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【書籍化】エリート外交官は落ちこぼれ魔女をただひたすらに甘やかしたい  作者: 三沢ケイ


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予期せぬ再会 1

 テテの背に乗ること一〇分ちょっと、カトリーンは王都郊外の森の上空を飛んでいた。眼下に建物はなく、どこまでも緑が広がっている。遥か向こうにはハイランダ帝国一の大河──トネル川が見え、その周囲には黄金色に作物が実る畑が広がっている。

 

 テテが徐々に降下を始める。上空から見ると、こじんまりとした湖があるのが見えた。


「今日はいつもと違う場所なのね? 素敵なところだわ」


 湖のほとりの草原に降り立ったカトリーンは、思わず感嘆の声を漏らす。

 上空から見るとあまりわからなかったが、湖は驚くほどに透き通っていた。カトリーンがいる草原の反対側の畔はぎりぎりまで木々が生えており、水辺に優しい緑が広がっている。その合間から光の筋が差し込み、幻想的な世界を作り出していた。

 目を凝らせば水底にはところどころ砂が揺れている円状のものが見える。もしかするとこの湖の水源は湧き水なのかもしれない。


「これはいい薬草が採れそうな環境だわ。早速探さないと」


 カトリーンが今日探そうとしているのは『オーギ』という低木の葉と『マエラダケ』というキノコの一種だ。痛み止効果や風邪の症状によく効く植物なのだが、水が澄んだ場所で育ったものは特に品質がよいとされている。

 どちらに行こうかと辺りを見渡していると、少し離れた場所にいたテテがこっちへ来いと言いたげに「ギャオ」と鳴いた。カトリーンは慌ててテテの後ろを追いかける。すると、そこには目的のオーギの低木が生えていた。


「わあ。ありがとう、テテ!」


 カトリーンがテテを撫でると、テテはグルル……と喉を鳴らして嬉しそうに目を細めた。


「すぐに摘むから、そこら辺で遊んでちょっと待っていてね」


 カトリーンはそう言い残すと、早速オーギの葉を摘み始める。葉は尖った楕円形で、縁がギザギザした形をしているが、触るととても柔らかい。素手で引きちぎると、レモンのような独特の香りがふわりと香った。夢中でそれを摘み終えると、頃合いを見計らったようにテテが顔を寄せてきた。


「どうしたの?」


 トントンとカトリーンを呼ぶように顎で肩を叩いてきたテテを見上げると、テテは口からペッと何かを吐き出した。地面にカラフルな紐のようなものが転がる。


「まあ! ナイアスネークね? ありがとう!」


 ナイアスネークは疲労回復の魔法薬に使用される材料の一つで、水色と黄色のまだら模様をした蛇だ。まだ故郷から持参した中に干した欠片が残っていたけれど、近いうちになくなるのは目に見えている。カトリーンはありがたくそれを籠に入れる。

 その後、カトリーンはテテの案内でマエラダケもすぐに見つけることができた。


「よし! 今日はこんなところでいいかな」


 籠にぎっしりと詰まった薬草の数々。ついでに薬の原料になる蛇やトカゲもテテが見つけてくれたので、大収穫だ。

 見上げれば木々の合間から見える太陽はだいぶ高い位置にあった。朝食を食べてすぐにプルダ薬局を出たのに、気づけばもうお昼時だ。


「そろそろ食事にしようかな。湖もあるしちょうどよかったわ」


 カトリーンは元来た場所に戻ると、持参した袋から小鍋を取り出す。遅くなることも想定して、調理道具を持参したのだ。

 近くにあった石を積み上げて即席の調理場を作ると、そこに小鍋を置く。そして、乾いた木を二本組み合わせて擦り合わせ始めた。


「これ、いつまでたっても苦手なのよね……」


 故郷にいたとき、火おこしはカトリーンの仕事だったけれどなかなか上手く火を起こせず、いつも四苦八苦していた。久しぶりにやったけれど、やっぱり上手くできない。


 そのときだ。テテがあんぐりと口を開けて、次の瞬間即席の調理場の薪にポッと火がついた。


「え!?」


 カトリーンはその状況に目を瞠る。


「……テテ、火を吐けるの?」


 テテは首を傾げて「ギャッ」と鳴いた。

 サジャール国にいたときは厨房で火おこしをしていたから、テテの前ではやったことがなかった。


 ワイバーンが火を吐ける? そんなワイバーン、今まで出会ったことがないし、聞いたこともない。


 けれどテテはふつうならないはずの前脚もあるし、ちょっと特殊な子だ。きっとこれも特殊事例なのだろうと、カトリーンは納得した。


「ありがとう。助かるわ」


 今日薬草を見つけるついでに収穫したガーリックを手持ちのナイフで刻んで持参した油と一緒に鍋に炒め、そこにこれも今日ついでに収穫したキノコをカットして放り込んだ。

 熱せられたガーリックの香ばしいかおりが辺りに漂い、食欲をそそられる。最後に塩と胡椒で味を調えて、出来上がりだ。

 テテは眺めていることに飽きたのか、いつの間にかどこかへ飛んでいってしまった。


「よし、できた!」


 これを今朝のご飯の残りのパンに乗せれば──。


「何をしているの?」


 嬉々として特製キノコパンに齧りつこうとしていたカトリーンは、突然背後から話しかけられてビクンと肩を揺らした。恐る恐る背後を振り返ると、そこには若い男が立っていた。



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