代わりにアロイスの婚約者に選ばれたのが、リディアだった。
アロイスは人柄もよく穏やかな人物で、周囲からの評判もよく、皆に慕われていた。
リディアはマリエッタの代わりかも知れないが、彼はリディアの事を大切に扱ってくれる。いつも優しい言葉と笑顔をくれた。そんな彼をリディアも、慕っていた。
だがある日、リディアは気付いてしまったのだ。
事あるごとにアロイスを呼びつけるマリエッタ。
体調が優れないと彼女は直ぐに「アロイス兄様を呼んで」そう駄々を捏ねるそうだ。そして彼も……
リディアとお茶をしていても、出掛ける約束をしていても、リディアが熱を出し寝込んでいる時でさえ
「アロイス様、マリエッタ様のお加減が」
その従者の一言で彼は全てを投げ出し、迷う事なく彼女の元へと向かう。
アロイスは、リディアとマリエッタを天秤にかけ、その天秤は必ずマリエッタへと傾く。
マリエッタがいる限り、彼の天秤が自分に傾く日など来る事はないと……気づいてしまった。