年上彼女は遊びたい
「どこですか? ここ」
「ゲームセンターですが」
二人がやってきた場所は、ゲーム音が賑わうゲームセンターであった。
普通、デートといえば海や遊園地を想像していたので意外だった。
ゲームセンターに来るのは、蒼にとって久しぶりのことだった。
今時、ゲームなんて家でもそれなりの迫力と画質の良い画面でできる。
それもあって、わざわざ外にあるゲームセンターまで足を運ぶことは少なくなっていた。
「ここで何をするんですか?」
「遊ぶに決まってます」
「遊ぶっって……。何してですか?」
「まずは音ゲーでもしましょうか」
音ゲー。
その言葉を聞くのは何年ぶりだろうか。
蒼は音ゲーの存在は知っているが、実際にやったことはあまりない。
幼い頃に少しだけやった程度だ。
「では、これをやりましょう」
魅音は一台のドラム型のゲームに手を出す。
特に断る理由もなく、せっかくなので蒼はそのゲームをやることにした。
ドラムは二つあって、どうやら二人で対決もできるらしい。
魅音はゲーム台の中に硬貨を入れた。
派手な音楽と演出でゲームは始まった。
魅音はドラムの隣に置いてある二本のバチを両手に持つ。
同じく蒼も持った。
「曲は何にしますか?」
と楽曲選択画面のまま、魅音は蒼の方を振り向いた。
「何でもいいですよ」
別に興味のある曲があるわけでもない蒼は答えた。
「分かりました」
遠慮する蒼に、魅音は少し残念そうに落ちこむ。
「これなんかはどうでしょう?」
「いいですね」
魅音は最近有名な聴き慣れた曲を選んだ。
「負けませんよ?」
「それはこっちのセリフです」
自信満々な魅音に対して、蒼も負けるわけにはいかないと思い、全力で勝負に挑む。
そんな調子で初めても、現実は非情だ。
人目見れば分かるほどの戦力差が蒼を襲う。
難易度激ムズを軽々とやっている魅音とは反対に、難易度普通ですら蒼は苦戦する。
魅音の上手さは人よりも少しだけ上手的な次元ではなく、周りの人を引き寄せるほどのまるでプロのような華麗な叩きであった。
二人は前を向いていて、集まってきた正確な人数は分からないが、背後の気配からして、かなりの人が来ていることが分かる。
二人はゲームを終えると、集まった人からの魅音に向けての歓声が聞こえた。
魅音は疲れたのかパーカーを脱ぎ、白いTシャツだけになる。
激しい運動の後なので、汗だくになっている魅音はとても色気があった。
高校生の蒼にとって、二十代の女性はこんなにも綺麗なものなのかと思った。
「ふー、暑いですね」
「そうですね」
蒼の視線は自然と魅音の胸に見る。
大胆に膨れ上がった胸ではなく、消極的に膨らんでいる胸がますます蒼を意識させた。
「次は何のゲームをしますか?」
「えっと……。その前に上着着てくれません?」
「すみません。こっちの方が楽でしたので」
「ありがとうございます」
「もしかして意識してました?」
「………………へ?」
唐突な魅音の言葉に蒼は戸惑いを隠せない。
意識していなかった、といえば嘘になるが、まさか彼女の方から言ってくるとは思わなかった。
蒼が動揺すると、魅音は口元に手を当てて笑いだす。
「嘘ですよ、嘘。もしかして本気にしてました?」
「別にそんなつもりじゃ……」
「結構、鈍感なんですね」
「成瀬さんがからかうから……」
普段は真顔で淡々と話す魅音が突然笑うととても可愛らしく、蒼はつい緊張してしまった。
「私たちは付き合ってるんですから」
笑顔のまま蒼の腕を掴む。
「ちょっ……」
「行きますよ」
蒼の顔に自分の顔を近づけ、彼女は笑った。
微かに甘い匂いがした。
それから腕を引っ張られたまま、蒼は次のゲームをすることにした。