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神対応

 山は自然の恵みの宝庫だ。

 例えば木。焚きつけ用の薪には欠かせないし、家や家具作りにも利用できる。

 例えば山菜。少々アクが強い物が多いが、扱いに慣れれば食卓の主役にだってなれる。

 例えば鳥獣。その毛皮も、お肉も、骨も、その身のすべてが生活のための糧となりうる。

 その他諸々の、便利なものの集いどころ、それが山という場所である。


 山で暮らしているクリスたちは、もちろん山の恵みを大いに活用している。

 畑仕事や村での取引では手に入らないものを求めて、しばしば山中を歩きまわっている。


 今日のクリスは山を登っている。目的は山頂付近に生えている木から木の実を採取することである。

 彼は短剣と手籠を持って、道なき道を軽やかに進んでいく。その間はなんの障害にも遭うことはない。英雄を止めるもの無し。


 何事もなく山を登りきって目的地にたどり着くのとほぼ同時に、竜モードのアデアナが飛来した。今日は別行動をしていたのだが、木の実採りは二人でやるために待ち合わせをしていたのだ。

 彼女は音も無くやわらかに着地して白の翼を収める。竜の魔法で見上げるような巨体を人間大にまで縮めてから、てくてくクリスに寄っていった。


「来たよ」

「おう。時間どおりかな」


 クリスが手籠を無造作に放ると、アデアナはその取っ手を器用にくわえて持つ。それから二人は木陰に立って、クリス家よりも背の高い大きな木を仰ぎ見た。

 陽の光を遮らんばかりにわさわさと茂る緑の間で、つまめる程度の大きさの赤たちが、己の存在を主張するかのようにユラユラと揺れている。

 この赤い実はあっさりとした甘みがあって、潰してジャムなどにするとうまいのだ。ド田舎ではなかなか手に入らない、貴重な甘味のひとつである。


「よし、採るか。準備はいいな?」

「ひーよ!」


 アデアナは籠をくわえたまま元気良く返事をする。空気が漏れてしまっていて響きがマヌケだ。

 クリスは数歩後ろ歩きしてから頭上の実を見据えて短剣を構える。


「行くぞッ!」


 クリスは気合の掛け声とともに勢いよく突きを放った。狙いは枝と木の実を繋ぐヘタの部分だ。

 聖剣技によって射程が何十倍にも伸びた一閃は、狙いたがわずヘタだけを切り裂いた。

 木から切り離された一つの木の実は、重力に従って地面へと落ちてゆく。その様子を凝視していたアデアナは、瞬時にその落下地点を予測して回り込むと、籠で木の実を捕らえてみせた。


「まだまだいくぞ、覚悟しろよ」


 クリスは微妙に不穏な響きの言葉を吐くと、キレの良い体さばきから輝く三連突きを繰り出した。

 今度も見事にヘタだけを切り裂いてみせたが、穿り落とした木の実の位置は互いに五歩ぶんは離れあっている。すべて捕らえるのは難しそうだ。

 だがしかし、アデアナは竜族の圧倒的フィジカルを駆使して駆け回り、すべての実が地に落ちる前に捕らえきってみせた。


 あごを上げた得意顔をしているアデアナは、かかってこいよとでも言いたげにクイクイ指で手招きする。

 クリスは望むところだと好戦的に笑ってみせ……たと思ったら、予備動作無しの弾けるような十連突きを繰り出すと、十個の木の実を無作為な位置から同時落下させた。いくら竜族でも、これをすべて捕らえることは厳しいか。

 だがそれでも、アデアナは慌てることなく冷静に対処してみせる。

 右の翼の羽ばたきで実を吹き飛ばす。左の翼を張って実をすくい取る。長い尾を振り回して実を弾き飛ばす。目にもとまらぬ速さで舞い踊ることによって実たちを残さず打ち上げる。

