四天王襲来
ここは平和なド田舎の山。
今日は雲一つない晴天だが、遮るものなく降り注ぐ日差しは適度に暖かい。柔らかな真昼の光があちこちに涼やかな木漏れ日を作ってまだら模様を描いている。いかにも絶好の行楽日和といった風景で、誰もが心地よいと思えるであろう空気が広がっていた。
穏やかな空の下、獣たちは嬉しそうに山を駆け、野鳥たちは持ち良さそうに舞い飛びながら愛の歌を交わす。山間をゆるやかな吹き抜ける風の音も、どこか浮かれているかのようだ。
それらに混じって、ガリガリとなにかを荒く削る無粋な音が響く。そんな音がするのは、切り開かれた山の一角に立つ、元英雄クリスの家からである。
今日のクリスは、居間を占有して日曜大工に勤しんでいる。
彼が作っているのは“棚”である。そこらの木を切り倒して造った木材を部屋に持ち込んで、部品の加工を行っている。
最近になって調理器具置き場の棚がぐらついてきた。彼は棚の修理ではなく、一から作り直すことを思いたったので、家具づくりに挑戦している。
彼は以前と同等のものでは満足できない。せっかく一から作り直すのだから、前よりも収納力が高く、使いやすく、見栄えもいい物を目指している。が、なかなか良い出来にならずに苦戦している。
クリスは物づくりの専門家ではないのだ。どうしても試行錯誤が必要になってやり直し回数がかさんでしまうため、とにかく時間がかかってしまう。
だがそれが良い。時間がかかるのが良い。
有り余る時間をたっぷり使って、自分が求めるものをひたすらに追及する。それを成し遂げることができたときの快感は、いつだって新鮮で気持ち良いもの。そんなものを求めているからこそ、クリスは地道な作業を無心で続けるのだ。
と、作業に夢中になっているところに、アデアナの私室の扉が開くと、その隙間から白い鱗をもつ竜の頭が出てきた。
「ねえねえクリス」
人間と同じくらいの大きさの竜は、鋭い牙のある大きな口を控えめに動かして、アデアナの素朴な声で呼びかけた。
本来より小さいが、これこそがアデアナの真の姿である。クリスが作業に専念している間はやることが無かったので、変身魔法を解いてくつろいでいたのだ。
人間用の家では人型の生き物の姿でないと非常に過ごしづらい。そのために普段は人間に化けているのだが、姿形を完全に変えてしまうような変身魔法はそれなりに高度な術ゆえに、維持し続けると消耗していくので地味に辛いことだ。なので私室にいる間は、いつも元の姿に戻って心身の回復に努めている。
「ねえってば。お客さんが来たみたいなんだけど」
クリスは呼びかけに手を止めると少し顔をしかめて、『またか』と毒づいた。
最近になって、平和な隠居生活を壊そうとするお客さんが訪問してくるようになった。ここ一か月で二回やってきたが、二度あることは三度あるというので、確実に三回目もやってくるだろう。それが今このときか。
クリスはいったん作業を中断して、窓から外をのぞき見る。アデアナも竜姿のままで部屋から出て、ちょっと窮屈そうに翼と尻尾をすぼめつつクリスの隣に並ぶ。
そこで、クリス家に真っすぐ向かってくる影を目にした。
「これが英雄度どのの隠れ家か! 世界を救った男の家にしては、思ったより小ぢんまりとしているではないか!」
赤光りするキレた筋肉と雄々しい角を輝かす魔人族の大男が、クリスの家を見ると感極まったというふうに想いを漏らす。語りがいちいち大声で騒がしい。
「聞いた話じゃあアイツ、まったく話を聞かないそうよ。騎士団長も追い払っちゃったとか。フフッ、難しい仕事になりそう。まさにアタシたち向きね……!」
魔法使いの装束を身にまとう人間の女が、節くれだった大きな杖を握りしめる。家を見るその目つきはとてもキツい。
「嫌がってんだから、そっとしておけばいいんじゃねえのかなあ……」
