キタキタキタァ!
単語帳を得た俺だったが、気分は上がらず、頭を抱えていた。
だが、どう魔法を作るのかは、わかる。
ハリー少年が頑張るあの小説では、たくさんの魔法が出てくる。実はあの魔法はすべて、英語とラテン語の組み合わせから出来ているんだ。
例えば、浮遊魔法だと、宙に浮かせるという意味のreviseが元だし、相手を石にさせるペトリフィカルス・〇タルスという魔法は、石化させる、petrifyが含まれている。
つまり、日本人が「帝王水龍瀑」から大体の魔法の効力を予測できるように、英語ネイティブも、英語であればそれが可能なのである。
勉強中にそれに気づいた俺は狂喜乱舞したよ。
ってことで、魔法を自作してみよう。
まずは妥当に炎魔法からだな。
だが俺はここで致命的なミスを犯す
魔法の考察に気を取られていて、気づけなかったのだ。魔法の効力が切れかけており、フェンリルが復活間近であることに。
「おっしゃー!葉っぱが燃えた!」
って、あれ、とんでいっちゃ.....った?
木の葉を飛ばしたその風はやけに生ぬるかった。
俺の全身から、脂汗がジワリと出てきて垂れる。
脳内では自分のミスを責める声と、正当化の声が絶え間なく争いを繰り広げていた。
「グルルルルル」
背後から、さっきよりも明らかに低さがまし、怒りがこもった唸り声が聞こえてきた。
今度ばかりは俺も振り向かず、
走った。
ただひたすらに、走った。
幸いアドレナリンで頭は冴えており、俺は走りながらも、自分を強化する魔法を編み出す事が出来た。
「加速<アクセレレイト>(accerelate)」
そう、アクセルの派生語である。効力は・・・体感2.5倍くらい
それでもそいつはついてくる。かなり疲労しているようだが、恐ろしい執念だ。
ついに、追いつかれた。フェンリルは再び捕食の体制を取る。
さあ、正念場だ。
俺はパス単をめくり、使えそうな単語を血眼になって探した。
そして、
「頼むぞ、頼むから発動してくれ」
「暗黙の否定<インプリシット・ディスアヴァウ>(implicit disavow)」
ガキイィィィィィン
不可視の障壁が凶暴な牙をすんでのところで防いだ。
すると、そいつは楽しそうに目を細めた。そして、かかって来いとでもいうように、首をクイッ、クイッと動かした。
いいだろう、その挑発乗ってやろうじゃないか。ペラペラとページをめくり、唱える。
「曖昧な終焉<エクイボカル・デマイズ>(equivocal demise)」
自分でも何を言ってるか意味が分からない。実のところは、自分のまだ覚えていなかった単語を適当にかっこよく並べただけである。つまるところ、効果は不明だ。
とつぜん、その巨躯がよろめき、地面に倒れ伏した。聞くに絶えない苦し気な遠吠えを上げ始めた。まるで、死ぬにも死にきれない激痛を味わせているかのようだ。
俺は、流石にいたたまれなくなり、詠唱を破棄した。
そいつはゆっくりと起き上がり、肩をすくめると、さっきとは逆の向きで首を動かした。
行ってもいい、ということだろうか?
俺はぺこり、と一礼して、その場から可能な限りの速さで去った。感謝するべきなのか、そもそも喰う気がなかったならなぜ俺を追いかけたか、いろいろ謎なやつだったが、まあ、助かったから良しとしよう。