技術の完全なる発展は、貨幣という概念をなくすと思う
「では、タクミさま、いろいろ勝手がわからないと思いますので、当家の屋敷に来ていただいてもよろしいでしょうか?」
「おお、マジで!それはありがとう。」
「では、いまから頑張ってこの森を抜けましょう!いまは幸い浅部にいるため、比較的早く入口に戻れると思いますよ。
そうだ!歩きながら魔法の練習をしましょうよ!ここの動物たちは練習台にピッタリです!・・・多分」
スルーだ。スルー。そんな自殺行為に付き合っちゃいられない。そう決意を固めたまさに三秒後、隣から心地よいメロディの口笛が聞こえてきた。
「いい旋律だな。」
俺が何気なくそういうと、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべて
「そう思いますか?嬉しいです。これは近くの魔物を呼び寄せる音なんですよ!
・・・では、頑張ってください!ここらへんの魔物は弱めなのが多いので、転生者であるタクミ様なら死ぬことは無いと思います!」
と、とんでもないことを笑顔でぬかしおった。
ティアはそんなこと気にもせずに平然と続ける。
「はい、魔導書です!ペラペラめくって読み上げれば何とかなります!それでは!アデュ!」
といってそそくさと転移していった。
初心者に優しくない世界である。可愛い子には旅をさせよとはいうものの、何も知らない赤ちゃんに旅をさせたらその子を失うことをわかっているのだろうか。
だが、俺も男である。原始から遺伝する闘争本能がめらめらと燃え上がる感覚がした。
辺りを警戒しながら森を進んでいく。だが、一向に獣の気配を感じない。むしろ、鳥の鳴き声一つ聞こえない、不気味な静寂に包み込みこまれていた。あとから思うと、嵐の前の静けさだったのだろう。
「グルルルル」
背後から、大地を震わせる、威厳に満ちた唸り声が聞こえてきた。
あまりの存在感に気圧され、後ろを振り向くのも憚られた。
本能が警鐘を鳴らしている。
ティアのやつ、何が「弱めのやつら」だ。こいつこの森の主か何かだろ、ぜったい。
だが、相手の様子を確認しないことには何も始まらない。
俺は自分を鼓舞し、ギギギ、と錆びたロボットのように首を回した。
あー。うん。こいつはヤバイヤツダ。ドウシヨウ。白銀に輝く美しい毛並み、獰猛な牙
つまり、こいつは・・・
「フェンリルだ」
あー。うん。もう一度言うね。こいつはヤバイヤツダ。ドウシヨウ。
俺はそいつに向かって極めて優しげな笑みを向けた後、
背をくるりと翻して猛ダッシュした。
「いやあああああああああああーーーーー!たすけてーーーーーーーーーーーーーーー!」
叫んだことで心なしか加速したように思う。
身体能力が上がっているため、入り組んだ森をまるで高速道路のようにすいすいとものすごいスピードで駆け抜けることができた。
だけど、神殺しの狼に勝てるはずもなく、俺はあっさりと斜め後ろに張り付かれた。
こうなったらもう覚悟を決めるしかない。ふざけんなよ、ティア。
頼んだぞ神様。
そいつが重心を下げ、俺に飛びつこうとしたその瞬間、
俺は魔導書を開いて唱えた。
「神の審判よ。其は孤独な凍れる牢獄に等しく 命の天秤を滅びへと傾けん<ネガティブ・リバイブ>」
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