 空中で方向転換させられた木の実たちは、そのすべてがアデアナに向けて落下していき、吸い込まれるかのように籠へと飛び込んでいった。


 これがクリス家名物、木の実集めゲームの姿である。娯楽の少ない山での貴重な遊びの一つだ。

 クリスは捉えにくいように木の実を落とす。アデアナは木の実が地面に落ちる前に捕らえる。勝敗は地面に落ちてしまった木の実の数で決まるが、勝ち負けとする具体的な数はその日の気分で変わる。今回はクリスに分があるという雰囲気だ。

 そんな和やかな競技を続けていって、五日分ほどの量の木の実が集まったところで二人は満足したので、そこでゲームセットとなった。


「腕を上げたな」

「今日も切れ味冴えてたね」


 二人はニヤリと笑いながらサムズアップして、互いの技術を褒めあった。

 

「さてと、そろそろいい時間だし、もう帰るとするか」


 クリスは西の空をやおら仰ぐ。そこに浮かぶ日はまだまだ高いが、だらだら過ごしているとすぐに日が暮れてしまいそうなくらいの微妙な時間帯だ。

 これからなにかをやろうとしても中途半端に終わってしまいそうなので、本日のお出かけはさっさと切り上げることにした。


「そうだね。ちょっと待ってて」


 アデアナは首を伸ばしてクリスに籠を渡すと、そそくさと木の陰にまわって身を隠す。

 それから少しすると、人間の姿になったアデアナが陰から出てきた。竜の姿のままで家を出入りすると目立ちまくるので、帰るときはかならず変身してからにしているのだ。


「お待たせ。じゃあ帰ろう」

「ああ」


 もうここに留まる理由はない。二人はお土産片手にその場をあとにして、家に向けての下山を始めた。




 帰りの道はあえて行きとは違う道を行く。遠回りになるのだが、その行動には意味がある。山菜やキノコなどが生えている場所を新しく見つけるためだ。

 足元に注意を払いながらゆっくりと歩いていると、朽ちて倒れた木からキノコが生えているのを見つけることができた。しかも食べることができる種類だったので、喜んで採取した。