女よりも背の低い人間の小男が、手を後ろに組みながら気乗りしなさそうにつぶやく。いまいちやる気が無いようで、布マスクの下であくびをしている。
「えっと、俺っちってこれから何すればいいんだっけ……」
大きなカバンを背負う巨人族の大男が、所在なさげに魔人以上の巨体を揺らす。ゴーグルに下に覗く一つ目は頼りない。
そんな何もかもがデコボコすぎる四人の姿を見たクリスとアデアナは、彼らが見知った者たちだということにすぐ気付いた。
「ねえ、あいつらって“四天王”だよね?」
「ああ、そうだな」
「確か解散したんじゃなかったっけ。なんでまた集まってるんだろ」
アデアナは大きな目をぱちぱちとまたたかせると、考え込むように竜の鳴き声を漏らす。
「……チッ、俺を働かせるために奴らを集めたんだろうな。王様も魔王も本気みたいだ」
クリスは忌々しげに舌打ちすると、まだまだ面倒ごとは続きそうだと言ってため息をついた。
“四天王”。十数年前の大戦時に存在した最精鋭部隊である。当時の王国・魔王連合軍の中で最も優れた実力を持っていた者たちで構成される。
ただしクリス一行は別格扱いだったので除く。
彼らは戦いの終わりとともに解散して、それぞれがあるべき場所へと帰っていったはずなのだが、今、久しぶりに再び集っている。その理由と目的は無論、クリスに勇者として働くよう説得するためだろう。
「クリス、どうするの? 四天王クラスになっちゃうと、さすがに力づくで追い払うと問題になると思うけど」
アデアナは真っ赤な眼をクリスに向けて問う。その縦長の瞳はちょっと心配そうに揺らいでいる。
「そうだな、じゃあ居留守しよう」
クリスは一瞬だけ考える素振りを見せたあと、とりあえずといった感じで工作を再開する。ただし、今度は極力音を立てないように。
アデアナは突っ込まないが、今日の散歩はお預けかなと、ちょっと不満そうにぼやいた。
クリスに居留守を決め込まれていることなど露知らず、四天王はクリス家の正面へ意気揚々と立った。
まず、魔人が先陣を切った。ドアの前に張り付くと、人間の大腿よりも太く逞しい腕を振り回してドアを慌ただしく叩く。
「おい! クリス! 現役復帰しろよ! どうしてそんな若いのにリタイアしてんだよ! お前の人生これからが頑張りどきだろ! その頑張れるチャンスを自分から捨てちゃってどうすんだよ! おまえ、少し自分の立場について考えてみろって! おまえの力を求める人はたくさんいるんだぞ! おまえが立ち上がらなきゃどうするんだってばよ! もうちょっとやる気出せよ! 熱くなってみろって!」
炎の猛撃に勢いをつけるように、魔法使いが乱暴にドアを蹴りまくる。
「この! このーっ! このクソクリスっ! メストカゲなんかといっしょになりやがって! どうしてアタシを選ばなかったのよォォォォーーーーッ! ちくしょーっ! この野郎! アタシをなんだと思ってんのよ! この勘違いで引きこもりの大ボケがッ! ちょっと英雄やってるからって調子に乗ってんじゃあねーわよッ!」
開幕から全力で飛ばし始めた二人を見て、小男が見事にずっこけた。
それからすぐに立ち上がると、懐から鞭を取り出して、荒ぶる二人の首に引っ掛けて力づくで引き倒した。
「なにやってんだおまえら! そんなことをしたって無駄だろ!」
気道をやられてせき込むふたりを見下ろして、小男はあきれ果てた様子で言い放つ。
彼らがやってくる以前にも兵士や騎士が説得しに来たが、まったく聞き入れられることなく追い払われている。わめいたところでどうにかなる相手ではないとわかりきっているのだ。
すぐに立ち直った魔人は、しかし口から炎を漏らしながら小男に食って掛かる。
「無駄だと? 確かに前の奴らはだめだったかもしれないが、俺たち四天王の説得なら通じるかもしれないじゃあないか! やる前から諦めるとは何事だ! 反省しろ!」
