第2話 フユマはダンジョンを発見した
捨て駒として置いてけぼりにされたフユマは果たしてどうなるのか!?
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「ハァ……ハァ……」
口に血の味が感じる中、俺は歩いていた。
ヴィーヴルは倒せた。というか必死の抵抗の末、向かってきた奴の喉元にロングソードを突き立てた感じだ。もしかしたらマグレだったのかもしれない。
倒すまでにダメージを受けすぎて、身体の至る所がズキズキと痛い。
「……くそっ……くそっ……」
もうそれくらいしかつぶやけなかった。それほど俺は虚無感に支配されているという訳だ。
俺は見捨てられた。仲間に……いや、仲間だった奴らに。
しかもワープスキルがないのだから街に戻ることも出来ない。そもそもここがどこなのかも分からない始末。
やけな気持ちになって、手持ちの少ないポーションを傷口にかけた。
何とか傷の痛みは引いたが、でもショックの痛みだけは癒えない。俺は怒りをぶちまけるように空の瓶を投げ捨てる。
「……スキルゼロ剣士か……ハハ……そうだよな……」
俺ってそんな蔑称で呼ばれてたんだな……でもその通りだからぐうの音も出やしない。
何故そう呼ばれたのか。原因があるとするなら、やはりあのステータス解析からだろうか。
あの時、ワクワクして待っていた自分だったが、対して職員たちの雲行きが怪しくなっていた。ひそひそ話も聞こえてきたのだ。
そしてどこかおかしいと思った俺にこう告げてきた。
『フユマ様……残念ですがスキルも属性も付いておられません』
『……えっ?』
何を言っているのか分からなかった。なんかの間違いだと思いたかった。
石板の文字は未知の言語になっているので、自分からでは読むことは出来ない。
だから職員が読み間違えた。嘘を言っていると思っていた。そう思いたかった。
しかし結果として、それは本当のことだったのだ。
渡されたステータスカードにはこう書かれていた。
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ハンター:フユマ Lv24
職業:剣士
属性:なし
スキル:なし
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スキルも属性も最初付いていないのはごく稀に起きているらしい。もしかしたら魔物を倒していけば自然と身に付くのではとも言っていた。
俺はすぐに手頃な魔物と戦った。
サンドリザード、ボススライム、オーガ、ゴブリンの群れ……。
しかし駄目だった。レベルが上がるだけでスキルも属性も付きやしない。どんな魔物を相手にしてもだ。
さらにどこからか漏れたのだろうか。俺のスキルなしが周囲に知れ渡ってしまったようだ。
住人にも、行きつけのパン屋にも、同期のハンターにも、ほとんどの人から向けられる白い目。
あれはそう……まさに腫物を扱うような視線。居心地悪いとしか言いようがない。
『よぉ、お前の噂は聞いているぜ。苦労していたんだな』
もちろん同情的だったり、そういったことを気にしていない人もいる。
俺に近付いたパーティーのリーダーもその1人……と最近まで思っていた。
ともかくリーダーは、やや良い気分じゃなかった俺に近付いてきた。
最初は冷やかしと思っていた。こいつは周りのみんなと同じだろうと。ただリーダーは『俺も剣術の腕が上手くならなくて苦労してた』とかそういう話をしていた。
それに俺のスキルなしのことを馬鹿にはしてこないものだから、自然と心が開いてしまった。それに彼と話すのが楽しかった。
そうして俺はパーティーに入って、共に魔物討伐もしてきた。
全ては順調だった。仲間と共に狩って、仲間と共に祝杯を上げて……。
「でもあいつら、本当のところは仲間だなんて思ってなかったんだな……」
俺を仲間にしたのは、もしもの為の盾にするつもりだったのだろう。
そうだよな。まさしく俺は剣術があるだけのただの人間。スキルや魔法ない奴なんてただの置物でしかない。
……それでも、こんな仕打ちがあっていいのだろうか。
ふつふつと不快な気持ちが湧いてくる。まるで胃の中に火が燃え上がっているような感触だ。
怒り……とはまた違う。多分これは悔しさ。自分がみじめで仕方ない悔しさだ。
「……ん」
雨粒が額に当たった。
