よさげな国
俺は人の少ない裏道に入ると
「えーと、」
じゃあ、まずは城壁に穴がないか見てみよう
「分析<アナライズ>(analyze)」
流石古代魔術。鼠一匹入るか否かの隙間すら、薄い魔力膜で覆われている。
どうしようかなー。元となる魔法陣見ないと始まらないか。
「概略的感知<スキマティック・ディテクション>(schematic detection)」
王城全体を簡単にマッピングし、中央にある部屋を探す。あった。
ちょうど、魔法陣一個入りそうな小部屋を地下宝物庫の中心に見つけた。
さあ、書き換えよう!自分をこの魔法陣の例外にすればいい。
「抹消<エクスパンジ>(expunge)」
これで行けるはずだ。
父さんからの信号を待...来た!
「トランスポート!」
空間が歪む。
そして俺の視界に入ってきたのは、
絢爛豪華な調度品、ふかふかの絨毯。ずらりと並ぶ男たち、そして真ん中に座る王であろう初老の男。
俺はしっかり膝をつき
「突然の来訪しつれ」
「何者だ!」
俺は首に槍を突きつけられた。しかも三本も。寸止めではなく食い込んでるからさらにやばい。これだけでもこの国の騎士たちの練度が相当高いことが窺がえる。
うへぇ。俺こんな国で転生者やっていけるのかな。
魔導書(単語帳)がなくても、暗記できてる単語からならいくらでも魔法生成出来るし。別に焦る必要は全くないんだけど、喉元にある金属の冷たさは本能的に恐怖を感じるよね。
そんなことを思って、どうこの場を切り抜けるか考えていると、国王の横に立っている宰相らしきおっさんが俺に向かって話しかけてきた
「タクミ・シラセだな。第三兵団「鷲」の隊長から話はきいている。大樹の守り人を退けたそうだな。ご苦労。」
表面上はねぎらっているものの、眼にありありと浮かぶ警戒の色を隠そうとすらしていない。
「はい、自己紹介させていただきます。昨日、メルクロワ家の養子となりました転生者、タクミ・シラセ。と申します。」
続けて、父さんが、
「娘が森でスライムに溶かされている彼をたまたま見つけ、森を抜けている途中で守り人に遭遇したそうです。娘も彼のことを信頼しているようですし、私自身の「眼」も彼に一目おいているようです。」
その言葉を聞いた宰相の眉がピクリと動いた。
「ほお、お主の魔眼は相当な曲者だと聞いておったが、そいつがこの小僧にか。それはなんとも興味深い。」
そういうと、彼は玉座に佇む初老の男に目配せをし、
「分かった。・・・メルクロワ家当主。ヴェリテ・フォン・メルクロワ。一生涯の忠誠を誓い、タクミ・シラセをメルクロワ家の庇護下に置くことを許可する!」
そう宣言した。その内容は羊皮紙にすらすらと記載されていく。条文が書き終わると、国王が宙にサインを書いた。
ひらひらと、跪いた俺たちの前に紙が降りてくる。
よくよく見ると、サインの下に、小さく「P.S.君とは長い付き合いになりそうだ。」と書かれていた。
ぱっと国王のほうを向くと、彼はこれから起こるであろう波乱を待ち望むかのように、眼を細めて笑顔になっていた。
よろしくお願いします<(_ _)>