 その量は四食ぶんくらいか。ほくほくの収穫ぶりに二人とも大満足である。

 他にもなにか無いかと探しながら歩くが、新しい発見がないまま歩き続けるうちに、いつの間にか家についていた。


 二人は軽く敷地を眺めたあと、まず畑をチェック、問題なし。何者かに荒らされたような跡はなく、育ちかけの作物が青々と元気に実っている。収穫のときはまだまだ先だ。

 次に我が家を観る。こちらも異常なし。長い間雨風にさらされ続けてきたため全体的に色あせて痛みが目立ってきているが、まだまだ通常の補修でだいじょうぶ。

 出かけている間に来訪者がやって様子もなし。監視用魔法人形のピーちゃんは、誰も来ていなかったことを態度で示した。

 異常がないことを確認したら、食糧庫に寄って持ち帰った荷物を置いていく。収穫したキノコのすべてと木の実の四分の三を棚に置いた。残りは今日のおやつだ。


 これで今日やるべき外の用事がすべて完了した。あとはもう食事時以外に家から出ることはないだろう。

 二人して気分良さそうに鼻歌を歌いながら家に入ると、さっそくいい気分を台無しにさせてくれるものと遭遇した。


「やあ、おかえり」


 中肉中背で地味な顔の男が食卓の椅子にもたれている。彼はとっても気さくそうに手を振ると、帰ってきたクリスたちに迎えのあいさつをした。

 服装は庶民が着るような安っぽいもの。髪も瞳の色も良く見かけるやつ。見た目は記憶に残らないような通行人だ。見た目だけは。

 家には侵入者防止用の魔法が仕込まれていたのに、彼はそれを突破したうえで余裕の態度でくつろいでいるのだ。間違いなくただ者ではない。


「あんた……神様か?」

「二十年ぶりかな、クリスくん。元気そうで何よりだ」


 そう、正しく尋常の者ではなかった。彼は主神リダナ。この世界で信仰されている神々の長なのだ。

 クリスがまだ子どもだったころ、聖剣技をものにするためにリダナのもとで修業をしていた時期があったので、一目見ただけでその顔を思い出すことができた。


「えっ、神様って……えっ? クリスって知り合い? 神様と?」

「そうだよ。俺がガキだった頃、親父に剣の師匠として紹介されてな、手ほどきをうけたことがあったんだ」

「えー、そんなことがあったの?」


 なんかいきなり神が現れたのでアデアナは思いっきり動揺するが、軽く説明を受けただけで落ち着きを取り戻した。見事な適応能力である。


 リダナは温和そうに微笑んで指を鳴らすと、二人の目の前に金属椅子がぱっと現れた。それから手をやって着席を勧めてくる。

 本来なら家主のクリスがとるべき行動のような感じだが、二人はとりあえず素直に座っておいた。


 神と英雄たちは、テーブルを挟んで向かい合う。


「勇者になれというならお断りだぞ」


 クリスの開幕の一言がこれだ。神を前にしても一切自重せずに、自分の意志を真っ先に伝えるのが英雄流である。

 思いきり無礼な発言をかまされても、リダナは微笑を浮かべた余裕の対応をする。


「確かに話すことは、きみが勇者として仕事をすることを拒否ってる件についてだが、きみに勇者になれとか言いにきたのではないから安心しなさい。むしろきみが勇者として働かずにすむようにするために相談をしに来たんだ」

「ふーん」


 そんな穏便なことを言われても、クリスはぴくりとも表情を動かすことなく、目力をきかせながら威圧的な仕草で腕と足を組む。

 ここで相手の話を信じて心の隙を作ったりすれば、そこに付け込んでくるのは間違いないので、ボロを出さないように警戒しているのだ。

 そんな意固地なクリスの姿勢を見て、リダナはあいまいな笑顔を浮かべながら肩をすくめていた。


「これって、神のあんたがわざわざ出張ってくるようなことなのか? 大げさすぎる気がするんだが」

「確かに普段ならこんなことで出てきたりはしないよ。世界への不要な干渉は避けたいからね」


 彼は相応の代償を用意されない限りは、人間のために力を振るうことはない。その力が強すぎるので、世界に与える影響が大きくなるからだ。

 十数年前の大戦時は、世界存続の危機とかで思いっきり力を振るいまくったりしたが、それは特別中の特別の例である。


「だけど、今回の件をどうにかできないかって息子から直接相談を受けたんでね、さすがに無視ができなくなったんだよ」

「息子って誰のことだ?」

「きみのお父さんのことだよ」

「ああ……」


 クリスの育ての親である竜王ナスリークは、神によって生み出された竜なので、リダナの息子という扱いである。

 義理の父が義理の祖父に泣きついたという話だった。


「いやあ、きみの身の回りで起こったことは全部調べさせてもらったよ。災難だったねえ、あっちこっちの筋から引っ張りだこにされて」

「まったくだ」


 クリスを働かせるためだけに、各種族の王までもがド田舎にやってきて襲撃してきたのだ。豪華な顔ぶれにもほどがある。

 英雄はちょっぴり疲れた感じでぼやく。傍で観ている魔法使いは、黙って成り行きを見守る。


「十年前、きみはこの世界に攻めてきた外界の神を撃退して、すべてを救ってみせた。それだけの功績があるんだから、私としてもきみの意志を尊重するつもりでいるさ」

「外界の神……? 外界ってどういう意味ですか?」


 黙って話を聞いていたアデアナがそこで手を挙げて質問を挟んでくる。

 リダナは温和な笑みを浮かべてそれに答えた。


「この世界は、竜族が住まう天界、人間族が住まう人間界、魔族が住まう魔界の三つで成り立っているというのが常識なんだけど、実はそれとはまったく異なる世界がたくさんあってね、それを外界と呼んでいるんだ。このまえこの世界に攻めてきた神は、その違う世界のうちの一つを支配する者だったんだよ」

