第24話 兄弟の盃
玉座の間に着くと、サーベイさんが待っていたように座っていた。
他にも数体のワーウルフ、ヘルハウンド、プチデビルがいる。
「おお、待っていたぞ……ん? レイア、どうしたんだその顔?」
サーベイさんが不思議がるのも無理はない。今のレイアは不機嫌な顔をしているからだ。
俺はというと顔が熱いから、多分真っ赤になっていると思う。先ほどのやつがやつだし。
「…………」
「黙るってよっぽどなのか……? それよりもフユマさん、君たちによこした使いは?」
「あ、えっと……ちょっと自分の部屋で休むって言ってました……」
「何だサボりか……あとできつく言わなきゃなぁ……」
嘘である。
使いのワーウルフは、レイアのザズリアによって壁に埋もれている。
さすがに死んではないと思うが……。
「ところでお父さん、話って?」
「おっとすまんな。フユマさん、君はこれまで儂らとレイアに対し色々と手を打ってくれた。儂としては恩を返しても返しきれない。だからこそ、ぜひともこれはしなければと思ったんだ」
「何をです?」
「盃だ。君と兄弟の盃を交わしたい」
「……ん?」
何だそれ? 聞いたことがないぞ?
「さすがに知らねぇか。これははるか東の国にある儀式らしくてな、そうすることで2人が魂の兄弟になれるんさ。ああ、らしいってのはこの城の図書館にあった本で知ったからなんだ。部下に親父って呼ばせているのもその影響でなぁ……よかったら近いうちに読んでみるか?」
「いえ間に合っているんで……でも兄弟って具体的に何を……?」
「儂が兄、君が弟になれる。極端に言えば、君は儂と同じ権限を持つことが出来るのだ。部下をこき使ってもいいし、何なら必要なだけ金貨をもらってもいい」
「………えっ!?」
サーベイと同じ権限!? 部下をこき使って!? 金貨をもらってもいい!?
俺は今現在しがないハンターでいるんだぞ!? いきなりそんな待遇になれると言われても!
「えっと、そんな! 俺なんかと兄弟? にならなくても!」
「ハハハ、そんな謙遜しなくてもいいのに。言っておくが、妻に酷く止められたから女は用意できねぇがな。一応あとで護衛してくれる女は用意するが」
「お、女だなんて!? 別に間に合ってますし!!」
女をはべらせたハーレム……なんてのは……ちょっと興味ある!
興味はあるんだけど今はレイアがいるし! こっちをジト目で見ているし!
「それにもう1つ、君にお願いがあってな」
「はい!?」
「君はファフニールの力をスキルとして変換させ、さらにダンジョンそのものを働きかけることが出来る。言わば『ダンジョンマスター』と呼ぶべき存在だ。そこを儂は評価したい。……ああ、これはもちろん本心だ」
「ええ、分かってます。ダンジョンマスターかぁ……」
ダンジョンを統括する主の通称だ。今いる古城がダンジョンとするなら、サーベイさんがそれに当たる。
俺がダンジョンマスターって柄じゃなさそうな……でもかっこいいからいいかなぁ。
「そのダンジョンマスターの君に、ファフニールダンジョンの支配と管理を担ってほしいんだ」
「支配……って俺がですか!? そこはサーベイさんの方が……」
「いや、儂ら魔物界隈の間では、ダンジョンをめぐる争いが頻繁に起きている。儂は自分の城を守らなきゃいけないし、その上でなるべくシマ……まぁ領土も広げたい。そこでファフニールダンジョンをシマ拡大の対象にしたいって訳だ。君はあのダンジョンの攻略をするんだろ?」
「ま、まぁ……」
「あれを儂らのシマにすれば警備兵をよこすことも出来るし、儂もすぐにそっちに行ける。物資の運搬も何とかしてみよう。問題はファフニールが納得してくれるかだが……」
『別に構わない。私やフユマに余計なことをしなければ、後は好きにすればいい』
「うお!? 剣から喋るのか!? 前もって言ってくれよ!?」
すいません、剣から話すなんて言ってませんでしたね。
ともかくファフニールダンジョンに横槍が入らないようにするということか。
それはありがたいが、何か引っかかる。
「それってつまり、俺を経由してファフニールダンジョンを所有物にしたいと……。盃もその為という……」
「それはなくはない。しかし兄弟にしたいという言葉は本当だ。先の件が2割なら兄弟のは8割……頼む、ぜひとも儂の弟になってほしい」
「…………」
腐ってた俺に対して喝を入れてくれたサーベイさんだ。俺は彼のことを信じている。