「暑苦しいわ。相変わらずめんどくせえな、お前」
なんか説教しだした魔人に、小男はうっとうしそうに渋面を作る。
遅れて立ち直った魔法使いも、敵意に満ちた目を向けながら刺々しい言葉を小男にぶつける。
「なに? このチビのオッサンは。仕切ろうとしちゃって。なにかいい案でもあるの? あるなら言ってみなさいよ、今すぐ!」
二人の仲間から責められる小男。だが、彼は動じるどころか余裕の笑みを浮かべると、不遜な態度で魔法使いの問いに答えた。
「ふん、俺はおまえらと違ってちゃんと考えてるさ。まず毒を」
「ねえよ」
「おい! まだ何も言ってねえぞ!」
が、小男の口から“毒”の単語が出た瞬間、全員がド真顔で否決することで即刻廃案された。さすがに重要人物に対して毒を盛る案を採用するほどはっちゃけている者は、発案者を除いていないようだった。
抗議し返している小男を抑えて、今度は巨人がつぶらな単眼を見開いて、がっつくようにハイハイ手を挙げながら自己主張し始める。
「へへへ、みんな聞いてくれ。俺っちにいいアイデアがあるんだよね」
「ん、なにか考えたの? アホのアンタが」
魔法使いはうろんげな視線を巨人に向けつつ、思いっきり失礼なことを口走る。
巨人はサラっと飛び出てきた侮辱発言に構わずに、背負ってたカバンを下ろすと、その中から大きなゴザを取り出して地面にばっと敷いて、さらにその上へ酒やら食べ物やらを並べていく。
その量はかなり多く、四天王全員が酔いつぶれて腹がはちきれてしまっても余りそうなほどにある。
その食料たちの群れを前に、彼は堂々と胸を張って自案を語った。
「ここで宴会しようぜ! 楽しく騒いでるところを見せつけりゃあ、あいつだって我慢できずに飛び出してくるに違いないぜっ!」
「えー……」
人間二人は引き気味だが、魔人だけは違う反応で、感心したように唸る。
「なるほど! はるか東の国の神話に、引きこもった神を屋敷から引きずり出すために宴の席を開いて釣り出す、というものがある! それと同じ理屈か! ラフレシアン、おまえ頭いいな! それでいこう!」
「うへへ、褒めてもなにもでないぜ!」
ちょっとばかし脳の容量を筋肉に持っていかれている模様の人外ふたりは、宴会をする気満々のようだ。
人間ふたりは渋りはするが、なんだかんだで巨人の案を受け入れる。結局彼らも、クリスを説得するための妙案は持っていなかったのだった。
四天王はゴザの上に腰を下ろすと、それぞれの体格に合わせた大きさの木製ジョッキをとって、互いに酒を注いでいく。
酒が行き渡ったことを確認したら、全員が示し合わせたかのように同時に動くと、ジョッキを持つ手を高々と掲げる。
「よーし、始めるぜ! そうだなあ、十年くらい平和が続いてることと、俺たちが無事にまた会えたことを祝して! かんぱーい!」
「かんぱーい! イェーー!」
巨人の陽気な音頭とともに、中身を飛び散らせる勢いで互いのジョッキをぶつけ合う。山中の宴会が始まった。
開幕の一飲み。わずかな無言の時間のあと、それぞれが爽快な息を漏らす。
「ぐはぁーっ! こうしていっしょに飲むのもほんと久しぶりだな!」
「昔は戦場で士気を高めるために無理矢理って感じで飲んでたけど、こうして気兼ねなく飲めるのはいいもんねえ」
「それ、たくさんあるからどんどん飲めや!」
誰かの酒が減ったことに気付いたら互いに注ぎ足し合う。また減れば速攻で注ぎ足すのを繰り返して、飲む勢いを緩ませない。
酒のつまみに向いた味の濃い食べ物が酔いを促進して、彼らの腹と頭はまたたく間にアルコールで満たされていく。
彼らが単なる酔っ払い集団と化すのに、それほど時間はかからなかった。