「あ、はい。そうなんですか……」


 アデアナは何がなんだかわからない風に気の抜けた声を漏らす。想像をはるかに越える回答をされて思考が停止しているようだった。

 別世界がどうのと言われて、すんなり理解できるような者がどれほどいるかという話だが。


「まあ、これは神の領分だ。一介の被造物であるきみたちが理解する必要はないことだよ」


 リダナはそれだけ言って、クリスへと向き直る。


「きみは多くの犠牲を払いながらとんでもない敵と戦い続けてきた。疲れ切ってしまったことはよくわかる。私もきみを休ませたいと思っているよ」


 そこでリダナは言葉尻に『だが』をつけて、それを聞いたクリスは『来たか』とささやいて眉間にしわを寄せる。英雄はこういう言葉に敏感だ。


「きみが休んでいることで起きる問題を放置したくないのも確かだ。この世界はようやく前の侵略の被害から立ち直って安定してきたんだからね、あまり波風立てたくなくもある。そこで私はね、きみが勇者にならなくてもなんとかなるプランを考えてきたんだ」


 リダナは指を自らのこめかみにグリグリあてながら事案をスラスラと語る。


「ほう?」


 クリスもこの話には興味を示す。アデアナは黙して動かない。


「まず、儀式についてはしばらく見送ってもらうように私が説得しよう」

「そりゃ思い切ったことを。それで代わりに何をさせようというんだ?」


 人への過干渉を避ける神がここまでやると言うのだ。当然クリスにもなにかをやることを求めてくるだろう。

 穿った問いかけに対して、リダナは指揮者のように指で空を撫でたあと、自信に満ちた眼差しとともにクリスを指さした。


「きみの代わりを立ててもらいたい」

「“代わり”とは具体的にはなんだ?」

「きみの子どもだね。きみの子が戦える歳になったら、この私が直々に鍛えよう。そして一人前になったら、きみの代わりに勇者役を務めてもらうんだ」


 有り体に言うと、代わりに子どもを働かせろ、ということだ。割とひどい提案内容である。

 だがしかし、クリスはまんざらでもない反応をする。


「そうか、俺が働かなくていいならそれでもいいが」

「あのね」


 クリス的に絶対譲れない点は、“自分が勇者として働かないこと”だ。その条件に当てはまらなければ、こんな案も割とありだったりする。

 静観していたアデアナも、これにはさすがに突っ込みを入れざるを得なかった。


 そこでリダナは軽快に手を叩くと、意地の悪い顔をして二人を交互に見る。


「そういうことだからきみたち、そろそろ結婚しようじゃないか。もう十年も一つ屋根の下で暮らしてるのに、やることやってないとかあり得ないと思うよ」

「ですよね!」


 これにアデアナがものすごく良い反応を見せて、獲物を狙う肉食獣のごとき勢いで話に食らいついた。


「クリスったらいつまで経ってもなにも変わらないんです。このままクリスに先立たれて終わるかもって、心配になってきてたんですよね」


 テーブルに身を乗り出しながら決断的に握りこぶしを震わせて、ここぞとばかりに燻っていた心を一気に大炎上させる。

 確信的な笑みを浮かべるリダナも、楽しそうに燃える心を煽りに煽る。


「だよねえ。さすがに同棲十年はないね、私としては」

「やはりそうでしたか! わかってもらえてとても嬉しいです!」


 アデアナは感涙すらして、神の手を握りながらなんどもなんども頭を下げる。

 彼女は今までクリスに合わせて静かに暮らしていたが、いろいろとため込んでいたらしい。

 リダナはその猛烈な勢いを優しく受け止めて、はいよとクリスに投げ渡した。


「というわけで彼女は超乗り気だったようだし、いい加減身を固めちゃいなよ」

「別にいいけど」


 しれっと放たれたクリスの爆弾発言に二人はこけた。

 アデアナは少し乱れた髪を整えつつ深呼吸をして気持ちを落ち着けると、クリスの肩をがしりと掴んで強引に向き合う。


「ええと、確認したいことがあるんだけど、ちょっといい?」

「いいぞ」

