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【書籍化】エリート外交官は落ちこぼれ魔女をただひたすらに甘やかしたい  作者: 三沢ケイ


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疑惑 2

    ◇ ◇ ◇


 フリージがベルンハルトに報告したその翌日のこと。

 朝起きたカトリーンはいつものようにカーテンを引き、窓を開けた。そのとき、人通りの少ない通りを横切る人影を見つけ、足早に駆け下りた。


「ガリエット! おはよう!」


 玄関を開けて声を掛ける。ガリエットは振り返ってカトリーンと目が合うと、小さく微笑んだ。


「やあ、カトリーン。おはよう」


 カトリーンはその様子を見て眉をひそめた。目の下のくまがまた濃くなったような気がするのだ。玄関前の階段を足早に下りると、ガリエットの元へと駆け寄る。


「ガリエット。顔色が悪いわ。体調が悪いんじゃない?」

「昨晩もよく眠れなくて、疲れが溜まっているんだ」

「昨晩も? 私が渡した薬は飲んでいるの?」

「飲んでいるよ。以前よりはましだけど、やっぱりぐっすりは眠れない」

「……そう」


 カトリーンは訝しげな表情のままそう呟くと、ガリエットへちょっと待っていてほしいと伝えてプルダ薬局へと戻る。台所からクッキーを持ってきて、カウンターの奥の棚からは疲労回復の薬を出した。


「はい、これ。甘いものを食べると疲れがとれるから。こっちは疲労回復に効くの」

「ああ、ありがとう」


 ガリエットは力なく笑うと、それと交換するようにカトリーンに今日の新聞を手渡す。そして、のそのそと歩き始めた。カトリーンはその後ろ姿を見つめながら、眉を寄せた。


「なんで魔法薬があまり効かないのかしら?」


 一〇日ほど前、デニス様の結婚式の際にガリエットから「よく眠れない」と聞いていたカトリーンは約束通り、睡眠に効く魔法薬を渡した。ガリエットによると、きちんと毎日決められた量を飲んでいるという。


 カトリーンが作るのは普通の薬ではなくて魔法薬だ。普通の薬に比べれば遙かに効き目が強く、一日、二日で睡眠障害など治るはずなのだ。それなのに、ガリエットの様子を見る限り、やはりさほど効き目はよくないようだ。


 魔法薬が効かない病気など、カトリーンには一つしか思いつかなかった。


 ──それは魔法を使った『呪い』だ。


 カトリーンの故郷──サジャール国はとても魔法が発展した国だった。それ故、魔法を悪用した『呪い』も多かった。嫌いな相手や、仕事のライバルに呪いをかけて病にさせようとするものは後を絶たない。ただ、同時に呪いに対する防御術も発展しており、各種の解呪の方法が実用化されていた。


「でも、こんなに広範囲にかけることなんてできるかしら?」


 呪いをかけるには、当然それなりの魔力を使う。

 不眠くらいなら大した呪いではないのかもしれないが、それでもこの人数だ。トータルすれば相当の魔力を消費してしまうだろう。そんな膨大な魔力を持った人間がいるものだろうか?


「そう言えば……」


 カトリーンはハッとした。

 前に、フリージが「最近、王宮のワイバーンの怪我が多い」とぼやいていたのを思い出したのだ。大怪我ではないけれど、頻繁に傷ついていると言っていた。


「もしかして──」


 カトリーンは一つの可能性に行き当たった。

 魔法を使うときに魔力の不足を補うために、補助剤を使うことがよくある。その材料に最もよく使われていたのが、魔力を多く持つ生き物の生き血だった。


 基本的にどんな人間であれ、生き物であれ、少なからず魔力を持っている。ただ、その中でも特に魔力が強い生き物は魔獣と呼ばれ、例えば、ドラゴンやワイバーン、フェニックスなどはこれにあたる。


 ハイランド帝国は最近になって諸外国との交流が盛んになったという。人の出入りも増え、この知識を持つ人間が何か悪だくみをしようとしている?

 

「チティック薬局の関係者が?」


 もしそうだとしたら、病気や怪我を治す手助けをする薬屋としてあるまじき行為であり、許すことはできない。カトリーンは顔を上げると、真相を明らかにすべく外へと飛び出した。



 問題のチティック薬局に行くと、まだ朝早いにも関わらず、そこには今日も長蛇の列ができていた。

 皆、目の下にくまを作って気だるげな表情をしている。カトリーンはとりあえず、そこに並んでみることにした。問題の治療薬を手に入れようと思ったのだ。


 前には一〇人程の人が並んでいる。待っている間、カトリーンはぼんやりと周りを眺めて過ごしていた。薬局の近くには二つ井戸があり、無料で使えるようになっている。そこの水を汲んで飲んだり、バケツに入れて運んだり、子供が水遊びしたり……。

 そんな中、カトリーンはふと違和感を覚えた。


「あの人、なんでわざわざ並んでいるのかしら?」


 ちょうどチティック薬局から出てきた店員が、すぐ近くにある誰もいない井戸を素通りして、別の人が今使っている井戸へと水を汲みに行ったのだ。

 それは本当に些細なことで、並んでいるといっても一人だけなので、特に誰も気に留めている様子もない。


 そうこうするうちに列が進み、カトリーンの順番が回ってきた。

 カトリーンは「眠れない」と前の人と同じことを告げ、薬を受け取る。薬はカトリーンの処方するものの三倍近い値段がした。


「高いわ」

「とても希少だからね。いらないのか」


 対応する男性は素っ気なくいう。カトリーンは慌てて「いります」とそれを受け取った。



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