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【書籍化】エリート外交官は落ちこぼれ魔女をただひたすらに甘やかしたい  作者: 三沢ケイ


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報復 1

 フリージと最後に薬草を採ってから二週間ほどしたある日のこと。

 カトリーンがプルダ薬局でいつものように店番をしていると、濃紺に金糸の飾りが施された上質な文官服を着た男性が店を訪ねてきた。茶色の髪をした中年の男性は、カトリーンが会ったことのない人だ。


「カトリーン嬢ですね? 宮殿から至急の要件で招集です。馬車をご用意しましたのでお乗りください」

「宮殿から?」


 カトリーンは要件が思いつかず困惑したが、男性から手渡された書簡には確かにカトリーンに宛てて『すぐに宮殿に来るように』と書かれていた。差出人はフリージだ。


「フリージさんから?」

「左様です。申し遅れましたが、私はフリージ様の筆頭補佐官を勤めるパオロと申します」


 パオロと名乗った男性は丁寧に腰を折る。


 宮殿からの、しかも四天王と呼ばれるほどの高位であるフリージからの呼び出しを一市民のカトリーンが断ることはできない。それに、『パオロ』という名前は時々フリージが口にすることがあり聞き覚えがあったので、カトリーンは一緒に店番をしていたステラとトムに「ちょっと出かけてくる」と伝えて用意された馬車に乗り込んだ。


「一体なんの用事ですか?」

「急な来客がありまして。まさかここまで乗り込んでくるとはこちらも想定外でした」

「急な来客?」


 カトリーンを呼びに来た男性──パオロははっきりとは用件を告げず、困ったように首を傾げるだけだ。きっと、言いにくい事なのだろう。

 

(一体、誰かしら?)


 妙な胸騒ぎがする。

 乗せられた馬車は座る部分が模様が入ったベロアの生地で覆われカトリーンが乗ったことがないような豪華なものだったが、それを満喫する心の余裕は殆どなかった。


 そうして訪れた王宮の一室。そこで待ち受けていた人物に、カトリーンは衝撃を受けた。


「カトリーン! 心配したよ」


 両手を広げて大仰(おおぎょう)な仕草でカトリーンを出迎えたのは、故郷にいるはずの父親──ホーデンと妹のヘンドリーナだったのだから。

 しかも、ヘンドリーナに至ってはまるでこれから夜会にでも行くかのように美しく着飾っていた。


「お父様、ヘンドリーナ、なんでここに……」

「なんでだって? カトリーンを心配して迎えに来たに決まっているだろう」

「お姉さま、会いたかったわ」


 今まで見たことがないようなにこやかな笑みを浮かべて答えるホーデンと、いかにも感動の再会と言いたげに目元をハンカチーフで押さえてたヘンドリーナを見て、カトリーンは混乱した。


「どういうこと?」

「こちらの閣下から書簡を頂いて、やっとお前の居場所がわかったのだよ。いやいや、突然いなくなってどんなに心配したことか」


 ホーデンは両手を天に向けて背後を振り返る。そこには、無表情のフリージがいた。


「閣下、ご連絡本当にありがとうございました。この子は少し照れ屋でしてね。結婚が決まったらマリッジブルーになって、発作的に家を飛び出してしまったのですよ」


 そして、今度はこちらを振り返ってにこりと笑った。


「でも、もう私が迎えに来たからには大丈夫。さあ帰ろう、カトリーン。トレール伯爵もお前が来る日を心待ちにしているよ。先方には少し待ってほしいと伝えてあるから、心配することはない」


 サーっと血の気が引くのを感じた。

 トレール伯爵とは、カトリーンが嫁がされそうになって家を飛び出した原因にもなった変態ジジイだ。

 つまり、フリージからの書簡を受け取った父は、カトリーンの身元保証の書類を書かないどころか、当初の目論み通りカトリーンを変態ジジイに嫁がせようとわざわざここまで連れ戻しに来たのだ。


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