「クリスは今、身を固めろと言われて、『別にいい』と言ったね。それは私との結婚了承ということでいい?」

「だからいいと言っただろ。だいたいそれで俺たちの関係が変わるわけじゃあないしな」


 クリスは完全なる真顔のまま、平然と言ってのける。自身の発言の意味が理解できているのかが不安になってくるレベルのあっさりさだ。

 前向きな答えを求めて押してみたら勢い余って突き抜けた感に、アデアナは逆にうろたえてしまう。


「ええと、確かに関係は……いや、変わるよ。神様は子ども作るために結婚しなさいっていってるんだよ? どう考えても変わるよ? クリス、ちゃんと物を考えて発言してる? 人生の節目を迎えてるよ? というか私は竜だよ? 竜の血って人間の血よりずっと強いから、生まれてくる子はハーフどころじゃなく竜になるんだよ? 六か七通りくらいの意味でだいじょうぶ?」

「いやいや、アデアナちゃん、落ち着くんだ。冷静になって考えるんだ」


 大混乱の末、考え直しを迫ってまくしたて始めるアデアナだが、それはリダナの神なる声が止める。そして神は至極穏やかな、しかしいたずらっぽい声で啓示を与える。


「ここは逆転の発想だ。別にこのまま話を進めればいいやと考えるんだ」

「なるほど、そうですね!」


 クリスは嫌だと言ったら絶対に聞かない男である。彼の気が変わる前にすべての行動を終えておくのが最善手なのだ。

 アデアナは得心がいったようにさっぱりした笑顔でうなずくと、そこでようやく普段の落ち着いた様子が戻ってきたらしく、しずしずと着席した。


「質問は終わったか?」

「うん」

「そうか」


 今の話を聞いてもクリスは動じない。鋼すぎる心を持つ英雄がここにいる。あるいは望むところなのかもしれない。


「はいはいはい、進退が決したところで、大切なことを確認をさせてもらうけどね」


 ちょっぴりしらけた風な顔をしたリダナは、パンパンと手を叩いて場の注目を集めると、急に真面目な顔をした。


「きみたちの子どもを身代わりにする。その代わりに私が問題を解決しよう。さて、二人とも。この策に乗れるかい?」


 全てを見通す神の慧眼を向けて、覚悟を問うように低い声で告げる。

 この提案を飲めば、すべてを己の子に丸投げにすることになるのだ。これを良しして受け入れるのかと、深深として厳かに問いかける。


「さっき言った通りだ。俺が働かなくていいなら、それでいい」

「子どもが神様のお墨付きをもらえること確定とかご褒美です」


 重々しい質問に対する二人の答えは、即時かつ軽いものだ。

 リダナはとっても微妙そうな苦笑いをするが、特になにも言ったりはしない。とりあえず二人の意志を受け入れたようだ。


「わかった、じゃああとは私に任せておきなさい。きみたちの子どもが育ったときにまた来るよ」


 全ての用事を終えたリダナは指を鳴らすと、その姿はとたんにかき消えた。


 残された二人は、半ば呆然として黙り込む。

 奇妙な沈黙がしばらく続いたあと、クリスがふっと息を吐きだして立ち上がった。


「さてと、今のうちに増築プランを組んでおくか」

「なんでそこまで淡白になれるかな」




 それから十数年後、英雄と神竜の血を引く少年が勇者として名乗りをあげた。

 両親の長所を受け継いだ彼は、人の姿では聖剣技と最高位魔法を振るい、竜の姿に戻ればフィジカルとブレスで敵を圧倒するという究極生物であった。

 純粋な戦闘力ではクリスを超えることはかなわなかったが、総合力ならばクリス並みと評されたので、大英雄クリスに代わる勇者として無事に認められた。


 彼の活躍によって魔王継承の儀式は滞りなく完遂されて、人間界と魔界の平和は無事に保たれることとなった。

 その出来事は、隠居生活を送っているクリスたちにはなんら関係ないことだった。





 村はこれからも平和である。

次話の後日談で終わりです。

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