どうやら雨が降ってきている。さすがにずぶ濡れになるのは嫌だ。
どこか雨宿りが出来る場所……こういうところに小屋があればいいが。
重い足を動かせて走った。次第に雨が強くなっていく。このままだと風邪を引いてしまいそうだ。
そうして走っていくと、森の奥に大きな影が見えてきた。
建物にしてはまた違う……でもあれはもしかして。
俺はまっすぐその影のようなものに向かって走った。水たまりや木の枝を踏んだりもした。
そうしてやっと目の前にたどり着いて、その全貌が露わになった。
「間違いない、ダンジョンだ」
三角形をした複数の建物が、隣同士寄りそっている。表面は金属とも土ともつかない銀色の物質で覆われている。
大きさもまるで城みたいで、思わず見上げるほどだ。……実際に城なんて見たことはないが。
ともかくこれはダンジョンだ。
ダンジョンというのは魔物が住処としていることで有名。なおかつトラップも待ち構えているので、ハンターしか入ることが許されていない。
たまに財宝や特殊アイテムも眠っているらしいが、そんな不届き者を魔物が一斉に襲いかかってくるとか。
特に目的はないが、俺は雨宿り目的でダンジョンに向かった。さすがに出入り口付近なら魔物も襲ってこないだろう。
出入り口はすぐ目の前にあった。そこに入ったあと、壁に腰かけるように座った。
「ダンジョンか……そういえば魔物がダンジョンの所有権争いを起こしているんだっけ」
聞くところによると、最近魔物同士が頻繁に争っているとか。その際、ダンジョンの奪い合いも発生していることも聞いている。
ダンジョンというのは魔物にとって要塞でもあり住居でもある。だからダンジョンの確保というのは魔物において重要らしい。
なんて思ったものの、これからどうしようか。
帰る手段がない。歩き続けば人里が見えてくるだろうが、今はそんな気力がない。
詰んだというのはこのことを指すのだろう。本当につくづく運が悪い……。
「……いや、待て」
でも思いとどまった。
本当にこんなところで腐っていいのだろうか。いや、そんなことはない。まだやり直せるチャンスがある。
現にここはダンジョンだ。
ここにはスキル獲得が出来そうな魔物だっているし、何より特殊アイテムで悩みが解決するかもしれない。
もちろん徒労に終わる可能性もある。でも……このままで終わらせたくない。
それにこのダンジョンを攻略して、元の街に戻れるスキルでも獲得すれば。
「そうだよな……俺はスキルを獲得する為にハンターになったもんな……」
小さい頃からの目標。それを潰したくない。
俺は背中のロングソードを引き抜き、ダンジョンの中を進んだ。
まず待ち受けたのは一本道の通路。
意外にも松明が必要ないくらいほのかに明るい。これは通路全体が光っているからだろうか。
そもそもこの通路……というよりダンジョンが妙だ。普通ダンジョンと言えばレンガで積み上げた遺跡のイメージだが、ここは粘土のような質感をした金属で覆われている。
ダンジョンにもこんなのがあったりするもんだな……。初めて入ったから他がどうなっているのか知らないが。
――ニュルッ。
急に目の前の壁が盛り上がった。
思わず剣を構える俺。その壁からボトリと落ちてきたのは……、
「メタルスライム!? 随分と珍しいな……」
金属色でスライム状の身体を持った軟体生物……メタルスライムだ。
通常スライムの亜種だが、通常種と比べてあまり見られないことで有名だ。まさかこんなところに出くわすとは。
いや、それよりもメタルスライムを倒せばレベルアップしやすいとは聞く。
もしかしたらスキル獲得の可能性も……ならばやるしかない。
「ふん!」
メタルスライムは足が素早いが、戦闘力と体力が低いと聞く。それに1体ごときで時間をかけたくない。
俺はソードをメタルスライムに振り下ろした。するとメタルスライムは俊敏に俺の背中に回った。
しかしこんなのお見通し。俺は隠し持っていた短剣を奴に投擲。その身体にもろに直撃して……、
「……えっ?」
ちゃんと短剣がメタルスライムに刺さっている。
なのに……ピンピンしている?
――ビュン!!
そんな風を切るような音を出しながら俺に飛びかかってきた。
俺がガードした両腕で受け止めると、身体が浮いてしまう。
後方に吹っ飛ばされたのだ。
「ぐおっ!?」
気が付けば尻餅を付いていた。メタルスライムから人間2人分の距離が開いた場所にだ。
……こいつ、こんなに強かったんだっけ?