しかしこんなたかがハンターが、そんな契約的なものを交わしていいのだろうか。
「……フユマ、お父さんが盃の話を持ちかけるなんて相当だよ。それだけフユマを信頼しているってことだから」
横にいるレイアが耳打ちしてくる。
その話に俺は考えた。考えて、そしてサーベイさんに答えた。
「俺、サーベイさんと兄弟になります。始めましょう」
「感謝するよ! よし、酒をこっちに持ってこい!」
サーベイさんはレイアの次に俺を認めてくれた人だ。ダンジョンマスターとかはそんなに興味……まぁちょっとあるけど、でも彼の厚意を無下にすることは出来ない。
俺とサーベイさんの前に木製のコップが置かれ、そこに酒が注ぎこまれた。色から察するに蒸留酒らしい。
「酒は飲めるか?」
「一度だけ。元パーティーと飲んでまして」
「もし駄目だったら一口で構わないからな。それを同時に飲むだけ、ただそれだけだ」
「分かりました」
俺はコップを手にした。サーベイさんの方は器用に口でくわえている。
2人で合図をしてから、ほぼ同時に酒を飲む。
少し舌にクるが飲めないほどでもない。そのままコップに入った分を飲み干した。
「……っと、これで儂らは五分五分の兄弟だ! お前ら、儂に新しい弟が出来たぞ!!」
《ウオオオオオオオオオオンン!!》
「「わーい!!」」
一斉に遠吠えするワーウルフとヘルハウンド。そして拍手をするプチデビル。
すごい歓迎だな。相手は魔物なのに……本当に不思議な気持ちにさせてくれるよ。
「フユマさん……いやフユマ。これでお前は客人ではなく、正真正銘我々の家族だ。これからもよろしくな」
「……はい、ありがとうございます!」
でも悪くはない。
そう思えるようになったのも、俺から立ち直られた証拠だろう。
「……ところでさっき護衛とか言ってたような」
さらっとサーベイさんが言っていたのを覚えている。
しかも女の護衛とか……少し気になる。いや、やましい気持ちとかそんなんじゃ……いやなくはないけど、ここで言ったら……ねぇ?
「ああ、彼女はすぐそこにいる。おい入ってこい」
玉座の間にはバルコニーが存在する。そこから月光によって伸ばされたらしい影が入ってくる。
次に靴音、そして全身が露になった。
「紹介しよう、今日からレイアのボディーガードになるリミオだ。東部地方のシマから呼ばせてもらった」
「初めまして、今後ともよろしくね」
美人だ。レイアに引けをとらない超美人。
まず桃色のふわっとした長髪が目につく。緑色の目はキリッとした鋭さがあって勇ましい。
レイアが大人しそうな顔つきなら、こちらは冷静な感じだ。言わばクールビューティーといった感じ。
俺より気持ち長身の身体には、赤黒い軽装が纏っている。全体的に妖艶な印象だ。
……特にそう思わせるのは胸元から見える谷間だけど。あれ巨乳だろ……間違いなく。
「君のことはサーベイ様から聞いているわ。最初は信じられなかったけど、この方が嘘を吐くはずもないからね。あとでファフニールとか見せてもらえると嬉しいな」
「あっ、はい……ぜひとも」
俺は彼女と握手と交わす。あらま、レイアに劣らずスベスベ……。
あとやっぱり胸が……谷間すごいだろ。もはや果実だわ。
それとレイアさん、視線が怖いです。あとエロく思っててすいません。
「そういえば東部地方って、確か魔物の危険地帯だったような……」
「人間側はそう認知しているらしいな。そこにも儂の上の方が治めるシマがあるんだが、彼女はその所属のもんだ。強さはお墨付きってな」
東は危険な魔物がひしめいていると聞いたことがある。
まさかサーベイさんがそちらにも繋がっていたとは……。
「そ、そうですか……だとするとリミオさんって……」
「ええ、これは【人化】スキルを使った借りの姿。本当の姿がどうなのかはまだ秘密ってことで」
やはり魔物だったか。
さすがにサキュバスってことはないだろう。案外サーベイさんみたく哺乳類系なのかも。
「例の誘拐があった以上、リミオの手も必要だからな。2人とも、ぜひとも彼女と仲良くしてやってくれ」
「分かった。それでお父さん、ちょっと言いたいことがあるけど」
「ん、どうした?」
俺も耳を傾けようとすると、レイアが真顔で言ったのだ。
「レイアとフユマ、ダンジョンに帰ります」
……帰るのか? 戻るじゃなくて?
お待たせしました! ついにレイアに続く女性新キャラの登場です!