「あたしはねー、修行不足を感じたからねー、賢者の山に住んでる師匠のところに行って修行し直してたのよ。今のアタシならアデアナのやつにも一泡吹かせられるかもっ!」
「俺っちはな、ずーっと魔界の開拓地巡りをしてたんだ。家建てたりとか道作ったりとか、毎日やることが変わってくから大変なんだけど、やりがいある仕事だぜー」
「俺は……なぁ……あふぁ……」
酒にそれほど強くなかった小男がダウンして夢の世界に突入すると、赤ら顔の魔法使いがふと何か思いついたらしく、ばっと勢いよく立ち上がると皆に告げた。
「ねえみんな、もうちょっと賑やかなほうがいいと思わない? 一人潰れてちょっちー寂しくなっちゃったしさ。テキトーに人連れてきていっしょに楽しむのはどうかなー?」
「なかなかいいこと思いつくじゃないか! 採用だ!」
「ふもとに村があるよな。声をかけにいってみる?」
「アタシ呼んでくるよ!」
酔っ払いどもの行動を止める者は、もはやこの場に存在しない。
思い立っては吉日と、魔法使いはさっそく杖を構えて詠唱すると、瞬間移動魔法を発動して姿を消した。それは制御が難しい高等魔法なので、酔っぱらっている状態で唱えるのは危険だったりするが、四天王である彼女ならば問題なく使いこなすことができる。
それから彼女が戻ってくるまで二十分ほど。徒歩で帰ってきた彼女は、若者たちを十人ほど引き連れてきた。
「さあさ! みんな楽しもう!」
「えと、そこの方々はどちらさまでしょうか」
「私の友達! それなりに気さくでいいやつらよ! さ、飲みましょう!」
デカくて強そうな魔人と巨人がいるので村人たちはびくびくする。
が、三人から酒を投入されることで、村人たちはすぐに彼ら色に染まったようだ。
メンバーを倍以上に増員したことで、宴の賑やかさはさらに増す。
お花畑を絶賛散歩中の魔人が、不意に立ち上がって広場に立つと、拍手で皆の注目を集めてから宣誓のポーズをとった。
「一番バルドル! 火吹き芸します!」
芸の開始の宣言をするとともに、空に向けて大きな口を開けるとブレスを吐く。
ぽっと出る小さな炎、天を焼くような巨大な炎、ヘビのようにしなる長い炎と、様々なブレスを吹き分ける。見事な芸のキレに、さすがは魔人、炎の専門家サイコーといった歓声や指笛が飛んだ。
今度は巨人も芸を披露するべく前に出る。
「二番ラフレシアン、おもしろいギャグを披露するぜ! 西に住む魔法使いが最強の魔法を発明したってよ? さあ行こう。ギャアッハハハハー!」
こちらは完全に無視された。
膝をついて項垂れる巨人を気にかける者はいない。
一方アデアナは、和気あいあいとした宴の様子を見ているうちに参加したくなってきたようで、自室に戻って出かけるための身繕いを始めた。
まずアデアナとして外に出ると面倒が起きるかもしれないので、いつもとは違う人間に化けて顔を変える。それから外用の服に着替えて、髪を整えて、軽く紅を引く。これで準備完了である。
彼女は家の外に出る前に、棚と格闘しているクリスに声をかけた。
「ねえクリス。外がなんか楽しそうなことになってるし、私行ってくるよ」
「そうか。行ってらっしゃい」
クリスはアデアナのほうに振り向くことなく、棚とにらめっこをしたまま手をひらひらと振る。
その姿を見たアデアナは意味のない声をもらすと、確認するように声をかけなおす。
「クリスは行かないの? 外の人たち、もうクリスを説得するとかいった空気じゃないっぽいけど」
「今忙しいんでね」
クリスは淡々と言いつつ、赤毛をゆらしてリズミカルにヤスリがけをし続ける。
外から楽しそうに遊ぶ人々の声が届いてきているのに、彼の心はまったく波打っていないようだ。作業をする手を止める気配はない。
そっけない返事にアデアナは肩をすくめると、クリスを誘うことをあきらめて一人で家の外に出る。刻み足で酔っ払いたちの中に身を投じて宴に合流した。
「すいませーん、私もまぜてくださーい」
「おーこっち空いてるぜ!」
「料理がちょっと足りないわねえ。ちょっと買ってくるから待っててねー!」
アデアナが増えても誰も気にしない。彼らは楽しそうに笑いながら彼女に酒を勧める。
四天王も村人たちも、酒に脳をやられて正常な判断力を失っているらしく、変わらぬ調子で遊び続ける。そのおかげで彼女は自然に宴に混ざることができた。
「おう、この酒すげー上品な味だなあ。こんなの作るだなんて、すげーじゃねえが魚くん!」
「ふふん、このボクの新作の素晴らしさを、その身に刻んでふるえるがいいさっ!」
水汲み小屋から出てきた水の精霊ミズフィーちゃんも宴に混ざって、魔法で作った酒を皆に振舞っていく。そして味を褒められては気取った感じで胸っぽいところを張る。
宙にふよふよ浮かぶ妙なフナがいるのに違和感を持つ者はいない。もう誰でも飛び入り参加良しの空気である。魔王や王様だって参加できるに違いない。
「はっはっはっはっは! それでよう、俺たちは邪神が差し向けてきた軍から町を守るために戦ったんだ。俺たちの軍が三百に対して、相手はなんと百万! 絶望的な戦力差だったんだが、俺たちは地の利を活かすことで互角以上に戦って……」
四天王は十数年前の大戦時代の武勇伝を語る。ド田舎暮らしで娯楽に飢えてる村人たちには大うけだ。
「それでよう、森のオオカミの群れのど真ん中に飛び込んでいって、それをちぎっては投げそれをちぎっては投げ……」
村人たちも様々な自慢話や打ち明け話を語って、参加者に興奮と笑顔を提供する。
そんな感じでひたすら飲んで、話をして、飲んで、話をして、飲んで、話をしてと、盛り上がりの連鎖は留まりを見せない。
一時間経っても、二時間経っても、明るく楽しげな騒ぎ声が途絶えることはなかった。
宴が終わったのは、太陽が西の彼方に傾いて、空が夕焼け色に染まった頃だった。
鳥たちはねぐらに帰るために山へ飛来してきて、どこか寂しげな音色の鳴き声を交わしている。もう少しすれば夜のとばりが降りてくるだろう。
「あー、楽しかったなー」
「急に呼ばれたときはどうかと思ったけど、こういうのもいいなー」
村人たちは皆満足そうな顔をして、フラフラした怪しい足取りでふもとの村へと帰っていく。一部頭を抱えている者や、まともに歩けない者がいたが、仲間同士で協力して支えあっていた。
「うむ! 今日は実に楽しかったな! ラフレシアン、よくやった! 今日は大手柄だな!」
「ふへへ、さすがだよな俺」
「気持ちわりぃ……」
「アハハハッ、今日は楽しかったわねー! ウフフフ! また! ウフフフッ! 宴会しよう、ねー!」
律儀に後片付けを済ませた四天王も、村人たちのあとに続いて山を下りていく。
彼らはもともとクリスを説得しに来たのだろうに、飲んで騒ぐだけで満足して帰っていってしまった。
一人残されたアデアナは、小さくなっていく四天王の背中を見て、なんともいえない微妙な顔をしてつぶやく。
「……あの人たち、結局なにをしに来たんだろう」
彼女の疑問に答えるものはおらず、その声はむなしく虚空に溶けていくだけだった。
アデアナは風に当たって熱を冷ましたあと、背伸びをしながら家に戻る。
「ただいまー」
彼女が家に入って早々、クリスが自信ありげに抱え持つ棚を見せつけてきた。
「お帰り。見ろ、新しい棚だ。やーっといい感じに仕上がったぞ」
「ずっとそれ作ってたの!?」
アデアナは驚き呆れて目を丸くする。
クリスは外のどんちゃん騒ぎを聞いていたにもかかわらず、ひたすら作業を続けて、ついには棚を完成させてしまったらしい。
付き合いが長いはずのアデアナでも、彼の異常な精神的タフさには驚嘆するほかないようだった。
村は今日も平和である。